※死ネタ注意


「……は、なに言って、ん、だよ」
「死ぬの」

さらりとごく自然に「死」という言葉を口にする彼女は、とても、美しかった。

「死・ぬ……?」
「そう、私は、死ぬ」
「……そりゃ、さ。いつかは人間死ぬって……」
「そうじゃなくて、多分、そのうち私は死ぬ」

多分、なんて曖昧な言葉を使いながら、口調はハッキリと断定していた。『死ぬ』と。

「なんで、だよ、名前」
「あのね、ディーノ。アポトーシスって知ってる?」
「……アポトーシス?」
「プログラムされた細胞死。その細胞は死ぬことによって、その後の全体の形成に貢献する」
「おい、なに言ってん、だよ。プログラムされた、って」
「これは例えよ。でも、この世にもし神様がいるのなら」

そのくらいプログラムされてても、可笑しくはないわよね。 そう、名前は笑って言った。

「だって、全体に貢献って……そんな、名前。俺は、名前が死んだら、泣くよ」
「そのディーノの涙も、全体の貢献になるのかもしれない、わ。そうしたら間接的でも私は全体に——キャバッローネに、貢献したことになるでしょ」
「そんなこと言ったって名前、俺は——」

全体の為じゃなく、名前、お前の為に泣きたいよ。

「さようなら。ディーノ、愛してる」
「お、おい、名前……!」


***


「嘘、でしょ、そんな、名前ちゃんが死ぬなんて」
「なんでよ名前!名前!」
「名前が、死んだ?」

俺は、涙を流すこともできなかった。 全体はおろか、名前への貢献にも、なっていないのかもしれない。

「ディーノさん」
「……ん?」
「なぜ、名前は死んでしまったんですか……?」
「ああ、ツナ、それは、」


アポトーシス


それでもあいつの全ては俺の心に残っている。






▽ ▼ ▽

私たちは逃れられない運命に向かって歩んでゆく。絶望も、希望も、胸に宿しながら。
でもみんな、いつかは死んでしまう。そうして世界は循環していくのだ。
……そんなことを考えながら。短いお話にしてみました。

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