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(2020/5/27-2020/12/20)

指先から恋が始まる/九条天(i7)
甘酸っぱい嘘つき/七瀬陸(i7)
恋は砂糖でできている/雲雀恭弥(Re!)
はにかみを数えて/六道骸(Re!)
片思い卒業記念/及川徹(HQ)


























指先から恋が始まる/九条天(i7)


「綺麗な、指」

つい口から漏れて、慌てて手で押さえた。
先輩の助手としてヘアメイクに入ったら、そこに居たのはあの九条天だった。テレビで見るのと同じ、いや、テレビで見るよりももっと、お人形さんのような、完璧な美がそこにはあった。先輩に促され、助手として隣につく。ふと目に入ったのは、ピアニストのような、強く逞しく、そして畏ろしいほどに、美しい手だった。彼は、私が漏らした言葉にぴくりとも反応せずに、ただ真っ直ぐ前を、鏡に映る自分を見ていた。
全ての作業が終わり、彼がメイク室を出て行く。ぺこりとお辞儀をする私の目の前を通るとき、彼は確かに静かな声で言った。

「指だけ、じゃないでしょ」







甘酸っぱい嘘つき/七瀬陸(i7)

初めてのデートだ。初めての、デート、だ。年甲斐もなくはしゃいで、前日の夜は眠れなかった。目覚まし時計よりも、30分も早く目が覚めてしまった。手作りのお弁当を持ってピクニックだなんて、絵に描いたような、少女漫画みたいな、初デート。楽しみでしょうがない。気合いを入れて、たくさんおかずを作って詰め込んだ。料理はそんなに得意じゃないけど、我ながら、結構美味しく出来たんじゃないかな。一番の力作は、ラタトゥイユだ。料理本とか、クックパッドとか、YouTubeとか、色んな作り方を見て研究した。
お昼になって、お弁当を広げる。ラタトゥイユを頬張る陸君を、じっと見つめる。

「お、美味しいねー、これ、ピーマン、かな……?」
「パプリカだけど……もしかして苦手だった?」
「ううん!そんなことない!すっごい美味しい!キミが作ってくれるものは、何だって美味しいよ」

きみは優しいね。優しい、嘘つきだ。次作るときは、パプリカ抜いて作るからね。







恋は砂糖でできている/雲雀(Re!)

「珈琲」
「私はクリームソーダ!」

雲雀君はそれを聞いて、うへぇとでも言うような顔をした。雲雀君は甘い物を飲んだり食べたりしない。甘党の私が甘い物を摂取しているのを、いつも顔をしかめて見ている。私からしたら、雲雀君がいつも飲んでいる珈琲なんて苦くて飲めたもんじゃないし、甘い物の方が美味しくて可愛くて優しいのに、と思うのだけれど。

「雲雀君は、甘い物食べないよね」
「口に合わないんだよ。それに——」

クリームソーダに載っていたサクランボを、雲雀君は勝手に取った。そして勝手に、私の口に押し込んだ。

「キミを食べればじゅうぶん甘そうだ」







はにかみを数えて/骸(Re!)

「骸って、顔はいいよねぇ」
「……何ですか、突然」
「あと、声も良い声」
「馬鹿にしてますか」
「背も高いし」
「変なものでも食べましたか」
「賢いし強いし」
「僕明日病で死ぬとかですか」

骸はハァと溜め息をついた。人が誉めてるのに失礼だな。心なしか、苛立ったようにも見える。眉を寄せ、眉間には皺が刻まれている。でも私は知っている。これは怒っているのでも、困っているのでもない。

「骸が好きってことだよ」
「……今日は雪ですかね」

はにかんで、いるのだ。解りづらい人。愛おしい人。







片思い卒業記念/及川(HQ)

「……好きでした。さようなら。では」

これは自分を供養する儀式だ。大人になるための通過儀礼と言ってもいいかもしれない。高校3年間を、報われない片想いに捧げた私への、せめてもの弔いだ。それを卒業式という日にわざわざ行うのだから、随分律儀な話ではないか。しかし、今日をその日に選んだのは、突然告白を告げられた目の前の男、すなわち及川徹には不都合だったらしい。

「ちょっと待ってよ、何で今日なの?」

立ち去ろうとした私の手を彼が掴む。微笑んでいる彼のブレザーを見ると、ボタンは一つも残っていなかった。

「ね、折角付き合い始めるのに、明日から授業ないね」




2020/12/20
title by 確かに恋だった

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