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(2020/12/20-2021/9/18)

黒尾鉄朗(HQ)
夢野幻太郎(hpmi)
二階堂大和(i7)
六道骸(Re!)


























黒尾鉄朗(HQ)


「オハヨーさん」

ひらひらと手を振って挨拶をする背の高いこの男は、偶然同じ高校出身で、偶然同じ大学で、偶然同じ学科、偶然全て同じ講義を取って、偶然同じサークル、偶然同じゼミ、偶然同じバイト先、偶然、偶然、偶然……って

「んなわけあるかっっ!このストーカー!」
「あはは!俺ってホント健気ダヨネー」
「もー、流石にあんたの顔は見飽きたってーの」
「……そんなこと言って。本当は毎日俺と会えて嬉しいんでしょ」

毎日毎日同じやつの顔を見てれば、当然愛着が沸いてくる。……本当、こいつは健気なストーカーだし、私は大馬鹿者なのだ。

「……あんたって、本当ずるいよね」
「ずるい人が、好きなクセに」

ああ、ずるい。







夢野幻太郎(hpmi)


真っ黒なコーヒーに、白いミルクをたっぷり落としてかき混ぜる。そんな動作を見つめていると、まるで催眠術にかかったかのようにとろりとした眠気が襲ってくるようだ。そんな私に気付いてか否か、夢野先生はにっこりと嘘くさい笑顔を私に向け、ミルクたっぷりのカフェオレを差し出してきた。

「はい、どうぞ。もう少しお待たせすることになると思います故」
「あ、いえ、お構いなく。お待ちするのも私達編集者の勤めですから」
「おや、小生の淹れた珈琲はお口に合わぬと仰りますか」
「いっ、いえっ、いいえっ!頂きます!もちろん頂きます!」

すぐさまマグカップを受け取り一口頂く。夢野先生は満足そうに笑い、再び文机に向かった。そのまま、ぐるぐると回り続けるコーヒーの表面を見つめる。

「ああ、言い忘れていました。その珈琲には、まじないがかかっているのですよ」
「へっ?」
「貴女が、小生のことを好きになるように、と」
「え、あ、あの……」
「ふふ。嘘ですよ」

心臓に悪すぎる笑顔を、惜しみなく振りまく。嗚呼、夢野先生。そのまじないは、意味がありません。私はもう、夢野先生に心から惹かれてしまっているのですから。







二階堂大和(i7)


「……大和先輩の腹黒。意地悪。いじめっ子」
「はーいはい。何とでも言ってください」

12月。何か理由があれば飲み会を開きたい学生達にとっては大変好都合な季節だ。私が所属するゼミもご多分に洩れず、忘年会を開催した。した、のだ。ただし、そこに私はいなかった。

「私、私、今日が飲み会だって思って、楽しみにしてたんですよ。まだ未成年だからお酒飲めないけど、でもゼミの先輩方とか先生と仲良くなるチャンスだと思ってたんですよ。なのに……なのに……!」
「ゼミ飲みは昨日で、時既に遅しだった、と」
「先輩のせいじゃないですかー!」

先週、私は風邪を引いて、ゼミを休んでしまったのだ。だから、飲み会があるという話は聞いていたけど詳しい時間や場所は知らされていなかったのだ。そこでゼミ長である大和先輩に尋ねると、先輩は快く日付と場所を教えてくれて、私は何て親切な先輩なのだろうと喜んだ。……それが真っ赤な嘘だと、露程も疑わず。

「それでのこのこ一人で俺が伝えた待ち合わせ場所に来たわけね」
「だって、飲み会があると思ってたから……っ!」
「ま、来なくて正解の飲み会もあるから」
「へ……?」
「あの教授、セクハラで有名。あと、俺以外の3年男子はみんな1女お持ち帰り目当てで来てるし、1年って女子お前さんだけだろ?……わざわざそんなオオカミの群れにお前を放り込むわけにも行かねーだろうが」

大和さんは寒そうに手をこすり合わせた。そういえば、嘘の飲み会情報を教えた大和さんは、なぜ今この待ち合わせ場所にいるのだろうか?もしかして、今日だと信じて疑わずにいた私を、ここで待っていて、くれたのだろうか。

「まーまー、立ち話もなんだし、すげえ寒いし、とりあえずどっか中入って話そうぜ」

寒いから、だ。たぶん。大和さんの顔が少し赤い気がしたのは。







六道骸(Re!)


「……何があったんですか?」

帰宅して開口一番、骸がぽかんと口を開けてそう言った。こんな顔の骸は滅多に見られない。それに骸は人の心配をするような殊勝な人格でもない。そんな骸が、私のことをまじまじと見て、心配そうに眉を寄せた。

「い、いや、ちょっと転んだの、階段で……えへへ」
「嘘ですね」
「ほ、ほんとだよ……ほら私、運動神経悪いし、」
「それ以上嘘を吐いても意味がないので本当の事を言いなさい」
「うう……」

実際は、仕事帰りに歩いている所を、敵対マフィアに襲われたのだ。残業が込んで、普段よりもだいぶ遅い時間になってしまったため、ひと気がなくなってしまったのが良くなかったらしい。いつも隠れて犬や千種が護衛として付いてくれていて、今日ももちろん二人が守ってくれたのだけれど、攻撃から身を守る際に受け身を取り損ねて、膝を見事にすりむいてしまったのだ。
事の顛末を説明すると、納得したように骸は頷き、奥の戸棚をごそごそと何かを探し始めた。

「だからね、大丈夫なの。犬と千種が守ってくれたし」
「……傷一つつけないで欲しいと、二人には頼んでいるはずですが。まあいい、あの二人にはよく言って聞かせます」

戻ってきた骸は、両手で救急箱を抱えていた。赤い十字が描かれた箱は、酷く骸に似合わない。

「貴女も貴女で、反省して欲しいですね。一人でひと気のない所を歩くなんて。……貴女は僕の、所有物なんですから」

そう言って、骸は優しく、絆創膏をぺたりと貼り付けてくれた。たぶん、この絆創膏は、骸の所有物としての証。傷を全て覆うように絆創膏を貼っていくと、成人女性にあるまじき、絆創膏だらけの膝小僧ができあがった。二人して少し笑ってしまう。この人の優しさはとても残酷だ。でも、こんな優しい人の所有物なら、悪くはないな、なんて、思うのだ。




2021/9/18

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