「せんせー 俺が1位になる」

「絶対やると思った!!」

さあさあ、ついに来たよ雄英体育祭!
爆豪くんのらしさしか無い選手宣誓はなんかもう逆に安心するね。こういう場だからって畏まったこと言われたら熱でもあるのかなってなるもんね。そんなこと言ったらまた頭叩かれるだろうから口には出さないけど。

「アホ犬、テメェ今碌でもない事考えてんだろ」
『いたっ!』
「ボーッとしてっと足元すくわれンぞ」
『わかってるよ!』

戻ってきた爆豪くんに結局いつものように頭を叩かれてしまった。口に出してなかったのになんで?さてはエスパーか?

「なまえは顔に出すぎ」
『きょんちゃん』
「てか、最近バクゴーとさらに仲良くなってない?」
『ほんきでやらないとコロス、らしい!』
「なにそれ」

おかしそうに笑ったきょんちゃんはかわいいけど、笑い事じゃないんですよ!!!手を抜く気は無い、というかその選択肢はもはやご用意されてないのだけど、ちゃんとやらないとわたしの命が危ない。こわい。

「ほら、障害物競走だって。スタート位置行くよ」
『うん』
「本気出すんでしょ?ウチのこと置いてっていいからね」
『・・うん』
「そんな寂しそうな顔しないの、体育祭って言ってもみんな本気のガチバトルなんだよ」
『あい』
「気を付けて頑張りな」
『うん!きょんちゃんも!』
「ウチは緩く行くわ」
『うらやましい!』

予定ではわたしもきょんちゃんと同じく緩く参加するつもりだったのにな。おかしいな。そうこうしているうちに、容赦なくスタートした障害物競走。とりあえず前の方に轟くんがいる時点で、嫌な予感しかしないよね。

「ってぇー!!なんだこれ!?凍った!!」
「チクショー!!!」
『や っ ぱ り か ! !』

開幕早々、地面がバッキバキに凍ったのを見て思わず声が出た。嫌な予感はビシバシ感じてたけど、何の策も思い浮かばなかったから足のバネだけを使って上に跳ねてて正解だった。回避したあとは、走るだけ。なんならちょっと滑って進むの楽しい、え、なにこれ楽しいよ轟くん!

『すけーとみたい!』
「みょうじか・・お前器用だな」
『たのしい!ありがとうとどろきくん!』
「え、おう、どういたしまして」

いつの間にか横に並んでた轟くんに、こいつ何言ってんだアホかみたいな顔されてちょっと傷付いた。爆豪くんはそれがデフォルトだから慣れたけど、他の人に向けられると結構メンタルやられるんだね知らなかった。

「アホ犬ッ!遊んでんのかてめーは!」
『ハッ!おにきょうかんのけはい!』
「誰が鬼だクソが!!!」

どこにいても爆豪くんの声はよく聞こえるなあ。怒鳴ってるからだな。でもそんな声に紛れて、不穏な機械音とモーターの駆動音を察知した。慌ててブレーキを掛けたら、目の前を鉄の塊が通り過ぎて行った。

「これ、入試の時の仮想敵か!!」
『あ、ぜろのやつ』

そういえばこんな形してたっけ。このまま突っ込んで一位を爆走するのもありだけど、入試の時と仕様変わってたらヤだな。頭の悪いわたしの場合、先手を打って失敗するより誰かに続いた方が得策かもしれない。そう思ってロボインフェルノを見上げていたら、一番に動いたのは轟くんだった。

「・・クソ親父が見てるんだから」
『くそ・・?』

微かに聞こえた声は、びっくりするぐらい冷たかった。さっき少し言葉を交わした時は普通だったのに。妙な違和感と既視感、なんだっけこれ。なんて言うんだっけ。全く違うことで頭を悩ませつつも、手は抜けないからおこぼれにあやかろう。見たところ、大分不安定そうな状態で凍らされたロボインフェルノ。抜けるなら速攻あるのみ。

「やめとけ 不安定な体勢ん時に凍らしたから・・倒れるぞ」
『たおれるよ!』
「!」
『あ、ごめん、びんじょうした』

グッと力を入れて地面を蹴れば、ロボットが崩れ落ちるより先に轟くんの隣に並べた。そんなわたしを見て、一瞬だけ目を見開いた轟くんはすぐにフッと口元を緩めて笑った。え、笑われた?なぜ?

【1−A 轟!!攻略と妨害を一度に!!こいつぁシヴィーー!!!ついでに同じく1−Aのわんこ、みょうじはとんでもないスピードで轟の妨害を回避ー!!!やるなあわんこ!!】

場内に響き渡るマイク先生の実況に思わず吹き出してしまった。先生にまでわんこ扱いされてるよわたし。そのまま走り出してすぐ、後ろから爆豪くんの爆破の音が聞こえた。上かな?さすがであります鬼教官殿。ていうか後ろに爆豪くんいるといろんな意味でヒヤヒヤするから前走ってくれないかなあ。

【オイオイ第一関門チョロイってよ!!んじゃ第二はどうさ!?落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォーーーール!!】

『ほう、つなわたり』
「先行くぞ」
『気をつけて〜』

目の前にはなんかもう色々とツッコミどころ満載な綱渡りが広がっている。え、ここグラウンドの外周だよね?山の中の修業地とかじゃないよね?なぜか律儀に声を掛けてくれた轟くんが綱を渡り始めたのを見て、わたしここで本気出したら轟くん抜けちゃうなあなんて思ったり。だってさ、これ、この距離なら綱と綱の間の足場だけに飛び移って向こうまで行けちゃうんですよ。狼の脚力だけじゃなくて、爆豪くんが組んでくれた基礎トレーニングのお陰で飛距離も伸びてたし100パーセントいけるやつ。

「何棒立ちしとんだアホ犬がァ!!」
『ぎゃ!もうきたのばくごうくん!』
「ったりめーだクソが!さっさと飛べや!!」
『あいさー!』

ぼーっと轟くんの背中を見てたら、後ろからまあまあな強さでお尻を蹴られました。女の子になんてことするのこの人。いや、とても今更なアレだけども。とりあえず顔がいつも以上に凄いことになってたから、逆らわずに助走を付けて地面を蹴った。

【おおぉお!?わんこの跳躍力とんでもねぇなあオイ!!!綱を渡らない綱渡りなんてチートもいいとこだぜ!!】

いやそんな、褒められると照れますマイク先生。そういえばわたしたちの頑張ってる姿はテレビでも放送されるんだっけ?ママも見てるのかな。うわ、こわい。爆豪くんの激おこモードより背筋が伸びる。

「俺の前を走るんじゃねェクソが!!」
『とべっていったのばくごうくんです!』
「うっせェ!!」

ええええ、もう、ほんと無茶ばっかり言うんだから。とりあえず渡ってないけど綱渡りを終えて、いい感じに爆豪くんがわたしより前に出てくれて助かった。そうそう、そのまま二位か一位でいてください。そしたらわたしの身の安全が保証されるから。

【早くも最終関門!!かくしてその実態は・・一面地雷原!!怒りのアフガンだ!!!】

『いかりの・・じらい、うん』

これもちょろいね。地雷特有の火薬の匂いを辿れば目を使わなくても避けられる。気をつけるべきは、周りの人たちの誤爆ぐらいかな。巻き込まれないようにだけ気を付けよう。このままいけば三位。爆豪くんより下で、それなりに好順位。たぶん怒られない、ハズ。たぶん!

「はっはぁー!俺は関係ねー!!」
『うわ!?ばくふうえげつない・・』

爆破の勢いで飛べる爆豪くんなら、そうするだろうなとは思ってたけど予想以上の爆風に視界が霞む。土煙がとても邪魔です。鼻は問題なく仕事をしてくれてるから足は止めないけど、ちょっと近付きすぎるのやめよう。目に砂が入ってゴロゴロするから。

【ここで先頭が変わったーー!!!喜べマスメディア!!おまえら好みの展開だああ!!】

お、まじか。爆豪くん一位になった。よしよし、そのままわたしとも差をつけてくれたまえ。せめて爆風が届かないぐらいまで突っ走ってくれていいよ。

『にしても、じらいおおいなあ』

これちまちま走るより飛んだ方が楽なんだろうな。爆豪くんに近付いちゃうから絶対しないけど。

【後続もスパート掛けてきた!!爆豪には抜かれたものの、三位には未だにわんこがいるぜ!!1回も足を止めることなく地雷を避けてる辺りこいつもすげぇ!!!!】

いや、だから、慣れてないから褒められると照れるんですってば!!ここで気を抜いて三位から落ちたら絶対怒られるんですってば!!心の中でだけ大声で叫んで、ラストスパート掛けようかなと思った時だった。

【おおっと!!?後方で大爆発!!】

『んぎゃ!?なに!?』

【偶然か 故意か・・!A組 緑谷!爆風で猛追ーーー!!?!】

『みどりやくんまじか!やばい!』

今からスパート掛けて間に合う!?てか緑谷くん、一位になっちゃってる。てことは爆豪くん二位?三位?二位にいるならわたしは三位になるべき。でも三位にいるなら、爆豪くんの前には立てない。嫌だ。

『あーもう!!まよってるばあいじゃない!!』

とりあえず、飛ばなきゃ。そう判断してまた地面をグッと蹴った。地雷原を抜けた先、見えた背中は爆豪くん。ならもう、あとはこれ以上抜かれないように走り抜けるだけ。



『ッ、はぁ、つかれた』
「なまえお疲れ、四位とかさすが」
『きょんちゃん!』
「ハイハイ、暑いから抱きつかないで」
『ううっ』

確かに走ったせいで結構暑いけど、疲れたからきょんちゃんで癒されたかったのに。仕方ないから抱き着くのは諦めたら、いい子、なんてちょっと笑いながら頭を撫でてもらえた。結果オーライ!

「爆豪のとこ行かなくていいの?」
『いや、いまはきけん』
「あー、緑谷か」
『そう、いちいになれなかったしぜったいげきおこ』
「ほんとだ、凄い顔してる」
『ひえっ』

きょんちゃんの視線の先には緑谷くんを殺さん勢いで睨みつけている爆豪くん。こっわ。いや怖くないけど、でも、今近付いたら絶対またバイオレンスなことになる。そっと目を逸らして、次の種目に備えるために深く息を吸い込んだ。


20180920