体中が軋むように痛んで、目を覚ましたことを少しだけ後悔した。でも、謝らないと。とんでもない迷惑を掛けてしまった。傷も、負わせてしまった。赦してもらえないとしても、せめて謝らないと。そう思って無理矢理起こした体は、グッと肩を掴まれてベッドに押し戻された。

『え、』
「・・アホか、まだ寝とけ」

爆豪くんだった。いたんだ、全然気付かなかった。自分が今いる場所が保健室だってことは分かっていたけど、まさか彼がすぐ近くにいるなんて。痛みで五感が全く仕事をしていなかったらしい。

『ば、くご、くん』
「ンだよ」
『ッ、』

なんで、そんなに"普通"なの。怒ってるくせに、呆れてる、くせに。一層の事怒りに任せて怒鳴られた方がマシだった。

「なんだその顔」
『な、んでおこんないの』
「あ?」
『めいわく、かけたのに、』

ベッドの横に立ったまま、表情ひとつ変えない爆豪くんに心臓が嫌な音を立てる。いつもなら、売り言葉に買い言葉でお互いぎゃんぎゃん吠え合ったりしつつも、何だかんだで楽しいって思う。だから、こんな息が詰まるような空気は初めてで、戸惑う。

「・・獣化しねぇと危なかったんじゃねえのか」
『そう、だけど』
「ならしゃあねェだろ」
『・・でも、やっぱりせいぎょできなかった』
「それを出来るようになるために雄英来たんじゃねぇのかよ」
『!』
「黒犬から聞いた」
『かい・・?』
「おう」

パパとママみたいなヒーローになりたい。そんな夢は小さい頃から漠然と抱いてた。でもその為には沢山の課題があって、その一つが獣化のコントロール。雄英を勧めてくれたのは、ママだ。あそこならイレイザーヘッドがいるし、何より自分の母校だからって。今は無理でも、ちゃんと段階を踏めばいつかちゃんとコントロール出来るようになるよって。

『・・できるのかなって、ずっとふあんなきもちはあったの』
「・・」
『でも、うでおられて、めんどくさくなっちゃって、獣化した』
「相澤のためじゃなかったんか」
『たすけなきゃって、あたまにはあった。でもそれより、いらいらして、きれちゃった』
「・・でも結果的に相澤は助かったし、お前も生きてここにいんだろ」
『ばくごうくんにっ、』
「!」
『・・きずをおわせて、それに、もしあのままとまらなかったら、っ』

きっと切島くんとか緑谷くんにも怪我を負わせてしまっていた。爆豪くんが言う通り、結果論としては獣化の選択は正しかったのかもしれない。でも、もしも、そう考えるととてもじゃないけど楽観的には流せない。

「後悔してる暇あんならコントロール出来るようにどうにかしろや」
『どうにかっていわれても・・』
「お前の個性だろうが、お前が頑張らねぇでどうすんだよアホ犬」
『・・こせい、つかうのこわい』

情けないけど、本音だった。大きすぎる力を制御出来ない自分の未熟さが憎い。弱さを克服できない自分が嫌い。静かにわたしの弱音を聞いてくれていた爆豪くんが、深いため息をひとつ落とした。それだけで、泣きそうなくらい心臓が跳ねた。

「特訓の延長戦だ、付き合ってやる」
『・・ん?』
「お前が獣化をコントロール出来るようになるまで見てやるっつっとんだ」
『え!?』
「ンだよなんか文句あんのかクソ犬」
『ちがっ、いや、もんくじゃないけど、』
「こんな傷大したことねぇ、俺は死んでねェしお前も生きてる」
『っ、』
「過ぎたことでいつまでも泣き言言ってんじゃねぇ、ぶっ飛ばすぞ」

それは、励ましてるつもりなのかな爆豪くん。他の人が聞いたら、ただの脅しだよ。でも、でもね。わたしにはびっくりするぐらい優しい言葉に聞こえたよ。見捨てないって、言ってくれた。頑張れって、背中を押してくれた。都合のいい耳だと笑われるかもしれないけど、そう聞こえたの。

『ばくごうくん』
「・・泣くんじゃねェアホ犬」
『ばくごうくん、っ』
「うっせぇな!なんだよ!」
『ありがとう』
「・・なんの礼だよそりゃ」

鼻で笑った爆豪くんの大きな手でがしがし頭を撫でられて、脳がぐわんぐわん揺れる。あ、ちょっとまって、酔う酔う。乱暴な手つきだけど、泣くなって言ってくれてるのはなんとなく分かった。いつもみたいにあほ面で笑ってろやって、そんな言葉にすら嬉しくなるわたしの脳みそはどういう作りをしているんだろう。

『ばくごうくんうでみせて』
「あ?」
『かんじゃったとこ』
「・・見てどうすんだ」
『みせて』
「チッ」

折れる気のないわたしを察したらしい爆豪くんは、めんどくさそうに左腕に巻かれた包帯を解いてくれた。リカバリーガールに治してもらわなかったんだね。そっと触れた腕、わたしが噛んで付けてしまった傷痕をそっと指でなぞる。

『ごめんね、ほんとうに』
「だからそれはもういいっつったろ」
『・・きずあと、のこりませんように』
「っ、てめ!アホ犬!!!」
『いだっ!!!』

一番深く抉れている傷にそっと唇で触れて個性を発動した。あんまり回復してないから少ししか分けられないけど、自己治癒力の手助けになればと体力を送った。そしたらなんとまあびっくり、頭にげんこつが降ってきた。え、まって、めちゃくちゃ痛い。過去一痛い。あとなんか、視界がぐらってした。

「あ、」
『・・きず、ひらいた』
「余計なことすっからだクソが!!!」
『うう、ごめんなさい』

おでこに巻かれた包帯を伝って、たらりと頬に流れたのは真っ赤な血。生きてる証。それと同じぐらい顔を真っ赤にした爆豪くんはなんだかかわいい。怒鳴り散らしながらリカバリーガールを呼びに行ってくれた背中を見送って、無意識にこぼれたのは笑顔だった。


20180917