耳郎響香の元へは、海を向かわせた。この間の公園での邂逅、そして今日。胡散臭い男だとは思っていた、ただの優男ではないことも。そこまで気が付いていて後手に回った自分に腹が立つ。


「爆豪勝己!」
「あァ!?てめっ、アホ犬の、」
「切島鋭児郎も一緒か、ちょうどいい、広場に戻るぞ!」
「俺に命令すんじゃねェよ白犬!!!」
「ちょっ、爆豪落ち着けって!」
「言われんでも戻るわ!あのアホだけどうせ広場に残されてんだろ!!」
「お前、気付いていたのか」

そう、なまえの匂いの元を辿れば最初にいたあの広場だった。てっきり俺と海を救護に回したあとに、あいつも飛ばされているものだとばかり思い込んでいた。しかし目の前で般若の如く目を釣り上げた爆豪は、しっかりと敵の思惑を読んでいたらしい。

「向こうのクソボスがアイツを狙ってることなんざ、さっきの会話で分かんだろォが!そもそもなんでお前ここにいやがんだ!何のための御目付け役だゴラ!!!」
「・・お前の言う通りだ、だから頼む、共に広場へ」
「だからお前に言われんでも行くつっとんだろがボケ!!!」

それは、何に対しての怒りなのか。敵に対しての純粋な怒り、それももちろん含まれているのは間違いない。だが、俺の目から見た爆豪勝己という人間は少なくとも誰か一人の"人間"に固執するようなタイプでは無い。唯我独尊、天上天下。そんなイメージであった筈なのに、その怒りはまるで大事にしていたオモチャを取られて怒り狂う子供のようだ。

「えっと、リクの方だよな!俺も行くからとりあえず急ごうぜ!」
「すまん、恩に着る」
「礼なんざいらねぇわクソが!!!」

怒鳴るついでに響いた爆破音。建物の壁が大きくえぐれて、一足先にそこから飛び出した。後ろからまた怒鳴り声が聞こえていたが、今はスルーだ。とにかく最速で広場へ。余計な思考はねじ伏せて、地面を蹴った。





状況は、一言で言えば最悪だった。俺の許可を待たずに獣化したなまえが地面に転がっていて、体のあちこちには遠目でも分かるほどの傷を負っている。あの姿でもここまで追い詰められるなら、獣化の判断は正しい。だが、それは奥の手でもあり諸刃の剣でもある。

「・・イレイザーヘッド、」

ぴくりとも動かないなまえのすぐ側には、異形の者に押さえ付けられているイレイザーヘッド。こちらも既に満身創痍。助けてやりたいが、迂闊に動けばなまえを取られて身動きが取れなくなるのは目に見えていた。どうしたものか、せめて海が来れば手立てもあるが。じっと考え込みながら全ての五感をフルに稼働して、気付く。

「! この足音は・・」

急速に近付いてくる足音は、この状況下では最高の打開策といったところか。敵をあいつに任せることが出来るなら、俺は俺の仕事ができる。
広場へ視線を戻せば、あの優男が一人の女子生徒へと牙を向いていた。酷なことを言えば、俺にはあの少女を助ける義理はない。でも、あれはなまえの友人だ。負傷すれば気に病むことぐらい容易に想像出来る。瞬時に動くべきだと判断して反動を付けた体は、飛び出す寸前で止めた。

イレイザーヘッド・・

あの体でも生徒を守るか。教師としての威厳、プロヒーローとしての誇り、大した精神力だな。一度は逃れた脅威、しかしすぐに異形の者が生徒へと迫っていた。それでも動かなかったのは、ヤツが到着したことに気付いたから。


「もう大丈夫、私が来た」

さすがは平和の象徴。場の空気が一瞬にして変わったのが分かる。安心から涙を流す生徒達と、ざわつく雑魚共。広場正面入口の階段上から目にも留まらぬ早さで雑魚を片付けたオールマイトとほぼ同時に、地面を蹴った。ひとまずはなまえの回収だ。このまま仲間の近くに置いておくのはまずい。意識が戻れば恐らくは、そう判断して歯が刺さらない程度の強さで首を掴んで場所を移した。

「陸!みょうじ少女の容態は!?」
「なんとも言えんが、起きればまた厄介なことになるだろう。こいつは俺がどうにかする、そちらを頼む」
「了解した」

このまま力尽きて獣化が勝手に解かれることを祈るしかない。暴走したなまえに声が届くのも、止められるのも、母親である"千颯"のみだ。当然、この場にはいない。脳無との戦闘に入ったオールマイトを見守りながら零れたため息は無意識だった。


20180915