とある日の、放課後。

「なまえちゃん〜帰んないの?」
『ばくごうくんまってる』
「は?あいつもう帰ったよ」
『・・まってるの』
「ええ?どしたの」

ほとんどのクラスメイトが教室を出て帰路に着く中、自分の席に座ったまま机にほっぺたを付けてむくれているわんこ。いつもにこにこ笑ってるのが通常運転だけど、たまーにこうやって拗ねることがある。まあ、主に爆豪関連なんだけど。

『おちゃこ』
「うん?」
『おもちすき?』
「だいすき!」
『おもちおいしくないって言われたら、おこる?』
「うーん、怒るというか、悲しいかなあ」
『・・わたしはおこってる』
「あー、何となく分かった」
「え!響香ちゃんエスパーなん!?」

分からない人にはとことん分かんないだろうけど、懐かれて可愛がってるうちになんとなくこの子の思考回路が読めるようになっちゃったんだよね。

『・・きょんちゃん』
「お肉好きなことでなんか言われた?」
『・・おにくばっかり食べるのはバランスがわるいって。やさいもくえって。いやっていったらおこった』
「・・おかんかよ」
「意外!爆豪くん世話焼きさんなんやね」
「いや絶対違う、この子にだけだよ」
『・・おにくもえいよーあるもん』
「栄養ね、漢字変換ぐらいちゃんとしな」
『・・あい』

髪を乱すように、いつもより少し雑にぐしゃぐしゃと撫でてやったら丸い目からぽろりと零れた涙。泣くくらい寂しいなら自分から行きゃいいのに。ほんと、ばか。

「あう、なまえちゃん泣かんといてぇ」
「てかそれでなんで爆豪を待つ流れになるわけ」
『・・お肉つくってくれるっていった』
「さすがの爆豪でも肉は作れないと思うよ」
「お肉料理?」
『・・はんばーぐ』
「ああ、そういうことね。ほんとは今日爆豪んとこ行く予定だったんでしょ?でも喧嘩して、先帰っちゃった。ちがう?」
『・・きょんちゃんあたり』
「響香ちゃんすごっ!」

ハンバーグが・・わたしのおにくが・・って、段々違うところに悲しみの矛先が向いてる辺りがこの子らしくて思わず笑う。ついでに言うと、ドタドタ激しい足音が近付いてきててさらに笑える。ほら、お迎え来たよ。

「クソ犬ッ!!」
『!』

個性のおかげで私達より何十倍も高性能な聴覚を持ってるくせに、落ち込んでるせいでその役割を全く果たしていなかったらしい。スパァンと勢いよく開いたドアから鬼の形相で顔を出した爆豪に、慌てて飛び起きて驚いているなまえ。

「いつまで拗ねてんだアホ犬!いい加減にしねェと生肉食わすぞテメェ!!」
『な、なまにくもおいしい』
「ンなこと言ってんじゃねェんだよぶっ飛ばすぞ!!」

爆豪がイライラしてるのは見てれば分かるけど、それでも、そんな精神状態でもちゃんと戻ってくる辺りが面白いよなあ。

『・・やさいはやだ』
「まだ言ってんのかテメェ」
『でも、』
「ンだよ」
『・・ばくごうくんのおにくたべられないのもやだ』
「俺は食いもんじゃねえ!!」

いや、突っ込むところそこなの。なまえが言葉足らずなのはいつもの事だし、キレまくってる爆豪のツッコミはなんかもう一周回って面白さしかない。お茶子ちゃんも必死に口を抑えて耐えてはいるけど、肩が震えてる。

『・・ばくごうくん』
「次くだらねえ事言ったらマジで俺ん家出禁にすんぞ」
『ごめんなさい』
「! ・・・」
『あやまるからおにく・・』
「結局それ目当てかクソ犬がッ!!」

いや、普通に考えてそうじゃん。確かに爆豪にもだいぶ懐いてはいるけど、餌付け効果じゃん完全に。触らぬ神に祟りなし、ってことで口には出さないけど。

『・・や、やさいもちょっとは、がんばれば、なんとか』
「上等だアホ犬、お前の好き嫌い俺が叩き直してやらァ」
『え!』
「さっさと帰んぞクソが」
『え、あ、まっ 』

どうやら負けず嫌いに火をつけちゃったみたいだよなまえ、責任取って頑張んな。また騒々しい足音を立てて教室を出て行く爆豪を追いかけようと立ち上がったなまえは、ハッとなったあとに私とお茶子ちゃんを見て泣きそうな顔をした。分かってるから、大丈夫だから、早く行かないとまた怒鳴られるよ。

「行っといで」
「ハンバーグの感想明日聞かせてなあ」
『っ、きょんちゃん、おちゃこ』
「ハイハイ」
「はーい」
『ありがとう!』

カバンを引っ掴んで爆豪のあとを追うように教室を出ていったなまえ。ほんっとに、世話の焼けるわんこだこと。



「ねえねえ響香ちゃん」
「ん?」
「私気付いたんだけどね、」

実は爆豪くんの方がなまえちゃんに懐柔されてるんとちゃう?なんて、どこか嬉しそうに言ったお茶子ちゃん。奇遇だね、ウチも全くおんなじ事考えてたよ。


20180912