朝明
「主さん、そろそろ起きて下さい。」
「う……ん…………」
昨日どんなに夜遅く眠りに入ったとしても、この声が聴こえてくるだけでばっちりと目が覚めるのだから、世界中どの目覚まし時計にも負けない力があるんだと思う。恐らく、効果は私にだけ。
身体をゆっくり起こし、ぱちぱちと何度か瞬くとぼんやりとしていた視界も徐々にクリアになり、少しひんやりとした彼の手が頬に触れればすっかりと覚醒した。
「目、覚めましたか?」
「……うん。おはよ、堀川くん。」
おはようございます!そう言って微笑む彼に釣られ口元が緩む。そのまま離れていく手を名残惜しく見送っていると、突然ぴたりと動きが止まった。
「堀川くん?」
「ごめんちょっとだけ。」
離れていったはずの手がもう一度こちらへと伸び、あっという間に引き寄せられるとぽすんと彼の胸元に収まった。思っていたよりがっちりと抱き込まれているため頭を動かすのは難しく、彼がどんな顔をしているか見ることは出来ないようだ。
そのまま数十秒、好きなようにさせているとふっと腕の力が緩み、今度は満足そうな表情の彼が視界に映る。
「よし、充電完了。」
朝ごはん作って待ってますから、遅れないでね。最後に敬語が少しだけ混じったそれを言い残し、彼は風のように部屋から去って行った。朝食当番の途中で起こしに来てくれていたのだろう。慌ただしくはあるが、こんな朝も悪くない。
「さて起きますか!」
心の中で充電完了、なんて繰り返しながら少し涼しく感じる様になった朝の空気を吸うべくうんと背伸びをした。