お茶子ちゃんVS爆豪戦の時より、不安は少ない。それでも、やっぱり心配の方が勝る。あの子は負ける気なんて無いんだろうけど、爆豪の強さはA組の中でも突出してるから。
「なあ切島、みょうじ大丈夫かな」
「頑張るって言ってたし大丈夫だろ!」
「そんなんで何とかなったらみんな今すぐプロヒーローなれるっつの!」
上鳴のツッコミも、切島の根拠の無い言葉も、全ての歓声をも飲み込んで舞台は整った。相対するなまえと爆豪、遠目でしか見えないけどなんかどっちも笑ってる気がする。
【さあ皆さんお待ちかね!補修工事明け一発目はこいつらだァァァ!!】
マイク先生の実況にも熱が入る。それに煽られるように会場のボルテージは上がっていく。無理も無いよね、さっきの緑谷と轟の試合凄かったもん。あの二人と同じく、今から始まる試合もA組トップクラスの戦績を誇る二人な訳だし。
【かわいい見た目に油断することなかれ!!その力は未だに未知数!ヒーロー科 1- A ワンコことみょうじ!!対するはこちらも同じくA組から!!誰が相手だろうが容赦なしの完璧主義者!!爆豪!! 】
心配ではある、けど、不安はいつの間にか消えていた。だって今からガチの勝負が始まるっていうのに、マイク先生の実況を聞いてあんなに楽しそうに笑ってるんだもん。あの子が楽しんでやるんなら、ウチに出来ることはもう、見守るだけ。
【みょうじ VS 爆豪 !! スタート!!!】
がんばれ、なまえ・・!!!
*
プレゼントマイクのスタート宣言と同時に、みょうじさんの姿を見失った。気付いた時にはもう、かっちゃんの背後に回っていた小さな体。観客席がワンテンポ遅れて大きく湧いて、その凄さをさらに噛み締める。プロヒーローも沢山いるのに、そんな人達ですら追いきれないほどのスピード。凄いや、また早くなってる。
【おぉおお!?ワンコはえーなおい!!】
持ち前の反射速度でキッチリ躱したかっちゃんのカウンター。挨拶代わりだと言わんばかりの爆破は、派手な音を立てたあとにみょうじさんの手のひらに吸い込まれた。USJでも見たけど、ほんとに凄い個性だと思う。あの脳無の全力の拳ですら受け止めていたのを思い出した。でもかっちゃんは止まらない。何度か同じ規模の爆破をお見舞して、不敵に笑う。
「うわぁ、なんか企んでそうな顔だ・・」
かっちゃんは戦闘のこととなるとめちゃくちゃ頭がキレる奴だ。対するみょうじさんのイメージは、どちらかと言えば素直で真っ直ぐ。裏をかいた攻撃なんて、出来ない。そう、思ってた。
【決まったー!!爆豪の動きを予測してんのかよッ!?マジで見かけによらずクレバーだぜみょうじ!!!】
かっちゃんの拳を極小のモーションで避けた細い体。そのまま体を捻りつつ地面に着いた両手。反動を利用して繰り出された上段蹴りはきれいかっちゃんの顎を捉えた。その途端にまた大きくなる歓声。一瞬グラついた後にすぐ体制を整えたかっちゃんも凄い。体幹の安定具合が僕とはまるで違う。
そのまましばらく体術メインで試合が進んで、それはそれでとても勉強になった。とにかくバネとスピードが凄いみょうじさんと、そんなスピードにも食らいついていくかっちゃん。相変わらず反射速度がえげつないし、二人ともお互いの手が読めるの!?ってぐらい、拮抗してる。比べるわけじゃないけど、麗日さんとはまた違った強さだなあ。
【オイオイマジかよ・・!正直言うと俺はワンコがここまで爆豪と渡り合うとは思ってなかったぜ!!でもお二人さん!そろそろ体力もキツいんじゃねぇかぁあ!!!?】
確かに、試合が始まって数十分。二人とも動きっぱなしだ。序盤にお互いそれなりに個性も使ってたし、仕掛けるならそろそろな筈。そう思った時だった。
BooooM!!!
【ッなんだぁ!!?!】
目を開けていられないほどの光と、とてつもない轟音。喩えなんかじゃなく、観客席が揺れた。
【・・爆豪の爆破を溜め続けていたみょうじがそれを纏めて放って、同じ規模の爆破を出した爆豪の攻撃に相殺されたんだろうな。にしても・・やり過ぎだ馬鹿共】
呆れたような相澤先生の声にやっと事態を飲み込めて、思わず体が震えた。恐怖じゃない。これは、興奮だ。純粋な力と力のぶつかり合い、そして恐らくは二人ともこれを決定打にする気はなかった。その証拠に、煙幕の中でまた火花が散っている。余力を残した状態で、あの規模。
「・・すごいや」
無意識に漏れた声は、微かに震えていた。しばらくして、ようやく晴れてきた煙幕。クリアになっていく視界に飛び込んで来たのは、大きく抉れた舞台の真ん中で手のひらを突きつけ合っている二人。みょうじさんは地面に仰向けに転がったまま、自分を見下ろしているかっちゃんに向けて手のひらを突き出していた。対するかっちゃんは、みょうじさんの右手以外の四肢をキッチリ封じて、同じく手のひらを突き出している。
【ンンン!?これどういう状況だぁ!?オイ誰か説明してくれ!!】
ハッキリとは見えないけど、かっちゃんの口が動いてる。それに応えるようにみょうじさんが諦めたように笑って、突き付けていた右手をパタリと地面に下ろした。ということは、
「みょうじさん降参!!爆豪くんの勝利!!」
やっぱり。何を話していたのかは分かんないけど、あれは多分みょうじさんに降参を促していたんだろう。その割りには優しい顔してた気がするし、みょうじさんもすっきりした顔してた。やっぱりあの二人には、何か絆のようなものが芽生えてるのか・・?いやでも、あのかっちゃんだし。考えれば考えるほど分からないけど、ひとまず終わった激闘に観客席からは割れんばかりの拍手と喝采が送られていた。かっちゃんをあそこまで圧倒する女の子なんて初めて見たし、ほぼほぼ互角に渡り合うなんて本当に凄い。あの身のこなし、今度コツとか教えてくれないかなあみょうじさん。
20180920