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残念なお知らせです。A



「お弁当、切島君が持って来てくれたってマジ?」

「そうだって言ってんじゃん。もう三回目だよ、その質問」


まじか。三回も同じ事聞いてたの?めちゃ鬱陶しいね、私。そりゃ呆れた顔もするよね。ごめんね、三奈ちゃん。

いやでもさ、いまだに信じられないんですよ。切島君が、自分のお昼休みの時間を削って、わざわざ私のお弁当をこんな遠い中庭にまで届けてくれるなんて・・・!誰も予想出来ない事ですよ!しかも!なんかジュースの差し入れまであるし・・・!!

なんなの彼は。切島君の気遣いが半端ない。控えめにいって大好きです。優しいが過ぎる。え?まじで優し過ぎて泣きそう。泣いてる。心が。


「え、大好き・・・」

「知ってるー」

「このジュースは飲まない。永久保存する」

「えぇ?!せっかく貰ったんだから飲みなよ」

「飲んだら死んじゃう」

「毒でも入ってるの?それ」


入ってるわけないよ。好きな人から貰ったって事に意味があるんだよ。大事すぎて飲めない。初めての貰い物なのですよ。

・・・って、うわ、三奈ちゃん引いてる。ちょっとした冗談なのに。ちゃんと美味しく大事に大事に頂きますよ。安心して下さい。とりあえず写メだけは忘れないでおこう。


「目をキラキラさせながら貰った飲み物飲んでたよって言っとこ・・・」

「? ごめん三奈ちゃん。今なんか言った?写メ撮っててちょっと聞こえなかった」

「なんでもないよ!ほら、早くお弁当食べないとお昼休み終わるよ!」

「はーい!」


話しかけるの緊張するけど、ちゃんとお礼言いに行かないとな。頑張ろ。頑張れ、私。

心の内でそっと決意を固め、やっとの事でお弁当を食べ始める。その後、飲み物は大事に大事に、美味しく頂きました。









彼女は知っているのだろうか。教室から中庭の様子が見えるという事を。彼女の行動全てが、ここから全て丸見えだと言う事を。


「・・・可愛いよなァ」


ぽつりと。食べる手を止めて、中庭で楽しそうに芦戸と弁当を食べている彼女を見て、無意識に本音が漏れ出た。

そんな俺の独り言を耳聡く聞いた友人が、俺の視線の先を辿り、全てを察したのか。頬杖をついて菓子パンを口に入れる。


「やめとけって。お前には高嶺の花だぞ」


少し馬鹿にしたような、呆れた口調に思わずむっとする。


「・・・・・・なんでだよ」

「なんでって・・・、まず相手の顔が良い」


それは言われなくても分かる。クラス内でも彼女を美人だと褒める奴が結構いるし、俺もその意見に同意だ。友人の言葉に素直に頷く。


「話しやすい。良い奴。よく笑ってて可愛い」


それにも同意だ。休み時間に楽しそうに友人と話しているのをよく見るし、男女分け隔てなく朗らかに接している姿は好感が持てる。良く笑っているのも癒されるし、可愛くてずっと見ていたくなっちまう程だ。

美人で話しやすくて良い奴。そんなのモテない訳がねぇ。


「・・・まだ分かんねえの?」

「? 何がだよ」


中庭に向けていた視線を友人に向ける。
なんだその可哀想な人を見る目は。

眉を顰めて目の前の友人をジト目で見つめる。

さっきから何を俺に伝えてぇのか全っ然分からん。ハッキリと言って欲しい。じゃないと分かんねぇから。俺そう言うの鈍いし。

そしたら何故か盛大な溜め息を吐かれた。


「え、もしかして気付いてないとか?」

「だから何がだよ?」


分かんねぇから聞いてんだけど。

痺れを切らして話の先を促す。言いづらそうに一度口を引き結んでから、・・・気分悪くすんなよ?と前置きをし、重たげに口を動かして友人は話を続けた。


「春霞って誰とでも仲良く話すけどさ。お前と話す時は・・・、その、・・・なんつーか顔を顰めてる時が多いっつーかさ」

「あー・・・」


皆まで言わずとも察した。鈍い俺にでも何を言わんとしているのか、すぐに分かってしまった。


「まあ、気を落とすなよ。毎回たまたま機嫌が悪い時に話してるのかもしれないし!可能性は限りなく0に近いだけで、無理って決まってる訳じゃねーし!」

「へーへー。下手くそな慰めあんがとよ」

「切島〜!ごめんって!そんな拗ねんなよ〜!」

「拗ねてねーって!」


めちゃくちゃ申し訳なさそうに抱きつこうとして来た友人を片手で押さえ込んで、距離を保つ。

そっと静かに中庭を覗き見た。弁当を食べ終えたのか、行儀良く手を合わせご馳走様をして、弁当箱を片し始める。

そしておもむろに傍に置いてあった、俺が差し入れにあげたジュースを、両手で大事そうに持ち上げた。

キラキラした顔でジュースを大切そうに扱う姿に、ドキリとする。胸の奥を淡く締め付けられた気がした。ひとりでに眦が赤く滲む。

めちゃくちゃ嬉しそうに飲んでくれてる。ちょっと思う所があって急いで買って来たやつだけど、差し入れして良かったと、その姿を見て改めて安堵した。
何だか俺まで嬉しくなってきて、自然と笑みが綻ぶ。


事実、俺は本当に拗ねてなどいなかった。

自過剰だと思われるかもしれない。ヤバい奴だと思われるかもしれない。逆の立場だったら俺もそう思うし、頭大丈夫か?と心配する。

でも俺は知っているから。知ってしまったから。

彼女が、春霞佐保が、俺の事を好きだっていう事を。