爆豪くんが怒る時、何に対して怒ってるのかはなんとなくだったとしても分かる。でも、初めて分からないと思った。心操くんと馴れ合うな、なんて言われても何がダメなのかも分からない。理解力の無いわたしに怒ってるのかと思ってたけど、なんとなく違う気がして。


「それって・・」
『それって?』
「いや、あくまでも憶測の話だし、そういうのは自分で気付いてこそ意味があると思う」
『・・わかんないからきいたのに』
「うっ、いや、でも」
『ごめんねきりしまくん、こまらせて』
「いやそれはいいんだけどな、」

爆豪くんと食堂でご飯を食べて、いつも通り怒られたり馬鹿にされたりしながらもお腹は満たされた。でも、頭の中にずっと爆豪くんの見慣れない表情が焼き付いてる。怒ってると言うより、戸惑ってるみたいな、なんとも言えない表情。あれは、何を表していたんだろう。きょんちゃんに聞いてみようと思って爆豪くんより先に食堂を出たら、声を掛けてくれた切島くん。爆豪くんと仲のいい切島くんなら分かるかも、そう思って全部話した。

『ばくごうくんはわかりやすいけど、たまにぜんぜんわかんない』
「それは分かる」
『わたし、じらい踏んじゃったのかな・・』
「みょうじ、」

知らない間に、爆豪くんを傷付けるようなことを言ってしまったんだろうか。そう考え出すと、有り得そうでとても怖い。怒鳴られるよりも、頭を叩かれるよりも、ずうっと怖い。わたしの情けない言葉を聞いて心配そうに眉を下げた切島くん、なんかとてつもなく申し訳なくなってきた。

『よくわかんないはなししてごめんね』
「いや、俺の方こそろくなアドバイスもしてやれなくて悪ぃ」
『ううん、はなしたらちょっとおちついたよ』
「俺から言えるのは、爆豪がめちゃくちゃ鈍感で素直じゃないってことだけだ」
『どんかん・・?ばくごうくんが?』
「戦闘に関してはめちゃくちゃ頭のキレる奴だけどな、その、なんだ、あいつにも苦手な分野があるんだと思う」
『にがてなぶんや・・』

何のことかは分からない。でも、切島くんがいつもの笑顔で 大丈夫だ! って言ってくれたから。わたしよりも爆豪くんの事を理解してる切島くんがそう言うなら、今はこれ以上考えるのはやめよう。もうすぐ体育祭の最終戦も始まる。騎馬戦でのことを怒られてしまったし、挽回するなら最終戦しかない。

「最終戦、頑張ろうな」
『うん』
「例年通りならトーナメント戦、てかサシの勝負なのは間違いないって瀬呂が言ってた」
『そうなんだ』
「・・爆豪と当たらないといいな、みょうじ」
『ううん、ぎゃくだよ』
「え、」
『ばくごうくんとあたって、せいかみせなきゃいけないから』
「成果・・、あ!特訓のか!」
『うん』
「そっか、楽しみにしとくわ!」
『がんばる』

切島くんと話しながらグラウンドへ戻れば、もうほとんどの生徒が戻っていた。その中にはきょんちゃんも、爆豪くんも。バチっと赤い目と視線が交わったけど、すぐに逸らされてしまった。うーん、怒ってる感じじゃないのがまたよく分からない。それを見ていた切島くんは、隣で アイツほんと素直じゃねぇな、なんて笑ってた。

「なまえ、おかえり」
『きょんちゃん・・なんでチアのかっこしてるの?』
「そこは触れないで」
『あい』
「爆豪と一緒だと思ってたのに、なんで切島?てか元気ないねどしたの」
『うーん、げんきなんだけどね』
「飯は爆豪と食ってたよな。そのあと放置されてたから拾って来た!」
「ふーん」

元気が無いわけじゃないんだよ。ご飯いっぱい食べたし、いつでも動ける。厄介なのは頭?というか心の方で。考えるのはやめようって思ったのに、爆豪くんを視界に入れてしまうとどうにも難しい。体調悪いわけじゃないならいいけど、そう言いながら頭を撫でてくれたきょんちゃんにそっと擦り寄りながらも、目で追ってしまうのは見慣れた後ろ姿。いつもの怒鳴り声が聞きたい、なんて、どうしちゃったんだろうね。

「みょうじも結構分かりやすいのにな」
『?』
「うん、ウチも同じこと思ってた」
『なにが?』
「なんでもない」
「焦んなくてもきっとその内気付けるよ」
『・・じかんのもんだい?』
「そう」
『・・そっか』

じゃあ、やっぱり考えてもしょうがないんだね。無理矢理そう納得したら、今度はきょんちゃんがどうしてチアガールの服装になってるのかが気になってしょうがない。よく見れば、お茶子も梅雨ちゃんも、A組女子はわたし以外みんな同じ格好。わたしだけ、仲間外れ。

「なに、どしたの」
『・・わたしもチアやる』
「やらなくていいよ、峰田の嘘にヤオモモが騙されてその被害受けただけだからウチら」
『うそ?』
「レクでチアガールの衣装着て応援しなきゃいけないって、相澤先生が言ってたとかなんとか」
『相澤先生そんなこといわないね』
「うん、よく考えればそうなんだけどね」

心底悔しそうに言ったきょんちゃんに、切島くんは苦笑い。百は純粋に真面目だから、騙されちゃったんだろうね。でもいいなあ、楽しそう。わたしの分無いのかなあ。

「なまえさん!」
『わ!』
「その、峰田さんの策略にハマってしまってこんな格好をしているんですけれど、」
『うん、かわいいね』
「かっ・・!そんな、なまえさんの可愛さに比べたら私なんてとても・・!」
『そんなことないよ』
「ありがとう、ございます。あの、それで、一応なまえさんの分も用意はしてるんですけど、」
『きる』
「え!?」
『きたい!』
「うわっ!?ちょっ、みょうじここで脱ぐな!!」
「ばっ、か!更衣室行きな!!」
『ひょ!?』

体操服の上を脱いだら、きょんちゃんにべしっと頭を叩かれた。切島くんは顔を真っ赤にして明後日の方向を向いたまま、ワタワタと手を忙しなく動かしていて面白い。そんなびっくりしなくても、ちゃんと体操服の下にキャミソール着てるよ。

「とりあえず体操服着なって!」
『あい』
「んでダッシュで更衣室!」
『あい!』

怖い顔したきょんちゃんに脱ぎ捨てた体操服を投げられて、受け取って頭から被った瞬間にビシッとグラウンドの入口を指さされた。きょんちゃんに怒られるのって、なんか新鮮。

「峰田が見てなくて良かったぜ・・」
「いやほんとに」
「なまえさん、待ってますね」
『うん!』

頭を撫でてくれた百に笑顔で返事を返してから、急いで更衣室までダッシュした。みんなと写真撮るんだ!んで、きょんちゃんに待ち受けに設定してもらおう。単純な脳みそはさっきまでの悩みを忘れて、ひたすらに浮かれていた。


20180920