出逢って即決
森や海での狩猟を生業として生きる民族・ヌイート族。オコタが暮らすのはヌイートの国の、4つある島のひとつでメイン島である、【デ・カカプ島】。
族長の長男であるオコタは、まだ12歳とはいえ、狩りの腕前は相当のもの。しかし、ヌイートの成人は15歳なので、オコタはまだまだ一人前とは呼ばれない。
その日、オコタは沖に出る船に乗っていた。
本来、成人を迎えていない者が、海を行く船に乗せられることはない。ヌイート族が住む島々の周りの海は、穏やかとは言いがたく、一人前と認められた者でなければ危険だからだ。
それなのにオコタが乗っているのは、彼が無断で乗り込んだから。
けれど、未熟なオコタはすぐに仲間たちから見つかってしまい、捕まるまいと逃げ回っていたらうっかり、船の外に投げ出された。
「!!」
オコタは泳げる。しかし波の高い海は上手く泳がせてはくれなくて、どんどん流されて、船から引き離される。
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「!」
意識が戻り、勢い良く体を起こす。
……オコタは、どこかの森の中で眠っていた。
ガサガサッ。
草むらが揺れ、とっさに弓矢を構えようとしたが、今の自分は丸腰。小刀もない。どうやら、装備品は海に流されたらしい。
ここでやられるのか、どう戦えばいいのか、あれこれ思案していると、草むらから現れたのは、幼い少女だった。
「あ! 気がついたんですね!」
パァッと花が咲いたような笑顔を見せ、少女は駆け寄る。
「……フィルドの、一族」
ヌイート族なら、12歳のオコタでも知っている。
白い髪に、白い肌に、金の瞳。これらの特徴を持つのは、ヌイートの国と対をなす位置にあるフィルドル島で暮らしている、フィルドの一族だ。
フィルドの一族は、ヌイート族にとっては神聖な存在。なんでも大昔にヌイート族の祖先が、「フィルドの一族を未来永劫護る」と誓約を立てたらしい。
「我らヌイート、フィルドの一族護る誓い、立てた。だが、そのヌイート、助けられた……」
護る側が護られる側に助けてもらったことで、オコタは己を恥じて険しい表情を見せる。
そんなオコタに対して、少女は穏やかに微笑む。
「気にしないで下さい。私は、あなたを助けられて良かったと思ってます」
「……!」
女神。
少女は自分よりも年下と思われるが、そう感じた。
「怪我がないか一応診てみましたけど、私よりおばあ様…族長様の方が色々詳しいから、その……村に一緒に来て下さい」
天使。
村へと続く道を歩きながら、オコタは少女から目が離せなかった。
フィルドの一族から連絡を受けたヌイート族が迎えに来るまでの間、オコタは少女と森へ行って薬草摘みに同行したりして過ごした。
少女の名前はユリノアで、族長である祖母の孫娘で、オコタより5つ年下の7歳。
そして何より、可愛い。
(ユリノア、可愛い。優しい。絶対嫁にする)
オコタ12歳。初恋の訪れである。