この永遠の行く先を綴る





無色の風が木々の間を通り過ぎて、ざわざわと囁き合っていた。落ちかけている日が、柔らかく地面を照らし、木々のまばらな影を映し出していた。私が立っている近くを数名の小学生が走って通り過ぎていく。きゃはは、と響く笑い声は、不思議と懐かしかった。ふと、子供の頃の自分を思い返す。幼なじみの空却とは、よく外を駆け回って遊んでいた。……とは言っても実際には、空却が私の大切なキーホルダーやらシャーペンやらを盗み取り、私が泣きながらそれを必死に追いかける、という今思い返せばほとんどいじめみたいなものだったわけだけど。

「つーか……暇だな……」

人が思い出を振り返るのはどういう時なのか、相場は決まっている。暇な時だ。私は、あり余る時間をただ潰すべく、懐古に勤しんでいるにすぎなかった。
本日何百回目だろうか。腕時計を見た。時刻は16時を回っている。道理で、下校した小学生が通り過ぎたわけだ。はあ、とこれも本日何百回目かのため息をついた。おかしいな。私がここに立ち始めた時、一日の始まりを賛美するかのように日は高く、もちろん小学生は学校に行っている時間だった。待ち合わせ時間は13時。現在は午後16時。見事に、3時間の大遅刻。現時点で連絡も何もなし。電話をしても繋がらない。

「はあ……」

本日、多分1000回目くらいのため息が漏れた。もちろん、空却が遅刻してくること自体は珍しいことじゃないけど、さすがにここまでの遅刻は初めてだ。せっかく今日は珍しく晴れていたのに、日中の時間を無駄にしてしまったことが悔やまれた。


「……名前……?待った……よな……?」

こわごわと。背後から声を掛けられたのは、それから更に30分後のことだった。私は思わず、まじまじと空却の顔を見つめてしまう。それから、何か言おうと思ったけど、怒ればいいのか、笑えばいいのかわからなくて、乾いた喉から「く、くーこ……?」という縋るような声だけが絞り出された。

「ギャハハ!いや、まさかまだここにいるとは思わなかったぜ。ったく、こんな所で馬鹿みてーに突っ立ってねーで、どっかで座ってりゃいいのによ、くそ真面目に立ってやがって。おら、とりあえずこれ飲め、そんで座れ」

空却は早口で言って私を近くにあったベンチに座らせ、スポーツドリンクのペットボトルを差し出してきた。私はそれを黙って受け取り、ぐび、ぐび、と飲む。半分ほど飲み干したところでキャップを閉めて返却すると、空却は、ふう、と安堵のようなため息をついた。

「落ち着いたか」
「うん…………ていうか空却?」
「あー、わりーわりー、すっかり忘れてた。別の用事済ましちまってた」
「3時間半、待ったんだよ?!」
「だから、わりーと思ってるって。詫びに、何か奢っからよ。こんだけ待たされりゃ流石のお前も怒……」
「心配したんだよ?!」

私が叫ぶように言うと、空却は驚いたように口をぽかんと開けて、それから天を仰いだ。「あ?」と聞き返されて、私は「本当に心配したんだよ……」と繰り返す。

「だって、さすがの空却もこんなに遅れるなんて珍しいし、電話も繋がらないし、何かあったのかなって思っちゃって。事故に遭ってたらどうしようとか、不良に絡まれて困ってたらどうしようとか、色々考えだしたら止まらなくなっちゃって」
「おいおい、そんな大袈裟な……」
「もしスマホが壊れて連絡がつかないんだとしたら、この待ち合わせ場所に私が居た方がいいかなって思って、動くわけに行かなくて、ずっと待ってたんだ。……だから、空却が来てくれて、安心、した。無事で本当によかった……」
「……そーかよ」
「あ、もちろん怒ってはいるからね?!何か奢るって話消えてないからね?!」

付け加えると、空却は「そりゃそうだよなぁ」と言って笑った。この笑顔を見るだけで、全身の力が抜けていくようだ。空却に何かあったかと気が気でなかった3時間半、生きた心地がしなかった。誤魔化しに景色を見てみたり、昔を思い出してみたりしたけど、心はずっと上の空で、時計とスマホばかりを気にしていた。この心配の気持ちと時間を返せ!と怒りたい気持ちも十分あるのだけれど、待ち合わせ場所に現れた空却の焦った顔と、明らかに走ってきたのであろう息づかいを思い出すだけで、まったくしょうがないと許してしまえるのだから、私はとんでもなくばかなんだろうなぁ、と思うのだった。



2025/8/14
title by Garnet

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