俺は大していいとこ無かったけど、なんとかオールマイトのピンチには間に合った。俺と爆豪、あとは轟もほぼ同時に広場へと集結した今、怖いモン無しな布陣は揃った。


「3対5だ」
「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた・・!!」
「とんでもねぇ奴らだが俺らでオールマイトのサポートすりゃ・・撃退できる!!」
「ダメだ!!!逃げなさい」

初めての本物の敵との対峙、怖くねぇかって聞かれたら素直には頷けない。それでも、少なくとも俺は本気で勝ちに行くつもりだったのに。オールマイトに止められて、しかもプロの本気を見てろなんて言われたら従うしかなかった。
そこからはもう、圧巻の一言。ショック吸収の個性なんてまるで関係無い、一発一発が本気の乱打で脳無って野郎をぶっ飛ばしたオールマイト。まるで漫画の世界を見ているような感覚だった。

「緑谷!ここは退いた方がいいぜもう。却って人質とかにされたらやべェし・・」

せっかく脅威を一つ潰せたのに、足でまといになったらなんの意味もねぇ。そう、思ってたのに。戦意を取り戻した敵がオールマイトに迫るのとほぼ同時に、緑谷が視界から消えた。気付いた時にはもう敵の懐まで突っ込んでて、どうすることも出来なかった。

「緑谷!?」
「オールマイトから、離れろ」

やべェ。どうしたら、どう動くのが最善だ。わかんねえけど、ほっとけるかよ。慌てて方向転換した先、モヤの中から緑谷に迫る手。間に合わねえ!そう思った瞬間、その手に弾丸が打ち込まれたのが見えた。

「来たか!!」

待ってましたと言わんばかりのオールマイトの声に、ハッとなる。広場正面ゲートがある階段上には、いつの間にかほとんどの先生たちが顔を揃えていた。





「次に会う時までなまえは預けておくからな、俺は諦めない」


オールマイトを殺すとまた宣言したあとに、まさかのみょうじの名前が出て驚いた。狙われてるってのは本当だったんだな。隣にいた爆豪をそっと横目で盗み見たら、眉間のシワがグッと深くなったのが見えてなんとも言えない気持ちになる。でもまあ、そのまま逃げられはしたけど、とりあえずは去った脅威。てか、緑谷あいつ大丈夫かよ。

「緑谷ぁ!!大丈夫か!?」
「切島くん・・!」

「待て!!!くそっ、止まれなまえ!!!」

「え?」

緑谷に駆け寄ってすぐ、いきなり後ろから聞こえたのはたぶんリクの声。こんなに焦ってる声は初めて聞いたかもしれない。

「アホ犬・・!」
「えっ、ええ!?」

目を見開いた爆豪の視線の先には、こっちに向かって走ってくる一匹の狼。でけえ、し、めちゃくちゃ早い。リクとカイ以外であんなでかい狼は記憶になかったけど、ミルクティブラウンの毛並みと爆豪の言葉で予測できる人間なんて一人しかいなかった。

『ガウッ、ウウッ・・!!』
「てめっ!?」
「爆豪!?」

爆豪目掛けて飛び込んできた狼は、そのままの勢いで爆豪を押し倒して篭手に噛み付いていた。いや、待て待て。あれがみょうじだとして、じゃあなんで爆豪に噛み付いてんだ。じゃれてるようには見えない、本気で噛みつきに行ってる。

「てめぇっ、結局暴走してんじゃねェか!」
『ガルルルルッ』
「誰に向かって牙向けとんだ!!!」
「爆豪無駄だ!今のなまえに言葉は通じん!」
「あァ!?じゃあてめぇがなんとかしろや!!」

追い掛けてきたリクがみょうじの足を噛んで引っ張ろうとしてたけど、あっさり払いの蹴られて吹っ飛んでいた。みょうじってあんなに強かったか?女子の中では戦える方だとは知ってたけど、ここまでは予想してなかった。

「暴走を止めるには力尽きるのを待つか、母親の声しか届かん!イレイザーヘッドがいれば話は別だが・・!」

相澤先生はどう考えても無理だ。敵にやられてボロボロだし、だからって今からみょうじの母ちゃんを呼んでも遅すぎる。先生たちも生徒に迂闊に手を出せなくて、近くまでは来ていても何も出来ない。どうすんだ!このままじゃ爆豪が。それに、よく見ればみょうじだってとんでもない重症だ。爆豪に押し返されるたびに、踏ん張った体からボタボタと流れ落ちた真っ赤な血が地面を濡らしてる。

「ごめんじゃねェんだよアホ犬が・・」
「爆豪・・?」
「謝んなら目ェ覚ませや!!」
「何言って、」

まるで誰かと会話をしているかのような爆豪の言葉に、リクの目が大きく見開かれた。まさか、なんて呟かれたその言葉の意味は俺には分からない。

「爆豪勝己、お前まさかなまえの声が聞こえているのか」
「あ!?こんだけ近くにいりゃ聞こえんだろが!!」
「違う・・その声は、今お前にしか聞こえていない」
「!?」

どういう原理なのかは分かんねえけど、リクの言葉が本当なら爆豪の耳にはみょうじの声が聞こえ続けているらしい。俺の耳には絶え間なく吠えたり唸ったりしてる、まさに獣の声しか聞こえない。

「そのまま声を掛け続けてくれ!個性の暴走が緩むかもしれん!」
「ンで俺が・・!」
「このままではなまえの精神が危ない!」

どういう意味か頭を働かせて数秒、爆豪の腕から血が流れていることに気付いた。いつのまにか噛み砕かれていたらしい篭手。腕に牙が突き刺さってんのかアレ。さすがにヤバいと判断した轟が氷結を発動しようとしたけど、手ぇ出すな!って怒鳴った爆豪の気迫に圧されてそれは不発に終わった。精神が危ない。その言葉の真意は仮定でしかないけど、恐らく爆豪を傷付けてしまったことで、みょうじが自分を責めて気に病んでしまうことをリクは危惧してるのかもしんねぇ。

「クソが・・っ、」
『ガゥッ!ッ!』

悪態ついてた爆豪の目が、ゆっくりと決意を固めているかのように形を変えていく。釣り上がっていた目を元に戻して、真剣な色を灯す。心做しか優しげにさえ見えるそれは、たまに機嫌がいい時にみょうじにだけ向けられる目だ。

「なまえ」
『ッ!!!』
「戻って来い」
『ウウッ、ガッ・・!』
「もう一回言うぞ、戻って来いなまえ」

そんな優しい声出せんのかよお前、さっきまでのハラハラした気持ちが一瞬で晴れるぐらいには穏やかな声だった。なんとかなるんじゃねえかって、そう思ってしまうぐらいの。ガジガジ容赦なく爆豪の腕を噛んでいたみょうじがピタリと動きを止めて、ゆっくりと苦しみ出す。もがくように爆豪の胸に頭を擦り付けて、低く唸っていた。

「陸悪い!遅くなった!!」
「ッ、海!布を出せ!戻るぞ!」

何が何だか分からないまま見守ることしか出来ないギャラリーの上から飛び出してきた黒狼。カイの方だ。地面に着地するなり、どこから出したのかばさりと大きな布を広げて爆豪の方へと突っ込んでいった。え、なにごと?

「爆豪すまない、助かった」

ほっとしたようなリクの言葉に、爆豪は答えなかった。苦しみ続けているみょうじの頭を、まるで少しでも楽になればと願っているかのように撫でているだけ。そんな二人の上に被せられた大きな布。その直後に、布の隙間からゆっくりと煙が上がった。

『ばくご、くん、・・ごめん』
「・・おう」
『あ、りがと』

微かに聞こえたのは、いつもよりずっと弱々しい上に震えているみょうじの声だった。俺にも聞こえたってことは、戻ったのか。確かに大きく膨らんでいた布が包み込んでいる体積は少しずつ萎んでいた。てか布掛ける意味あったんか?そう思いながらも爆豪に駆け寄れば、布の下から真っ白な細い肩が覗いていて心臓が跳ねた。

「え、えええええ!?」
「チッ、・・そういうことかよ」

苦々しく呟いた爆豪が布を手繰り寄せて、自分の腹の上で小さくなったみょうじを守るように布で包み込んだ。お前、乱暴者のくせにそういうとこはちゃんと配慮してやれんのな。

「っ、かっちゃん!みょうじさんは、」
「寝とるわ、オイくそデク、担架呼んでこい」
「あ、うん、わかった!」

落とさないように慎重に起き上がった爆豪の腕の中で、みょうじは静かに気を失っていた。じわじわと赤く染まっていく布を見てると、悔しさがまたぶり返す。こんなに傷を負うまで、みょうじは相澤先生と二人で敵と戦っていた。暴走覚悟で獣化までして、心にまで傷を負ってしまったかもしれない。無表情でみょうじを見下ろしている爆豪の思考は読めねえけど、少なくともいつも通りには程遠い。

「爆豪、とりあえず担架乗せようぜ」
「・・・」
「爆豪、?」
「・・聞こえとるわ」

緑谷が呼んでくれた救護ロボ。見慣れた担架になかなかみょうじを乗せようとはしない爆豪の表情は、やっぱり読めなかった。それでもいつまでもここにいてもしょうがない、むしろ早くリカバリーガールの所に連れて行ってやらねえと。気持ちは分かるけど、そんな思いを込めてグッと肩を掴めば、ようやくみょうじを担架に乗せた。

「リカバリーガールのとこに頼む!」
「アイノウ」

ここからはもう、任せることしか出来ない。みょうじも心配だけど、爆豪のメンタルもめちゃくちゃ心配だ。でも、とりあえずは、これで本当にこの騒動は終息したってことでいいんだよな?張り詰めていた空気がやっと緩んで、無駄に力を込めていた体がどっと重く感じた。


20180916