中3の5月。ゴールデンウィークを過ぎて、みんな体育祭の準備とか、受験勉強とかを始めた頃、みんな少しずつ新しいクラスに馴染み始めた頃だと思う。私はそんな中途半端な時期に、ここ並盛中学校に転校してきた。
「イタリアから来ました。苗字名前です。よろしくお願いします」
クラス中が少しざわつく。イタリアからの転校生なんて、そうそういないだろうから無理もない。『イタリアのどこから来たの?!』『か、かわいい・・』『彼氏いるのー?!』なんて質問を愛想笑いをして適当にごまかしつつ。私はクラス中を見渡した。
(当たり前だけど・・・ここには私を邪魔するやつはいなさそうね)
平々凡々なクラスメイトたち。おかげで、私は何の苦労もなくミッションをこなせそうだ。
・・・・この時の私は、気付いていなかった。
教室の中、1つだけ空席があったということに。
そしてその席の主、雲雀恭弥は、私にとって最大の敵になる、ということに————
*
裏情報を集めるため学校をサボって街の裏路地に入ろうとしたところで、柄も頭も悪そうな数名の男が目の前に立ちふさがった。
・・どうやら、新顔の私が裏路地に入ろうとしたから、目を付けられたらしい。
「お嬢ちゃん、見ない顔だなぁ?」
「この先がどんな場所かわかってんのかぁ?」
「そんな可愛い顔してっと、パクっと食われちまうぞ?!」
ギャハハ・・と下卑た笑い声を上げる男たちを前に、私は愛銃に手をかける。
どうしようか・・ここでこいつらを殺すのは簡単だけど平和主義者の名前ちゃんそんなことできない(嘘)ってゆうか日本で銃なんか使ったら普通に警察沙汰になって確実に面倒なことになってしまう。
日本って何で銃規制社会なのっと今更ながらに恨む。
「怯えて声も出ねえか?」
「っていうか、こいつ、よく見ると結構可愛いぞ・・・。俺たちでもらっちまおうぜ」
「よっしゃ。お嬢ちゃん、大人しくしてれば痛くないぜ・・・———ふごっ?!」
「「「あ、兄貴ィィィィィ!!!!」」」
「・・・あら、ごめんなさい。功夫(クンフー)は覚えたてだから、手加減が出来ないの」
こいつらの話を全部聞いてやるほど、私は気が長くない。
リーダー格と思われる人間を瞬時に見極め、そいつの顎に蹴りをお見舞いしてやった。
「ふん、他愛もない」
不格好に逃げていく男たちを見ながら、そう吐き捨てた。
———その刹那。
「誰っ?!」
「ワオ。僕の気配に気付くとはね」
そいつは学ランを着て、悪魔のような笑みを浮かべていた。手に持ってるのは・・トンファー?
「あんた・・・誰?」
「僕のことを知らないなんて、マフィアの情報網もたかが知れてるんだね」
「・・・随分自信がおありですこと」
つい強がったが、今回私が雇われたファミリーは弱小マフィアで、情報網なんて全くと言って良いほどない。ほとんど情報も持たず、ただ『ボンゴレの10代目暗殺』とだけ言われて日本までやってきたのだ。
しかし、こんな極東の小さな島国に、こんな殺気を放つ人間がいるとは・・。
「キミを知ってるよ。苗字名前だね」
「なっ・・・何で知って・・・」
「キミ、クラスメイトの顔も覚えてないわけ?」
・・・・へ?
「く、クラスメイト?!」
「そうだよ。キミ、うちのクラスの転校生だろう?今は授業中のはずだ。サボりとは感心しないね」
それはあんたもでしょ!・・・というツッコミは心の中でしておく。
「ただの中学生が、こんな殺気…ありえない!」
「僕はただの中学生じゃないよ」
「な、何者なのッ!?」
どこかのマフィアの雇われヒットマン?!
はたまたマフィア英才教育を受けた御曹司?!
「風紀委員だよ。しかも委員長だ」
ガクーッ!!!!
私はそりゃもう盛大にずっこけた。
これが、私と雲雀恭弥の出会いだった。
*
それから、私は必死の思いでボンゴレ10代目についての情報、そして並盛中風紀委員の情報をかき集めた。
とは言っても、中学生として並盛中に馴染むことも怠れない。つまり、毎日学校には通っているのだが、そこにはそう、”クラスメイト”の雲雀恭弥が、いる。
「うう〜、調子が出ない・・」
「何?僕に文句でもあるの?」
授業中でもいつでも、こんな鋭い殺気を垂れ流されちゃ、調子も出ないに決まっている。
「(コイツぬけぬけと・・・!)そんなこと言ったって・・・目の前にこんな殺気を垂れ流してる守護者がいたら、仕事もはかどらないし、憂鬱にもなるって」
「別に、僕は守護者なんてつもり全然ないけどね」
そう、この雲雀恭弥は、よりにもよって暗殺のターゲットの雲の守護者だったのだ。
こいつが何を考えているのか全然読めないけど、こいつが本気を出したら私は多分、負ける。
つまり、私の暗殺の仕事はここで失敗に終わったようなものだ。
「はあ・・・これで報奨金もパーか」
「何、金目当てだったわけ」
「そりゃそーでしょ。そうでもなきゃ、こんな割に合わない仕事受けないっつーの」
「ふうん・・・だったら」
雲雀はニヤッと妖しく笑った。どこか艶めかしく美しい瞳に、吸い込まれそうになる。
「僕の所で働きなよ。金は出す。・・・拒否権はないよ」
「・・・・・・は?!」
こ、こいつ、今何て言った?!
「僕は群れる草食動物が嫌いなんだ。見つけたら即咬み殺す。・・・・君は、『こっち側』、だろ?」
ハッと、息を、飲んだ。
雲雀の瞳は、こちらを見据えている。
マフィアの抗争が特に激しい貧民地区で私は生まれ育った。
物心が芽生えた頃には、家族なんて物はいなかった。
生き延びるためには、盗み、殺し、売春、なんだってやった。
それが私の生きる術だったのだ。
私を助けてくれる人なんて、誰もいなかった。
一人、生き抜いていく。そう、決めた。
そんな私を、イタリアンマフィアの連中は買ってくれた。
だから、今では誰かと協力するということのメリットも分かっているつもり。
でも・・・時々思い出す。あの頃の、焦燥、怒り、悲しみ、そして・・・孤独。
孤独が、私を、強くするのだ。
「強者はいつも孤独だ」
雲雀は、私の本質を、いとも簡単に見抜いてしまった。
私は悟った。私の孤独を理解するのは、同じ孤独を持つもの・・・つまり、雲雀しかいないんだろう、ということに。
「・・・・わかった。いいよ。あんたの風紀委員で働く。その代わり、報酬はたっぷり頂くからね」
「もちろん、その分働いてもらうよ」
「当然でしょ?こっちはプロなのよ」
軽く笑ってみせる表情とは裏腹に。
私は今にも泣き出しそうだった。どうしてこの人はこんなにも、
「さ、ぐずぐずしてないで行くよ。今日は草食動物の群れがうじゃうじゃいるんだ。早いところ咬み殺さなきゃいけない」
「ちょ、ちょっと待って——」
雲雀と同時に立ち上がる。
やっぱり、雲雀恭弥は私の最大の敵だ。
だって、私から強さ、つまり孤独を奪ってしまったのだから。
孤独のかわりに宝石を。
(きらきら、きれいなの。怖いくらいに)