※真名バレあり































「おー、おかえりマスター」

今日は久しぶりにゆっくりと漫画を読んで過ごそうと心に決めていた。シミュレーターでの戦闘を終えて、シャワーを浴びて、髪を拭きながらシャワールームから出てきたら、……そんなまさか。燕青が私のベッドに勝手に寝転んで、私の漫画を読んでいた。(読み途中のページわかるようにしてたのに!)

「……なんでいるの」
「そんな連れないこと言うなよぉ」
「鍵かけてたよね?」
「鍵なんてどーとでもなるって」

不法侵入だ!お巡りさん、こいつです!と叫びたくとも、このカルデアに警察組織はない。まったく、一体何回このやりとりをすればいいのか。でも、何度言ったって聞かないのがこの男なのだ。最近は半ば諦めてしまっている私にも、多少は問題があるのかもしれないが。

「そんな乱暴に髪拭くなって、いっつも言ってるだろォ?」
「めんどくさいんだもん」
「ほら」

こっち、と促され、ベッドの縁に腰掛ける。私の手からバスタオルを奪い取ると、ボサボサに広がった髪を丁寧に梳き、バスタオルで優しく水分を取っていく。頭を撫でられているような感覚に、ふわ、ふわ、と、意識が遠のいていく。

「うんうん、眠いよなぁ。ごめんなマスター、もーちょっと我慢な?」
「……ん」
「良い子良い子。乾かし終わるまであとちょっと、待ってろよぉ」

いつもは五月蠅いドライヤーの音さえ、不思議と心地良い。髪を通す燕青の指は、闘っているいつもの姿からはどうやっても想像もできないくらい、酷く優しくて。

「はいよーできたぜ」
「……ん。ありがと、えんせー」
「ったく、しょうがねぇマスターだなぁ名前は」

重たい瞼をなんとか少し開けて振り返ると、嬉しそうに目を細めた燕青が、ぽんぽん、と私の頭を撫でた。そして、するりと頬に触れ、目を閉じて、それから——

「ちょ、ちょちょっ、燕青、なにしてんのよっ」
「……あちゃ〜、駄目だったかあ」

咄嗟に手で口元を押さえると、哈哈と満足そうに離れる顔。拒んだのに、あんたはどうして、そんなに嬉しそうなのよ。そう問いかけると、「わかってるくせに」とまた満足そうに目を細めた。そう、本当は、ずっと前からわかってる、そんなこと。

「ほら、明日も早いんだろォ。俺は退散するから、ゆっくり寝ろよ?」
「あんたのせいでゆっくりできなかったんだけど」
「でも嫌いじゃないだろ?」
「……うるさいなぁ」
「ほら、布団、俺が暖めといてやったから、あったかいぜ」
「頼んでないし」

布団を掛けてくれる燕青の手はやっぱり優しくて。触れる熱はまるで、生きている人間のそれと何一つ変わらなくて。たまに彼が人理の影法師だということを、この暖かさが、いつか、いつか消える泡沫の幻だということを、忘れてしまいそうになる。

「あーー、はやく俺の物になればいいのになぁ」

私の前髪を少しかき分けて、額にキスをひとつ落とした。



ゆめうつつの随に





2021/1/3
title by プラム

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