「連隊戦に参加します」
長谷部、光忠、小狐丸の同期組3人の力作であるもつ鍋を美味しくいただいた夕餉後。
食後の雑談やお茶などを各自が穏やかに過ごす大広間に平野が入れてくれたお茶を飲んで一息ついた私の声が通った。
***
戦の言葉に食後の和やかムードから一転、大広間は一気に戦時の話をする軍議ムードに切り替わった。
長机を片付け、広々とした大広間に上座の私から見て右側に一列。左側に一列とぞれぞれが対面して座るのが軍議のときの席順である。各々が定位置につき、意識がこちらに集中したのを確認すると私は口を開いた。
こんのすけから聞いた連隊戦に関する情報を自分なりに纏めながら話す。
一番大事な手入れに関しても、しっかり伝えると上座に腰をすえる私から見て右側に座する初期刀の加州と左側に座する今剣がお互いを見て好戦的に笑った。
「へぇー。面白そうじゃん」
「わがほんまる、はつのもよおしごとですね!」
バチバチ。ビリビリ。2人共笑ってはいるがその間には火花が散ってる…ように見えた。
「ちょうど阿津賀志山の敵じゃ物足りねーと思ってたとこなんだ。こりゃ願ってもない朗報だな」
「夜戦もあるなら僕もお役に立てます!」
白陣の和泉守と紅陣の平野がそれぞれ身を乗り出す。二人とも新たな戦場だと同じように目を輝かせた。
うちの本丸は軍議の際、二つの陣営に別れる。
一つは紅陣。初期刀である加州清光をリーダーに据える入手番号が奇数の者で構成されるチーム。
もう一つは白陣。審神者になって初鍛刀で来てくれた今剣をリーダーに据える入手番号が偶数の者のチーム。
本丸内でなぜ分断させる必要があるのかと同じ審神者である姉に聞かれるが私にもよくわからない。気付いたらなってた。そう言うしか他ない。
出陣する日は必ず軍議を開く。これは私が審神者になった当初から変わらない決まり事の一つである。初軍議は加州と今剣しかいなかったから俯瞰して見れば3人で三角形を描いていたものだったが初出陣で前田と乱が増え、また軍議を開くときに加州の隣に前田が今剣の隣に乱が座ったのがこの陣営わけの始まりだった気がする。
それからはもう芋づる方式に前田の隣に薬研が乱の隣に五虎退が…となっていき現在の定位置が決まっていった。
最初は軍議のときの定位置決めだけだったこのチームわけが明確な陣営として対立するようになったのは太刀が集い出したころだった。
四軍まで用いるようになったとき、一から部隊を決めようと部隊編成を行った。編成の際、特に意識していたわけではないのだが、なんの偶然か出陣を主にしてもらう第一部隊に奇数、第二部隊に偶数メンバーと綺麗に別れてしまったのだ。
また遠征を主にしてもらう第三部隊に奇数、第四部隊に偶数…となんの偶然かこちらも綺麗に別れた。
そこから対立が如実になるのは早かった。出陣部隊は如何に迅速に敵本陣に辿り着き、尚且つ道中の資材を多く拾えるかを競い合い、遠征部隊はどちらが多くの資材を持ち帰ることができるのかを競い合うようになった。
本丸内での対立など以ての外。この溝をどう埋めようかと思案していた時期もあったが、互いの陣営リーダーに相談したところ…
「別に仲が悪いってわけじゃないよ?」
「きそいあうあいてがみぢかにいるのはよいことですよ!」
「そうそう。主のために頑張るのは当たり前だけどさ、やっぱ戦果を競う相手がいると気合が入るっていうか、アイツには絶対負けたくない!って思って戦うからこそ、全力で敵に挑めるし、その結果より良い戦果を主に報告できるしね。内番とか非番の日は陣営とかまったく気にしてないし、あんまり悩まなくても大丈夫だって」
「そのとーり!しんぱいごむようです!」
2人はそう思っていても他の皆はどう思っているのだろうと個別にそれとなく話を聞いたところほぼ全員が2人と似たようなことを言っていた。私が思ってるほど深刻な問題ではなかったのだと心底安心した。
寧ろ出自で仲違いしていたときもあったが同陣営同士で親交を深め、今ではすっかり和解して親しい仲になったケースが多々あったようで一部からは大絶賛されていたのである。
好敵手がいると燃える。少年漫画でよく聞くセリフをこんなにも間近で感じることになるとは思わなかった。
戦果は上々。互いの仲は良好。ならば私に言うことはない。
奇数組、偶数組と最初こそ呼んでいたがそれでは味気ないと奇数に紅、偶数に白の紅白の文字を充て、正式に両陣営の競りを認めた。
その日から1.3部隊を紅陣、2.3部隊を白陣に担当してもらい、出陣と遠征をまわした。両陣営とも私に承認されたのが余程嬉しかったのか出陣に一層励むようになった。
それぞれ平等に出陣・遠征に繰り出し戦果の競い合いをする日々。練度の差もなく、競りの差も均衡を保っていた状態での連隊戦の報。
所有者(私)に似て、好戦的かつ脳筋の彼等には願ってもない吉報であったみたいだ。
全員の顔を見渡すとそれぞれ目が爛々と光っており、戦さ場の顔つきになっている。
「屋外戦は、俺がいれば楽勝でしょ?」
「がっははは!俺が一凪で早急に勝利を掴もうぞ!」
「室内戦はボク達短刀にお、ま、か、せ!」
「あ、あるじさまのために…。が、がんばります…!」
「大将。室内戦部隊の編成は短刀の人数が多い紅陣を推奨しとくぜ」
「かつやくのばは、ゆずりませんよ!れんどがいちばんたかいのは、ぼくです!」
「主。打刀である俺は全ての戦場で活躍してみせます。どうぞこの長谷部をお使い下さい」
「それなら俺達、脇差だって負けてませんよ!主さん!」
「戦場が昼夜変わるんなら打刀と脇差部隊あると便利かもね」
「賛成。じゃあその部隊は白陣が担うよ」
「おや、どうしてだい?別に僕達でも良いじゃないか」
「白陣の方が打刀と脇差は多い」
「いや、言うほど人数差ねぇだろ」
俺が、いや僕が!と白熱する両陣営を上座から眺める。
数々の戦場に繰り出し着々と練度を上げた皆にとって、和泉守が言ったように最近の出陣では物足りなかったのだろう。
自分を使用してくれと凄い気迫で言い合っている皆に己の考えを伝えるべき悩む。
そもそもこの言い合いに終わりはあるのだろうかと見渡していると白陣の列に一つ。真っ直ぐに伸ばされている腕に目がとまった。
正座を崩すことなく、真っ直ぐ伸ばされた背筋と同様に直線に手を挙げている彼は…本日の私の近侍である、
「はい!一期一振!」
「はい。近侍の一期一振でございます」
周りの声に負けないように、大きい声で彼の名を呼ぶと盛り上がっていた言い合いがぱたりと止んだ。
一瞬で静寂になった大広間に一期の耳心地のよい声が通る。
「みな初の催し事に心躍るお気持ちはわかりますが一旦落ち着きましょう。まずは主の御考えを聞くべきかと」
一期のその言葉に全員がサッと黙って私に視線を寄せる。
やっと軍議が始めると優秀な近侍様に感謝の意を抱きつつ、自分の考えを述べた。
「此度の連隊戦においての部隊は…両陣営混合で編成します!」
我が本丸にとって初の試み発表により虚をつかれた顔が並ぶなか、どこからか「それが普通や」と呆れた姉の声が聞こえた気がした。