目が覚めたときには、並中でツナ達とご飯を食べながら、獄寺と言い争って山本と笑い合う、そんないつもと変わらない、平和な日常に戻っていて。
そう…あれは夢だ。
悪夢だったんだ。
…なんて、期待したあたしが馬鹿だった。
「……だから、どこなのよここは…っ」
さっきぶりに見た景色と同じ。
目覚めると目の前に広がる、そこは闇で。
デジャヴって言うんだっけ…?
そんなこと…もうどうでもいっか。
名前は絶望を抱きながら、手足を縛る鎖を見つめていた。
しかし、さっきと違うのは、あの男——六道骸——が存在しないことである。
名前が気を失っている間に姿を消したのだろう…
目の前に広がる闇には、六道骸の姿はなかった。
「そういえばあたし、なんで気を失ってたんだっけ…?」
ふと記憶を辿る。そして、あるひとつの"事象"へと辿り着いた。
「…、あ…///」
みるみるうちに顔が熱くなってくることに気づく。
そう。先刻、名前は憎い六道骸にファーストキスを奪われてしまったのだ。
…って、なんであたしが照れなきゃいけないのよ…っ!?///
あんなヤツ、ファーストキスに入んないし。
…などと、頭ではわかっているものの、熱くなる自身の頬を止める術など名前は持ち合わせていなかった。
(あたし…あいつのこと……?やだ…っ、そんなわけないじゃない…!)
名前は早くなる鼓動を無理やり落ち着かせ、なんとか冷静になる。
「…ぁ…そういえば…六道骸は今いないのよね…?」
名前はハッとした。
…逃げるには絶好のチャンスだ。
しかし、まずは手足を縛る鎖をなんとかしなくては。
そう思ったのも束の間…
「…っ…!…これで…よし…ッと!」
ガチャン!!!
鎖が大きな音を立てて床に落ちた。
名前は、命を狙われることが多いため、自身の制服の袖の中に武器を隠し持っており、
そのうちの一つ、強化金属で作られた針金のような武器を使って、見事鎖を外したのだ。
はたから見るとどのように外したのかなど検討もつかないが、名前に言わせればピッキングの要領だと言う。
「イタリア政府の隠し金庫の鍵に比べれば、こんな鎖…どうってことないわよ。」
名前は、イタリアで殺し屋として活動していた頃を彷彿とさせる冷淡な笑みを浮かべながら、次々と鎖を外していき…
「これで最後…ッ」
ガチャンッ!!
みるみるうちに全ての鎖を外してしまった。
「さぁ、早くここから脱出しないと…!」
しかし、長時間椅子に縛り付けられていた名前の足は、なかなか言うことを聞かなかった。
「…くっ…!」
何とか立ち上がったが、一歩踏み出せばよろける身体。
さらに言えば裸足である名前は、その廃墟の出口に向かうだけでも一苦労だ。
しかし。
兄、恭弥の顔が頭にふと浮かぶ。
その瞬間、名前の目つきが変わった。
何としても、兄の元に帰らなければ。
名前は廃墟の外へと飛び出した。
「…なによ…ここ…!」
廃墟の周りは森に囲まれていた。
その路は、動かない身体…まして裸足の名前には厳しすぎた。
それでも。
「それでも…行くしか…ない!」
必死で走った。
後ろは振り返らない。
振り返れば、あたしの全てが、壊れてしまう気がしたから。
どんなに転んだって、名前は走り続けた。
気づけば、足は傷だらけだった。
「ハァっ…ハァ…ッ…きっとそろそろ、あたしがいないことに六道骸が気づくはず…!」
いつまた捕まるかわからない恐怖に打ち震えながら、名前は走った。
が、しかし。
「!!っきゃぁぁあッッッ!!!」
ズザザザーーッッッ
木の根に足を引っ掛け、地面に崩れ落ちる。
それでも、立ち止まってはいられなかった——
「お願い…ッ
動いてよ…!!
動け!!!この足!!!!!!」
力を振り絞って立ち上がった名前の希望は、
刹那に儚く散った。
『おやおや…
いけない子猫ちゃんですねぇ』
どこからともなく森に響き渡る声。
「い、いやあぁぁぁぁッッッ!!!!」
あぁ、ついに…あたしは…捕まってしまった。
「悪い子猫ちゃんには、お仕置きが必要、ですかね」
先程とは打って変わって、声の出所は鮮明であった。
気づく間も無く、背後に立つこの男は、
「六道……骸……」
「ご名答!
クフフ…名前を覚えてくれて嬉しいですよ。
鬼ごっこは楽しかったですか?
名前。」
ゲームオーバー。
しかし、必死に逃げていたはずの名前は心の何処かで「それでもいいか」と思い始めていた。
果たしてそれは、絶望によるものか。それとも…———
「そういえば、クイズの答えがまだでしたね。では、答えは帰ってから、じっくりと教えてあげることにしましょうかね…クフフ」
不気味な笑みをこぼす骸をふと見上げると、瞳に吸い込まれそうな錯覚に陥る。
きっとあたしは一生、この男から抜け出せないだろう。
絶望や恐怖と、自分でもわからない何か別の気持ちで混乱しているあたしを後ろから抱きしめながら、骸は耳元で囁いた。
Ora, balliamo?
—さぁ、踊りましょう?—
(ずっとずっと探していた貴女とようやく廻り逢えたんだ)
(簡単には逃がしませんよ)