なまえの強さは、知ってたつもりだった。でもわたしの記憶の中のなまえよりもずっと成長してて、驚いた。それと同時に、改めて爆豪の凄さを思い知る。あの子をここまで育てたのは、間違いなくあいつだ。
「おかえり」
『きょんちゃんただいま!』
「元気そうだね」
『うん!たのしかった!』
戻ってきたなまえは湿布臭くて、救護室に寄って帰ってきたことはすぐ分かった。もっと落ち込んでるかと思ったのに、満面の笑顔で抱き着いてくる辺り心配は必要無さそう。
「最後なんで諦めたの」
『んー、みぎかたはずれて、むりやりはめたらめっちゃ痛くて』
「は!?脱臼してたの!?」
『うん、おおきいのうったときに』
「あんたね・・」
『みぎてしかつかえなかったし、でもいたくてうてないし、あきらめた』
「ほんと無茶するね」
爆豪にも怒られたらしいなまえは、さすがにちょっとだけ反省してるらしい。でもまあ、そこに関してはそもそもこのこの性格の問題だし。今回は特に、特訓の成果を見せたくて"勝ち"に拘った結果だよね。勝つことに貪欲なのはいい事だと思うよ。
『つぎだれ?』
「爆豪と切島」
『おー』
「どっちだと思う?って、聞くだけ無駄だね」
『うん、ばくごうくん』
切島にも懐いてはいるけど、そこだけは譲らないことぐらい分かってたよ。やっぱり聞くだけ無駄だった。
「みょうじってはバクゴー贔屓なとこあるよな」
『ん?』
一列後ろの席から身を乗り出した上鳴の言葉に、男子はともかくヤオモモと葉隠たちまでウンウン頷いて話は盛り上がる。
「なまえちゃんバクゴーの忠犬みたい」
「あんだけしょっちゅう怒鳴られてても懐いてんのって、やっぱりラブだから?」
『らぶ・・?』
「いやいや、単にジュージュンなだけだよね!?爆豪くんには渡したくないよ!」
「そうですわ!ラブなんて認めません!」
こういう話題になると途端に置いてけぼりになるなまえは、ただ目をまん丸にして聞いてるだけ。そういうデリケートな問題を当人前にして騒ぎ立てるのはどうかと思うけどね。しょうがないから助け舟のつもりで口を挟んだ。
「なまえ、爆豪の試合始まる」
『うん!』
後ろを振り返っていた体が瞬時に前を向いて、キラキラした目で舞台を見つめている。この横顔、爆豪にも見せてやりたいわ。あんたの暴れてる姿を見るのが好きみたいだよ、なんて、からかってやりたい。そんな事したら間違いなくキレられるとは思うけど。なまえの興味が自分たちから爆豪に向いて心底不満そうなヤオモモたちには悪いけど、ウチはなまえ贔屓なんだよね。この子がいつも通り笑ってられるなら何だっていい、それだけは揺るがない。
*
爆豪くんと轟くんの試合は、見ていてとても苦しかった。本気を出せと吠える爆豪くんに対して、轟くんはどこか迷っているように見えてなんとも言えない気持ちになった。結果は、やっぱり爆豪くんの優勝。でも、きっと納得の行く形には程遠い。
「・・なんの用だアホ犬」
『なんにも』
「なんにもねぇって面かよ」
そう言われても、どんな顔をしてるのかなんて自分じゃ分からない。閉会式を終えて、きょんちゃんたちが誘ってくれた打ち上げを断って今ここにいる。なにか用事があった訳じゃなくて、気付いたら爆豪くんを追い掛けていた。
『りゆうはないんだけどね』
「・・」
『からだがかってに追いかけてた』
「腹でも減ってんのかよ」
『おなかは、すいてる』
「ザケンナ」
『でも、そうじゃなくて、ええっと』
「お前マジで日本語下手くそだな」
『あ!どなっていいよ!』
「は?」
『こえだすと、スッキリする』
モヤモヤした気持ちとか、悔しい気持ちとか。どうやって吐き出したらいいか分からない時は、カラオケで大声で歌ったり海に行って叫んだらスッキリしたりする。わたしは、だけど。
「怒鳴る理由もねぇのに怒鳴れってか」
『りゆう、ない?』
「・・ねェよ」
『じゃあ、りゆうつくろう』
「は、!?」
要するに、怒られるようなことをしたら爆豪くんは大声を出せる訳だ。それならカンタン。切島くんには駄目だって言われたけど、しょうがない。爆豪くんの手を掴んで、ぐいっと下に引っ張った。きっと油断していた爆豪くんの体が傾いて、その隙にぺろりと唇を舐めてから素早く離れる。今この場で思い付いたのは、この方法だけ。
『どなって!』
「ッ、クソ犬がァ・・!!」
『そう!そのちょうし!』
「その調子じゃねェんだよクソがァァァ!!!」
『おー、かおまっかだよばくごうくん』
「ブッコロス!!!!」
『いだっ、いたい!いたいです!』
予想通り、また顔を真っ赤にして怒った爆豪くんに頭をがしりと掴まれた。痛い。めちゃくちゃ痛いけど、いつも通りな爆豪くんに嬉しくなったから我慢出来る。
「何が大声出したらスッキリするだクソが!お前に心配されるほど落ちぶれてねェわ!!!」
『お?げんきですか?』
「ったりめーだ!!!」
『なんだ、じゃあ、よかった』
だって閉会式ではあんなに暴れてたし、こんな一位意味無いって叫んでたし、だから、元気無いのかと思ってたよ。落ち込むなんてキャラじゃないのは知ってるけど、見せないだけで実は落ち込んでいるのかと。
「頭悪いくせに余計な気ぃ回してんじゃねェ!」
『うん、ごめん』
「半分野郎なんざこの先いくらでも叩きのめしたるわ!!」
『うん』
「・・あんな一位、認めねェ」
『でも、おめでとう』
「話聞けや!!」
『ばくごうくんがなっとくしてないのはおいといて、』
「置いとくな!!」
『おつかれさま』
「!」
今は、その一言にいろんな思いをぎゅっと込めておこうと思う。わたしの頭と語彙力じゃあ、上手くは伝えられない。爆豪くんのやるせなさは、わたしには分からない。でも、体育祭はもう終わった。爆豪くんが優勝した。それだけは、変えようのない事実。
『きょうのご飯はなんですかばくごうくん』
「うっせェ来んな」
『おにくだったらとてもうれしい』
「たまには魚も食えや!!!」
『さかなもおいしいけどおにくがすき』
「肉だけで生きていけると思うなよアホ犬!」
『ばくごうくんさかなもおいしくできる?』
「だからしれっと飯食いに来ようとすんなっつってんだろが!!!」
『できない?』
「出来るに決まっとんだろクソシネ!!!」
『わーい!おさかな!』
まだ頭は掴まれたままだけど、すっかり"いつも通りを"取り戻した爆豪くんの暴言が、こんなにも嬉しい。元気なら、よかった。わたしも結局負けてはしまったけど、楽しかったから元気だよ。明日と明後日は学校お休みだし、爆豪くんが美味しいお魚料理作ってくれるって言ったし、体育祭頑張って良かった。まだ少しだけ顔の赤い爆豪くんを見ながら、もう一度心の中でだけ"おつかれさま"を呟いた。
20180920