ウチが自由に動けるようになったのは、事態が収束してから約二時間後。間近で見ていた切島からなまえの話を大まかに聞いたけど、正直気が気じゃない。早くあの子のところに行きたかったのに、リカバリーガールとオールマイトから告げられたのは一時的な面会謝絶。進言したのは、陸だった。
「なんでダメなの」
「・・今のなまえがお前と顔を合わせれば、無理矢理にでも笑って取り繕おうとする」
「・・」
「それが駄目だと言う訳ではないし、お前に非はない。ただ、少しだけ時間をやってくれ」
「じゃあ、なんで爆豪はいいの!」
一時的な面会謝絶、でもそれは、たった一人爆豪を除いて。なんであいつには許可が出て、ウチには出ないの。おかしいじゃんそんなの、ウチだって会いたいのに。
「・・賭けて見たいと思った」
「は?」
「爆豪勝己だけが、あの場でなまえの心の叫びを受け取った。今あいつに必要なのも、恐らくは・・」
「っ、そんなの、納得行かない!」
「響香ちゃん落ち着いて、私がこの目で見たことを全て話すから」
「・・梅雨ちゃん、」
きゅっとウチの手に触れた梅雨ちゃんの小さな手。少し冷たくて、血が登った頭がゆっくりと冷えていく。確かに、切島から聞いた話は断片的なもの。あの子の事なら知るべきだと、知っておきたいと思った。
*
「暴走してしまうと分かっていても、あの場では仕方がなかったんだと思うわ」
「うん・・僕もそう思う。きっとみょうじさんは僕達がすぐ側にいることも気づいてて、それで、」
「守ってくれようとしたんじゃないかしら」
前に女子には話してくれた。100パーセントの獣化はコントロールしきれなくて、暴走してしまうこと。だから出来ることならその選択は取りたくないって、珍しく眉を下げて情けない顔して笑ってた。そんなあの子が、獣化することを選んで、さらにはその暴走のせいで爆豪に傷を負わせた。その話だけでもう、泣きそうだった。
「爆豪ちゃん、とても優しい声でなまえちゃんの暴走を鎮めたの」
「あんなかっちゃん、初めて見たよ僕」
「だからきっと、爆豪ちゃんならなまえちゃんの心の傷にも寄り添える」
「あのかっちゃんだし不安も大きいけど、今は適任なのかなって、」
緑谷の様子を伺うような視線に、情けなくなってくる。ウチはただ、駄々をこねていただけだったんだと思い知らされる。その場にウチがいたとしても、ウチの声が届いたかどうかは分からない。ただ一つ確かなのは、爆豪の声はちゃんと届いたってこと。面白くないけど、認めたくないけど、しょうがない。
「わかった」
「耳郎さん・・」
「リク、ごめん」
「気にしてない、むしろお前にはいつも感謝している。家でもお前の話をよく聞かされるんだ」
「え、」
「これからも仲良くしてやってくれ」
「・・言われなくてもそのつもりだよ」
保護者みたいな顔してそんなこと言われたら、普通に照れる。でも、嬉しい。まるで爆豪だけがあの子の特別みたいな扱いが気に入らなかったけど、そうじゃなかった。ウチも、あの子の中にちゃんといる。それだけで今は十分。
「なまえちゃんが戻ってきたら、いつものようにみんなで甘やかしてあげたいわ」
「ん、だね」
「みょうじさん、きっと喜ぶよ」
「うん、緑谷も話してくれてありがとね」
「エっ、いや、僕はそんな、全然!」
人間なんて、弱い部分があって当たり前。でもそれを感じさせないぐらいいつも元気ななまえが、落ち込んでいるかもしれない。出来ることならウチが支えになってあげたいけど、今回は爆豪に譲るわ。だってさ、帰ってくる場所になってあげるのも悪くないかなって思うんだ。ちゃんと待っててあげるから、またいつもみたいに飛びついておいでよ。
20180917