切島はグレー、上鳴は女なら大体鼻の下伸ばすから論外、爆豪は間違いなく黒。だってあれ以来なまえの頭を撫でる楽しさに気付いた切島を、時々人殺しみたいな目で見てる。あれはさすがに怖いし、引くわ。



『しょうじくんは手がいっぱい』
「そうだな」
『どの手がいちばん撫でるのじょうず?』
「・・大した差はないと思うが、複製腕が少しばかり劣るかもしれないな」
『ほー』
「そもそも撫でるということ自体ほとんど経験が無いんでな、上手ではないと思う」
『そうなの?わんこきらい?』
「嫌いではない、向こうが怯えてあまり近寄ってこないんだ」
『しょうじくんからだ大きいからかな?』
「どうだろうな」
『れんしゅうする?』
「練習?」
『わんこが近づいてきたときのために、撫でかたのれんしゅう!』
「・・みょうじでか?」
『うん』
「俺は構わないが、お前に触れることになってしまうな」
『撫でられるのすきだからだいじょうぶ』
「そうか」

今日もわんこは絶好調にマイペース。ツッコミ不在の会話は聞いてるだけで和む。こんなにも余裕を持って見守っていられるのは、障子から全くといっていいほど下心が感じられなかったから。純粋に、ただそこに訳の分からないことを言うなまえがいて、利害が一致したから。そういうことなんだろうね、ちょっとつまんないな。

『しょうじくん手おっきいね!』
「そうか?」
『うん、あとね、やさしいね』
「・・そうか」

いつものようにふへへ、って嬉しそうに笑ったなまえを見て、障子も目元を綻ばせる。ああ、なにこれ、めちゃくちゃ和むわあ。

「あー!障子てっめえ!ずるいぞ!オイラも撫でたいの我慢してたのに!」
『わっ、みねたくんおはよう』
「峰田・・お前は何か別の目的があるだろう」
「な、なぜそれを!!」
「やっぱりか・・みょうじ、峰田に触れさせるのは止めておけ」
『え、え?』
「なんでお前が決めるんだよ!みょうじはいつでもどうぞって顔してんじゃねーか!」
「してない」
「してる!」
『えええ、なんでけんか・・』

突如現れた性欲の権化。そういうことにとてつもなく疎いなまえなら、押し切られる形で峰田にも触れさせるのを許しそう。うわ、想像したら肝が冷えた。回収しに行くべきか悩んでいたら、峰田を牽制するように大きな体の背後になまえを隠した障子。やるじゃん。

「みょうじが困っている、落ち着け峰田」
「お前自分だけいい思いしといてそれはねぇぞ!ずるい!」
「だから俺はそういうのじゃなくて、」
「朝っぱらからガタガタうっせェな」
『!』
「あ、やべっ」

突如耳に届いた声は、地を這うような恐ろしく低い声。なんだ爆豪か、なんて思ってたら垂れ下がっていた犬耳がピンっと嬉しそうに立ち上がった。うっわ、分かりすい。

「ほらみょうじ、爆豪が来たぞ 行ってこい」
『え?』
「練習はもう十分だ、ありがとう」
『あ、うん、こちらこそ』

爆豪の登場で流石に大人しくなった峰田は完全にスルーして、なまえの背中を優しく押し出した障子。ううーん、送り出すってことはやっぱり白?

『ばくごうくん!』
「ハウス」
『朝からひどいね!』
「うっせェわアホ犬」
『うう、つめたい』
「てかお前髪ハネてんぞ」
『え、どこ?ここ?あれ?』
「ちげーわ、ちょっと頭貸せ」
『ん』

うわあ、なにあの雰囲気。さっきまで怒りマックスだったくせに、なまえが自分の元に来た途端に心做しか嬉しそうな爆豪。あれで隠してるつもりなわけ?あんなんどう見てもなまえのこと好きじゃん。

「直った」
『いだっ!』
「さっさと耳しまえアホ」
『ううっ、なんでいつもついでにたたくの』
「躾」
『たまにはあめくれてもいいとおもう』
「甘いモンより肉の方が好きなくせに何言ってんだアホ犬」
『そういういみじゃないよ、ばくごうくんいがいとアホだね』
「分かってて嫌味言ってんだよ!」
『なるほどいつものやつか!』

なまえの髪を撫で付ける手も、目も、表情だって優しすぎてあれほんとに爆豪か?なんて思っていたのに。顔を上げたなまえの頭を緩く叩いた爆豪はやっぱり爆豪だった。好きな子ほどいじめたい、ってやつ?小学生か。
そんな二人から視線を外して、なんとなく目を向けた先。爆豪とじゃれてるなまえをじっと見ていた障子の目が、なんとも言えない色を灯して揺れていた。お?これはもしかして?もしかする?マジで?

『きょんちゃんきいて、ばくごうくんがわたしのことしつけとか言ってたたく』
「見てたよ」
『これいじょうおばかになったらどうしてくれるのかな・・』
「ふふっ、馬鹿な子ほど可愛いって言うしいいんじゃない?」
『きょんちゃん?なんかたのしそう?』
「うん、いい感じに矢印が混戦して来たからねえ」
『やじるし?え?なんのはなし?』

不思議そうに真ん丸な目を向けてくるなまえの顎下を撫でるのはもはや癖。爆豪に怒られてせっかくしまった犬耳がまたひょっこり顔を出して、途端にふにゃりと頬を緩めるなまえに集まるいくつかの視線。さあ、面白くなってきた。


20180912