雄英高校体育祭。相澤先生のお話で、とりあえずビッグイベントだということは分かった。でもわたしの場合、卒業後はとりあえずママの元で修行することになってるしドラフト指名はあんまり興味無い。だから、緩く楽しもうと思ってたのにな。
「アホ犬、お前本気でやれよ」
『え!?』
「どうせ省エネで行く気だったんだろ」
『・・ソンナコトハ』
「USJの一件から貴重な時間割いて特訓付けてやったよなァ」
『うっ、』
「手ぇ抜いてしょうもない成果出しやがったらブッコロス」
『・・ハイ』
あ、だめだこれ。逃げられない。そう悟った瞬間、途端に憂鬱になってしまった体育祭。楽しいことは好きだ。でもやっぱり、あの一件から人前で個性を使うのはまだ少し怖い。入学当初は40パーセントぐらいしか制御出来なかった"狼"の方の個性は、爆豪くんのお陰で60パーセントまでには上がった。それでも、100パーセントには程遠い。
「獣化出来なくてもお前ならそれなりに上がって来れんだろ」
『!』
「ンだよ」
『いま、ほめられた気がした』
「褒めてねェわチョーシのんな」
『ほめてくれたらもうちょっとやる気でるかもしれない』
「だから調子乗んなボケ」
べしっと、頭にお決まりの衝撃。わたしの扱い方を分かってるようで分かってない爆豪くん。鞭ばっかりだとやる気出ないよ。時間を割いて見てくれてる特訓は別だけど。
『がんばったらなんかくれる?』
「寝言は寝て言え」
『はんばーぐもすてがたいけど、たまにはわしょくも食べたいな!』
「しつけェ」
『けち』
「喧嘩売ってんなら買うぞテメェ」
『・・わしょくにがて?つくれない?』
「誰に向かって言ってんだ!!作れるわボケ!」
『にくじゃがだよ?むずかしいよ?』
「作れるつってんだろが!!ヨダレ垂らして待ってろやクソが!!」
『わーい!!!』
言質は取った!あとは頑張るだけ!両手を上げて喜んでいたら、ここでようやく乗せられたことに気付いたらしい爆豪くん。煽れば意外と簡単にノってくること知ってるんだわたし。ちょろいな、爆豪くんや。
「・・おいこらクソ犬」
『ひょ!?』
「テメェ覚悟しとけや、本気でぶっ潰しに行くからな」
『の、のぞむところだ、?』
「ンで疑問形だよクソが!!言い切れや!」
『のぞむところだ!!』
「ボキャ貧かテメェ!!!」
『いだー!ちょ、あたまわれる!いたい!』
「割れろ!!」
『ばいおれんす!』
がしっと大きな手で掴まれて、物凄い力でギリギリと締め付けられた可哀想なわたしの頭。これ以上馬鹿になったらどうしてくれるの爆豪くん。
「最終戦まで上がって来なかったらコロス」
『えええ』
「俺以外のヤツに負けてもコロス」
『ぶっそうすぎるよばくごうくん』
ついにコロスしか言わなくなった爆豪くんの顔はとてつもなく不機嫌だけど、不思議と怖いとは思わない。もう見慣れちゃったのもあるのかな。怖いどころか、爆豪くんらしくてつい頬が緩む。
「何笑ってんだアホ犬」
『ぐえっ』
「・・ブッサイクな面してんな」
『ほへははふがにひほい』
「何言ってか分かんねえ」
『ひほいっへ!』
「だから分かんねぇわアホか」
頭の次はほっぺたですか。両頬を圧迫されて上手く話せないわたしを見て、少しだけ楽しそうに、どこか満足したようにフッと笑った爆豪くん。うわあ、レアだ。スーパーウルトラレアだ。ほっぺたの内側に犬歯が刺さってちょっと痛かったけど、爆豪くんのレアな笑い方を見てたら気にならなくなった。あれ、わたしも結構ちょろくない?
『ばくごうくん』
「ンだよ」
飽きたのか、あっさりと解放されてちょっと残念って思うわたしどうしたの。さっきまでの爆怒りからは想像出来ないぐらい、穏やかな顔した爆豪くんに胸が少しだけ苦しくなった。なんだこれは、病気かな。
『・・頑張るね!』
「せいぜい気張れや」
『うん!』
やっぱり褒めてはくれなかったけど、珍しく飴を貰えた。雑な言葉でも頑張ろうって思えたわたしは、やっぱりちょろいんだと思う。
20180918