01
立花いづみは悩んでいた。
春組公演をなんとか終え、劇団の取り壊しを退けて余裕が出てきた今だからこそ考えてしまったのだ。この劇団には脚本を書ける人もいる。華やかな衣装をつくれる人もいれば、フライヤーやホームページをつくれる人もいる。そこでいづみは思った。
「音楽つくれる人、欲しくない!?!?」
夕飯のカレー(4日目)を食べ終え、劇団員が思い思いの行動をしようとした時である。
いづみは椅子から勢いよく立ち上がり、先述のとおり、自分の欲望を述べたのであった。
いづみの瞳は熱意にめらめらと燃えていて、立ち上がる際に上げた腕はまっすぐに伸びおり、彼女の意思の強さを主張していた。
一方の劇団員たちはというと、唐突に発された彼女の願望にぽかんと口を開け呆けていた。
「いきなりだね…」
「音楽!いいですね!」
「そりゃまあ自分たちの音楽があるんだったらいいなとは思いますけど…」
「燃えるアンタ、かわいい…」
「オ〜!吟遊詩人、ワタシも前々から欲しいと思っていたヨ!」
「なるほど…DPSを上げたいってことね」
「ゲームの話やめてください!!」
驚く者、賛同する者、ふざける者など色々いるが、それもすべて想定内である。ただし真澄、テメーはだめだ。そもそも5人中3人がふざけるってどういうことだ。頬を染め上げ、じっ…と見つめてくる真澄を流しつつ、いづみは話を続ける。
「前々から思ってたの、自分たちの音楽つけたいなーって」
「確かに、クラシックとかフリーの音源使ってましたけど、しっくりはこなかったッスもんね」
「でもあれはあれでよかったと思います!」
まともに会話を続けてくれるのは、最後の良心・佐久間咲也と、我らが常識人・皆木綴である。それも、想定内である。
「ということでね、誰か音楽やってる人、いないかな」
「流石にそう都合よくは出てこないでしょ、今までが皆タイミング良すぎたんだって」
ゲームを進行しているであろうスマホを真剣にいじくりながら、茅ヶ崎至が返す。正論ではあるが、結わえた前髪に妙にいらっとくるものがあったので、いづみは頬っぺたを3回ほど指先で強めに突いてやった。それを羨ましそうに眺めているサイコストーカーはスルーである。
う〜ん、やっぱりそう簡単には見つからないかあ、といづみは苦笑を浮かべた。
今まで幸いなことに、フライヤーの三好一成に始まり、衣装係の瑠璃川幸、大道具の岩井鉄郎などとんとん拍子で見つかっていただけに、作曲できる人間も、実はもしかしたら近くにいるのではないか、と淡い期待を浮かべていた。現実とはかくも厳しいものである。
「ワタシの国お抱えのオーケストラ連れてくるヨ!」
「シトロンの出自マジ謎過ぎ」
「あ!そういえば真澄くんは?真澄くん、普段から音楽聴いてるし、作曲とかできない?」
「俺は聴いてるだけであってつくれはしない」
「咲也無茶ぶりワロタ」
わいわい飛び交う議論は脱線をした後、いつものごとく収拾がつかなくなりそうだったので、楽しそうではあるが一旦区切りをつけようといづみは口を開いた。
「とりあえず私の方で探してみるよ、もしみんないい人見つけたら教えてね」
「すみません、力になれなくて」
「ワタシ、責任とって切腹するヨ!」
「シトロンさん!!それはやめて!!」
「シトロン激重」
「三好くんとかにも聞いてみるね!!あの子人脈広いし、見つかるかも!!」
予想外のシトロン切腹発言により、なんだか変なテンションで会話をぶった切ってしまったが、作曲家捜索会議はひとまずこれでお開きとなった。
はずだった。
「あの」
ぽつりとこぼれた声の主に視線が集中する。
5人分の視線の先には、注目され戸惑いから眉を下げている綴がいた。そういえば、いつもならばキレッキレの綴のツッコミが響き渡っていたものだが、あの変てこりんな会話に珍しく参加していなかった。そう、彼はずっと何かを考え込んでいたのである。
綴は頼りなくうろうろと視線を彷徨わせた後、少し覚悟を決めた顔をした。
「俺、作曲できるかもしれないやつ、知ってるっす」
綴の台詞が終わるか終わらないかのうちに、皆で胴上げをした。
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