先手必勝。これで決まるなんて思って無いけど、この勝負は今までの特訓の成果を爆豪くんに見せるための舞台でもある。だったら、出し惜しみなんてしてる場合じゃない。
「甘ェわ!!!!」
『ですよね!!』
マイク先生のスタートの合図と同時に、全力で地面を蹴った。一瞬で爆豪くんの背後を取ったのに、驚くどころか待ってましたと言わんばかりに繰り出されたカウンター。まあ、わたしもここまでは読んでたからお互い様なんだけど!でも!悔しいな!
「くたばれ!!!」
『ッ!ごわり!』
「三割だボケェ!!!」
『ウソ!?』
間髪入れずに何発も放たれるエネルギーを吸収しながら、爆豪くんがどれぐらいの力で打っているのかを叫び続けた。その度に罵声と共に訂正されて、頭が痛くなってきた。絶対威力上がってるよこれ・・特訓してた時の感覚と全然合わないもん。わたしが少しずつ成長していくのと同じで、爆豪くんも磨いてたんだね。知らなかった。
「ンだこのしょぼい蹴り!!」
『みぎ、ひだり、うえ、うえ!』
「格ゲーやってんじゃねんだぞクソが!!」
『分かってるよ!!!』
序盤は威力当てゲームをして、その後はひたすら個性を使わずに相手をしてくれる爆豪くん。もちろんお互い手は抜いてない。決定打にはならないわたしの攻撃だけど、向こうからの決定打も撃たせないように数だけは頑張ってる。ある程度の予測は出来るようになって来たし、それを途切れさせずに動くことも慣れてきた。でも、足りない。このまま続ければ先にスタミナ切れを起こすのは間違いなくわたしの方だ。
「数だけはいっちょ前だなアホ犬!!」
『ちゃんと、あたま、つかってる!』
「嘘つけやァァァ!!」
『ッ、』
【オイオイマジかよ・・!正直言うと俺はワンコがここまで爆豪と渡り合うとは思ってなかったぜ!!でもお二人さん!そろそろ体力もキツいんじゃねぇかぁあ!!!?】
そう、そうなんですよマイク先生!爆豪くんにパンチが当たる度に、もしくはあっさりと受け止められる度に、吸収を発動して少しずつ体力を頂いてたりはする。それでも、そろそろしんどい。
「俺相手に持久戦はさすがに頭悪過ぎんぞ!!」
『わっ!?』
ブンっと空を切る音が聞こえるほどの速さで迫ってきた拳をなんとかギリギリで避けて、そのまま全速力で距離を取った。ぐるぐる体の中で暴れ回っている爆豪くんのエネルギー。右手を地面と水平に持ち上げて、手のひらを爆豪くんへと向ける。その動作を見て、動揺を見せるどころか楽しげにニヤリと笑った彼に、ぞくり、無意識に体が震えた。
「撃って来いや!!!」
『・・さいだい、で!!!』
爆豪くんの爆破エネルギーを貯め続ける特訓は何回もした。貯めたエネルギーの量を調整して放つことも。でも、自分に出せる最大での放出は見せたことがない。だから、勝機があるとすればココ。決定打にはならなくても、せめて隙を見せてさえくれれば・・!!
BooooM!!!
【ッなんだぁ!!?!】
耳をやられそうな程の爆発音と、目を開けていられない程の閃光。でも体に届いたのは爆風と煙幕だった。相殺された・・!そう悟った次の瞬間には、もう動くことを考えていた。押し戻されそうな勢いで邪魔してくる爆風にぐっと耐えていたら、右手が持ち上がらないことに気付く。途端に、激痛。
『ッ、はずれた・・』
やっぱり、わたしにはまだ荷が重かったらしい。きれいに脱臼した肩を左手で掴んで、無理矢理はめ込んだらまた激痛。普通なら、多分ここで諦めてる。でも相手はあの爆豪くん。勝ちたい、ただその思いだけがわたしを突き動かしていた。
「!?」
『みつけた』
「上等だクソが!!」
『ッ、・・まけない!』
煙幕で視界がゼロでも、わたしには関係ない。鼻さえ生きていれば、簡単に近付けた。でもさすが爆豪くん。奇襲のつもりで放った拳は、ギリギリのところで避けられてしまった。まじですか、これ避けちゃうの。脱臼を治しても、痛みが引くわけじゃない。今の状態じゃ、大した威力のエネルギーは放てない。それでも、それを悟られた瞬間に詰められる。頭の中をフル回転して、どうやったら勝てるのかを考えていた。
「アホ犬お前・・!」
『え、ッ、あ!?』
ガシッと掴まれた、右手首。そのまま思いっきり引っ張られて、激痛。痛みのせいで反応が遅れて、そのまま背中から地面に叩きつけられた。
「舐めてんのか!?あァ!?」
『ば、ばかちがら・・』
息が、上手くできない。右肩も、背中も、肺まで痛い。わたしを見下ろす爆豪くんの赤い目が、揺れていた。
「テメェの負けだ」
*
アホ犬が放ったエネルギーは、俺が今まで見て
中では最大級だった。同じように自分の最大でぶつけた個性。結果は相殺で終わった。
「クソがッ・・!」
あいつの力の全般を底上げしたのは俺だ。それでも、自分の最大で打ち砕け無かったことは少なからずイラついた。すぐに態勢を整えて、備えるように五感全てに集中する。アホ犬だと言う認識は覆らない、それでも、ここで終わるような奴なら特訓なんか見る気にもなってなかった。
『みつけた』
「上等だクソが!!」
背後に、人の気配。相変わらずスピードだけはクソ早い、それでも避けられない拳じゃなかった。ここで仕留められねぇででかい口叩くんじゃねぇよクソが!!負ける気なんざさらさら無ぇが、どこまでも詰めの甘いアホ犬にまた苛つく。煙幕で視界が悪い中、何度も仕掛けてくるアホ犬の相手をして気付いた。コイツ、どっかやったな。動きが微かに悪いうえに、右手の攻撃が減った。畳み掛けるべきこの場面で、利き腕を封じる奴なんかいねぇ。
「アホ犬お前・・!」
俺を舐めてんのか。そんなクソみたいな攻撃で勝てると思ってんなら、
『え、ッ、あ!?』
幼稚園からやり直せクソが!!
基礎トレをやるようになってから少しはマシになった、それでも馬鹿細い右手首を掴んでそのまま地面に放り投げた。ガードが遅れるっつーことは、やっぱり右か。背中を地面に打ち付けて、軽く噎せたアホ犬の目にはじわりと涙が浮かぶ。どんだけスピードに定評があってもねじ伏せちまえば関係無い。詰みだ、もう逃がさねぇ。
「テメェの負けだ」
右手だけは敢えて放置して、それ以外の四肢は動かせないように押さえつける。ついでに右手を顔面スレスレに突きつければ、涙を浮かべながらも、笑いやがる。案の定、ゆっくり持ち上がった右手が同じように俺の顔面の前で止まった。
『・・わたし、まだよわい、?』
「弱ぇ」
『でも、マシにはなった?』
「・・ミジンコ程度にはな」
『そっかあ、じゃあ、いいや』
この状況でも笑うんか。諦めたように、でもスッキリしたような顔で右手も静かに地面に伏した。
「えーっと、どういう状況?」
『ミッドナイトせんせ、こうさんします』
「え!?あ、オッケーよ」
降参、その言葉を聞いてからやっとアホ犬の上から離れた。ミッドナイトの終幕宣言に、会場が一気に湧く。うるせぇけど麗日の時に比べりゃ、俺に対する歓声もデカくて悪くねぇ。
『あー、いたい』
「・・肩やったんか」
『はずれた』
「ア!?」
『でもはめた!』
こいつ、本物のアホか。肩の脱臼、そんなことになる原因なんざあの最大のエネルギー放出しかねぇ。捨て身でやりゃいいってもんじゃねぇだろ。
「クソが・・!」
『え、なんでおこるの』
「対敵なら脱臼した時点で詰められてあの世行きだろ頭使えや!!」
『ええ、うーん、そうかな』
自力で体を起こしたあとも、余程痛むのか肩を押さえたままのアホ犬。その状態で突っ込んで来たことも頭が悪過ぎてイライラする。死柄木弔、こいつを狙ってるらしいあの狡賢い敵なら間違いなくそんな隙は見逃さない。なんのために時間割いて特訓付けてやったと思ってんだ。
「体育祭終わったら覚悟しとけやクソ犬」
『え!?』
「戦術ってもん叩き込んでやらァ」
『うっ、おねがいします』
こいつの力も、能力も、知能も、知れば知るほど課題しか湧いてこねぇのが逆に尊敬するわ。なんで俺がそこまで、そう考えるのは止めた。ここまで来たらもう徹底的にやってやる。
「さっさと救護室行ってこい!!」
『あい』
言葉にしないとこのまま痛む肩を放置して観客席に戻ることなんざ分かりきってる。この馬鹿はそういう奴だ。大人しく従った背中を見てると、勝ったっつーのにまたイライラがぶり返す。誤魔化すように落とした舌打ちは誰に拾われることもなく消えていった。
20180920