爆豪くんはとても口が悪い。すぐ怒るし、怒鳴るし、顔も怖い。でもほんとは優しい人だって、わたしは知ってるよ。


『ばくごうくん』
「・・着いてくんなクソ犬」
『くそじゃない』
「構ってほしいだけなら他当たれ」
『たしかにあそんでほしいけど、いまはばくごうくんの隣にいる』
「・・意思疎通も出来ねーのかよ」

模擬演習で緑谷くんに負けてしまった爆豪くん。二人の関係性なんてなんとなくでしか分かんないけど、今の爆豪くんはきっととても落ち込んでいるんだと思う。口の悪さはいつも通りなのに、全然怖くないもん。どんなに怒鳴られても、怖いと思ったことはないけど。

『ばくごうくん、泣く?』
「誰が泣くかよクソ犬」
『・・なまえのここ空いてますよ』
「・・っ、アホか」

大きく腕を広げて、おいでってやってあげたら暴言を吐きながらも抱きついてくれた。そのまま背中と腰に逞しい腕が回って、骨が軋みそうなぐらいの強さで抱き締められる。え、アレ?ちょっと待ってなんか変。わたしが抱き締めてあげるつもりだったのに、なんで抱き込まれているの?

『・・ばくごうくん?』
「・・」
『いっ、イタタっちょ!ほねおれる!』
「・・お前細すぎんだろ」
『女のコだもん』
「・・なんで俺なんだよ」
『へ?』
「もっと他にいんだろが、甘やかしてくれるやつなんざ」

爆豪くんが伝えようとしているものがなんなのか、よく分からない。でも真剣に聞かなきゃいけないと思った。声が、いつもよりずっと弱々しかったから。

『わたしはね、ばかだから』
「・・」
『ばくごうくんがくれることばの意味なんていつもぜんっぜんわかんない』
「・・だろうな」
『でもね、わたしには、野生のカンというものがそなわってるんだよ』
「・・なんの話だよ」
『だからね、ええっと、そのカンがおしえてくれたよ。ばくごうくんはとてもやさしくて繊細なひとだから、口はわるくてもわるい人じゃないよって』
「・・アホか」
『んふふ、だからね、わたしに出来ることがあるならしたいなっておもっただけ』

シンプルに、それだけなんだよ。クラスのみんなもだいすきだけど、爆豪くんのこともだいすき。そう言ったら、腕の力がさらに強くなって本当に死ぬかと思った。

「、お前今日親は」
『いない!』
「・・帰んぞ」
『え、うん、え?』
「・・しょうがねェから餌作ってやる」
『っ!うん!』

餌、って言い方には少しばかり不満もあるけど。腕を解いて少し離れた爆豪くんの顔がさっきよりスッキリしてるように見えたから、そんな不満はすぐに頭の片隅に追いやられた。あれ、ていうか、

『かたがつめたい・・ばくごうくん泣いた?』
「ばっ、だから誰が泣くか!」
『えええ』
「さっさと帰んぞバカ犬」
『おお!くそ犬じゃなくなった!しょうかくした!』
「・・お前馬鹿は怒んねえのかアホか」
『?』

呆れたように笑った爆豪くん。でもほら、さっきも言ったけどわたしは自分でも馬鹿なことは自覚しているよ。

「・・もういいさっさと帰ンぞ」
『あい!あ、きょうも泊まっていい?』
「調子乗んな」
『でもきっとまたばくごうくんのおいしいごはん食べたらねむくなるよわたし』
「・・やっぱりクソ犬だてめーは」
『え!なんで!?またこうかくした・・』

ばーか、って笑う爆豪くんの後ろに、少しずつ沈んでいく夕陽が見えた。赤く燃え上がる太陽は、爆豪くんみたいだなあなんて。わたしが出来ることなんてきっとちっぽけな事だけど、爆豪くんがいつも通りに戻ってくれたからまあいっか。とりあえず美味しいご飯が楽しみなので、さっさと歩き出してしまった背中を追いかけよう。


20180912