「主君、お茶をお持ち致しました」


締め切った襖越しにかけられた声の主にお礼を言う。


「ありがとう平野」
「いえ。失礼致します」


すっと美しい所作で襖を開けた平野の手のお盆には私専用の湯呑みがゆらゆらと湯気を上げてそこにあった。
床の間にある掛け軸に生花。木製の執務机の前に座布団を敷き、座っている私。
平野は襖を締めてから執務机の上に湯呑みを置く。
私の横に正座をすると「戦況はどうですか?」と純和風なこの部屋に似つかわしくない唯一の物。
私の手の中にあるタブレットに目をやった。



***

軍議通り、部隊を最高練度の者達のみで編成して迎えた連隊戦、初陣のとき。
連隊戦の合戦場には予め政府から難易度が制定されていた。
難易度は易、普、難、超難の全4ステージ。文字のごとく上の戦場に行くに連れて難易度は高くなっていくのだろう。
政府から支給された通行手形を第一部隊長である蛍丸に渡し、出陣部隊一人ひとりにに「がんばれ」と声をかけ送り出した初陣。
流石は我が最高戦力。第一部隊だけで怪我することなく易をクリアした。
戦闘回数が少なく、全部昼戦であったのを抜きにしても完勝で初陣を飾った。

続いて易より戦闘回数が2回増えた普のステージ。最初は第一部隊に任せていたが間の3回目で夜戦がきた。すると画面に浮かぶ四つのコマンド。
今回は実質一択である【部隊を交代】のコマンドを選択した。夜戦なら短刀と第一部隊から第二部隊に交代する。なるほどこのように部隊を入れ替えながらやるのか。こんのすかの説明もわかりやすかったが、やはり実践で目に見える方がわかりやすい。
夜戦が終わるとまた昼戦に変わったが夜戦補正がなくても大太刀を一撃で倒してしまう短刀達の活躍もあり、その後の戦闘も難なくクリアして気付いたら普のステージをクリアしていた。

順調に連隊戦の攻略が進んでいく。
メンバーに疲労について確認したが全員が桜を舞わしながら問題ないと言うので普攻略から間をおかずに難へ挑戦した。
1.2戦目は第一部隊に任せ、きたる3戦目、普と同じで夜戦に変わった。せったく目新しい編成したのに一度も出陣しないのはどうかと思い、短刀達第二部隊ではなく脇差、打刀編成の第三部隊に変更した。弓と投石を駆使し、遠戦で半分以上の敵を倒す。余裕で次の夜戦も勝利を収めるとまた昼戦に変わった。
昼から夜。夜から昼。ころころと変わる戦況。戦はまだ続きそうだ。このまま第三部隊で様子を見ようと【現在部隊で戦闘】のコマンドを選ぶ。
昼戦を連続で今度は夜の市街に変わった。昼夜を行き来する回数の戦場。確かに普より難易度が高くなっているのがわかる。頑張れ、と画面越しの私の声が皆に聞こえたかは定かではないが二刀開眼を連発して最後の室内戦で勝利を収めて帰還してきた。

易、普、難。見事危なげなくクリア。
ここで政府から支給されていた通行手形も使い切ったことだし、出陣を一旦止める。
こんのすけの情報によると政府が1日に通行手形を2回、無料で回復してくれるらしい。一回の回復で支給される通行手形は全部で3枚。つまり1日6回までの出陣が無料でできる。それ以上、出陣する場合は資金で買うことになっているらしい。
連隊戦の目的は御歳魂を集めて報酬をもらうこと。しかし出陣してみて戦闘勝利で獲得できる御歳魂が報酬に必要数と比べると微々すぎることが判明したのだ。このままでは報酬が貰えない。御歳魂を集めるには沢山、出陣するしかないではないか。出陣回数に制限あるなんて聞いてないと項垂れながら本丸の資金を確認してみた。
1回復で1000両。なにぶん小判の使用はこれが初めてなもので値段の判断がわからない。そもそも小判ってどこで確認するのか。
姉に聞いてみたところ、「お前そんなことも知らんかったん」と蔑まれた目で見られたが何だかんだ言いつつ、小判箱の受け取りから所有確認まで丁寧に教えてくれた。
今までまったく確認していなかったが、さて我が本丸の貯蓄は如何に…と早速、確認した。
詳しい額は言えないが資源数の何十倍もの数字が並んでいた。
これは凄い。そう簡単に0になることはないだろう。こういうときに使うようなのかもしれない。なくならない限りは連隊戦に臨めそうだ。
すぐさま小判を払い、通行手形を回復してもらった。
これでまた出陣できると休憩を終えた部隊を呼んで超難攻略に繰り出した。
順調に進んでいた連隊戦。皆に気を抜くなと言っておきながら素晴らしい戦果に私が一番気を抜いていたのかもしれない。
皆なら楽勝、そう連隊戦を甘くみていた。

結論から言えば、超難攻略は出来なかった。
難までの敵を凌駕する強さ。超難の敵は圧倒的に強かった。
そろそろ早い段階で夜戦が来るのではないかと1戦目は第三部隊から出陣をお願いした。部隊長に加州や古参の和泉守、初脇差の堀川など頼り甲斐のあるメンバー。1戦目からではなかったけれど2戦目から読み通り夜戦になった。
昼も夜も関係なく強い彼らは余裕で勝利していざ3戦目で奴は現れた。
これまで6面の夜戦でしか見なかった一番厄介な敵、高速槍が昼の戦場で現れたのである。
夜戦では槍は弱体化というのは嘘ではないかというレベルで誰よりも早く刀装を貫通して本体にダメージを与えてくる奴は昼戦では早い上に守りが硬かった。
練度が高く打撃力もある和泉守が攻撃しても削れない刀装。こちらは中傷になる者が遂に出た。槍を倒し切ることは出来なかったがギリギリ勝利を掴み次へ。第三部隊が奮闘した甲斐もありなんとか4戦まで勝利できた。その後、夜戦が続く5戦から7戦は第二部隊が第三部隊の想いを継いで戦闘し、重傷者を出しながらも最後の第一部隊へバトンタッチ。
3戦目と同様、8、9戦目と連続で出てきた高速槍。本丸最強の称号をもつ蛍丸の打撃をもってしても削れない奴らの刀装。こいつら強すぎる、増えていく中傷者に歯を食い縛る。次はキリが良い10戦目。恐らく最後の戦いだ。もう少し堪えてくれとぎりぎり勝利して遂に最終決戦。戦場は夜。しかも室内戦。大太刀2振り、太刀3振り、槍1振りの第一部隊は攻撃する間もなく相手部隊にやられた。
戦場の変化の見極めが甘かった。部隊交代のタイミングを間違えた。反省点は沢山あったが、それでも純粋に感じた力量の差。拭えない敗北感。
全部隊がそれぞれの刀種のトップレベルなのに認めざるを得なかった力の差。慢心してた、怪我なく阿津賀志山を周回できることに。私を含め全員が。私達はまだまだ弱い。上には強いやつなんて幾らでもいる。誰かからそう言われてるみたいだった。


「連隊戦部隊の帰還だよ」


青江の言葉で部屋を飛び出す。玄関へ続く廊下を走っていると離れたところに出陣していた皆が見えた。
蛍丸、今剣、加州とそれぞれの部隊長を先頭にこちらに歩いてくる皆は手入れされて傷一つない状態だが、全員顔は暗い。特に蛍丸は力強く歯を食い縛っているのが遠くからでもわかる。

お疲れ様、ごめんなさい、ありがとう。頑張ってきてくれた皆に最初にかけたい言葉が溢れ出てきて走っていた足が止まる。


なんて…。


近く距離。
一番に私に気づいたのは蛍丸だった。
こんな中途半端な場所に私がいたのが驚きだったのか目を丸くした後、すぐに泣きそうな顔になってそこから、へにゃりと笑った。


「ただいま、主」


約束守れなくてごめんね。
約束。私と蛍丸だけの、あのとき交わした約束。囁かれたその言葉に勢いよく走り出し、小さくも逞しいその身に飛びついた。
ただいまと言われたのなら、私が返す言葉は一つ。
その一言に皆に伝えたかったいろんな気持ちを込めた。


「おかえりなさい」


次は勝つ。
確固たる決意をし、こうして私の初めての連隊戦初日は終了した。