終わりの見えない戦いだった。それでも、いつか終わりはやってくる。銃撃戦の音が止み、私はまっすぐにスクアーロのもとへと走り寄った。堂々と戦場に立つ彼は、凛と咲く花のようで、冷たい墓標のようでもあった。

「スクアーロ……!」
「う"ぉおい、名前、お前……!」

スクアーロは振り向いて、驚いたように私をじろじろと眺めた。私は返す言葉もない。こんなとき、どうして、イタリア語が母国語じゃないんだろう、と思ってしまう。日本語なら、沢山の言葉を使って、繊細に、心のうちを伝えられたのに。元々勉強が苦手な私が、ひいひい言ってなんとか覚え、日常会話が精一杯のイタリア語じゃ、今の気持ちを伝えるのは難しい。今の、スクアーロに、掛けてあげられる言葉は、ない。

「……えへへ」
「……何で笑ってんだぁ……」
「だって、スクアーロが無事で、嬉しかったから……」
「お前……何で……」

スクアーロが何を言いたいか、よくわかる。私の腹部には銃弾が撃ち込まれており、大きく血が広がっていた。素人目にもわかる、私は長くはもたないだろう。今日ここで、私の命は、終わるのだ。

「泣かないでよ、スクアーロ。あんたの泣き顔なんて、見たくないって」
「……泣くわけねぇだろぉ」
「うんうん、そうだよね。それでこそスクアーロだよ」

そっと、彼の胸にもたれかかった。そのまま、二人でその場に座り込む。もう足に力が入る気がしなかった。スクアーロは私を腕に抱えて寝そべらせ、顔を覗き込んだ。されるがままに、スクアーロに抱かれた私が彼の髪を撫でても、彼ははねのけなかった。いつもなら、『う"ぉぉい!触んなぁ!』って言って、めちゃくちゃ怒られるのにな。スクアーロは従順な猫みたいに、私が撫で続けるのを受け入れていた。艶々で、真っ直ぐの銀髪に、指を滑り込ませる。スクアーロは私にないものを全て持っていた。

「……許さねえ」
「ん?」
「勝手にいなくなるなんて、許さねえ。お前は俺の言うことを聞け。命令を聞け。勝手に死ぬな、クソ女」

スクアーロの命令や脅しなんて、全然怖くない。ザンザスの恫喝とも言えるような命令とは比べものにならない。それでも、スクアーロはいつも私に命令をした。どこへ行けとか、あれを取れとか、それをしろとか、こっちに来い、とか。私の答えはいつも『NO』だった。『可愛くお願いしてくれたら、聞いてあげる』、そう言うと、スクアーロは眉を思いっきりひそめて、『んなことするかぁ!ボケェ!』と耳を真っ赤にしながら言い、その可愛らしさに負けた私が、彼の命令という名のお願いを聞いてあげていたのだ。

「……命令するなって……いつも、言ってたでしょ……?」
「うるせえ」
「……可愛く、お願いしてって、言ってるのに……」

だんだんと息苦しくなってきて、上手く喋れなくなってきた。出血が多すぎたのか、目が霞む。気付けばいつのまにか辺りは暗くなっていて、すぐ近くにあるスクアーロの表情が見えるか見えないかの明るさになっていた。ああ、寂しいなあ、と思う。もうこの顔を見られないし、この髪を撫でられないのだ。

「頼む」

スクアーロは絞り出したみたいに、嗄れた声でそう言った。もう一度、「頼む」、そう言って、スクアーロは目を伏せる。

「お願いすれば、聞いてくれるんだろ?」
「……うん。でも、今回は、むり、みたい」

もう、微笑むエネルギーくらいしか残されていないようだった。ごめんね、ごめんね、スクアーロ。イタリア語で、そう言えたなら。ありがとう、さようなら。愛してる、と、言えたなら。

「Sei nel mio cuore」

えへへ、と笑いかけて、私は目を閉じた。スクアーロも、私の心の中にいる。だから大丈夫。そう、思いながら。


Sei nel mio cuore


(あなたはわたしの心の中にいる)

2021/4/24

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