教室に戻った途端に女子の方へ走っていく背中なんてもう見飽きた。あいつはそういうやつだ、興味がある事にはとことん従順。クリームパン買ってやったっつーのに、あのアホ犬まじで躾がなってねえ。
そんなことでイライラしてる自分に更にイラつきながら自分の席でスマホいじってたら、いつの間にか前の席に座っていたアホ犬。デクの席だろーがそこ。あいつがいるより何百倍もマシだけどな。

「・・ンだよ」
『みんながかまってくれない』
「あ?」

クリームパンを頬張りながら、またしゅんと犬耳を垂れ下がらせるアホ犬。教室の後ろの方を振り返ったら、なんかキャイキャイやってる女子たち。お前も女子だろーが、なんでハブられとんだ。

『なんかよく分かんないさくせんかいぎがはじまったから』
「参加してこいや」
『うーん』

邪魔しちゃいけない雰囲気を察知した、とかなんとか、とりあえず食べるか喋るかどっちかにしろや。そんな言葉を飲み込んだのは、自分でも呆れるほどに機嫌が上がっていたから。行き場をなくして真っ先に俺んとこに来たアホ犬、餌付けの効果は上々らしい。

「・・物足りねェって顔してんな」
『おにく食べたい』
「昼休みまで我慢しろや」
『あい』
「てかお前最近常に犬耳出しっぱだな」
『それ!わたしきづいたの!』
「あ?」
『みみ出してたらね。みんな撫でてくれる!』
「・・そんな好きなンか」
『へ?』
「頭撫でられんの」
『すきだよ、きもちいいもん』

普通の人間がそんな発言しようもんなら、少なくとも多少は引かれるか好奇の目を向けられる。でもこいつは、正しく犬。性格が"個性"に引っ張られてんのかは知らねぇが、誰にでもすぐ懐きやがる。

「あんま誰にでも尻尾振ってんなよ」
『ん?』
「・・勘違いする馬鹿も出てくんだろ」
『しっぽ・・かんちがい・・?』
「お前本気でアホだな」
『ばくごうくんの言ってることがむずかしいんだよ』
「ちげーわ、お前が鈍いだけだ」
『・・?』

元々丸い目をさらに丸くしてまっすぐ見つめてくる辺り、ほんとに分かってねえんだな。逆にすげーわ。

『ごちそうさまでした!ばくごうくんありがとう、パンおいしかった』
「十倍返しな」
『う、ええ?クリームパンじゅっこ?』
「パンなんかいるか」
『あ!』
「あ?」

急に椅子から立ち上がって目を輝かせたアホ犬に嫌な予感しかしねえ。なんなんだよいきなり。

『きょうお家いってもいい?』
「・・何の為にだ」
『じゅうばいがえし!』
「主語付けて喋れや」
『ごはんつくるよ、ぱんのお礼に』
「・・お前料理出来んのかよ」
『できない!』
「あァ?ついに頭おかしくなったんか」
『みつきさんにおしえてもらう』
「お前いつの間にババアと仲良くなってんだよ」
『んへへ、みつきさんやさしいよねえ』
「会話しろっつってんだろ」

こいつと話してると、話が噛み合わない上に自己完結しやがるから疲れる。言葉足らずな会話はいつものこと、でも今日は特に意味不明だアホ犬。

『ばくごうくんのごはんおいしいから、おれいさせてね』
「・・ちゃんと食えるもん作れんだろうな」
『やってみないとわかんない』
「俺は実験台か?あ?こらアホ犬」
『がんばる』

わかった、もう好きにしやがれ。どうせ止めても聞きやしねえし、放課後に無理矢理にでも着いて来る気だろ。まじでめんどくせえ。そう思いながらも、嫌なわけじゃねえ。そんな考えが浮かぶ時点で、俺も大概こいつに毒されてんな。

「なまえー?こっち戻っといで」
『きょんちゃん!あ、でも』

耳郎に呼ばれて嬉しそうに立ち上がった犬耳。俺が呼んだ時もそんぐらい嬉しそうにしろやクソが。

「・・しょうがねぇから食ってやらァ」
『! っ、うん!』
「はよ行け」
『あい!ありがとうばくごうくん』

丸い目を輝かせて、取れんじゃねえかってぐらい尻尾を振って、満面の笑顔を見せたアホ犬。また女子の方へ走っていく背中を見送ることはしなかった。


20180921