『いざ!じんじょーにしょうぶ!』
「後悔すんなよアホ犬」

授業の一環で突如始まった爆豪VSみょうじのガチ喧嘩。それなりに戦えるやつだと知ってはいても、やっぱり女の子だし。相手がまさかの爆豪ってのもあって心配な反面、ワクワクしてたりもする訳で。

「背中ガラ空きだアホが!」
『見えてるもん!』
「見えてても反応出来てなかったら意味ねェだろが!!」

あれ、なんか、思ってたのと違う。もっとこう、爆豪VS緑谷の時みたいにお互い本気でぶつかり合ってえぐい感じになると思ってた。

『はやすぎるよばくごうくん、!』
「てめェがおせーんだよ!」
『ぐぬぬぬ!』

喧嘩って言うよりは、もはや先生と生徒。口は相変わらずめちゃくちゃ悪いけど、みょうじの弱点を的確に突きながらの指摘。その度に、ちゃんと言われた通りに動きを修正しているように見えるみょうじ。

「攻撃が雑すぎて読みやす過ぎンだよテメェは!!」
『ざつ・・よみやすい・・?』
「予測ぐらいしろや!相手がどう動くか、そう動かれたらどうすんのかぐらい!」
『ほー!』
「っ、!?」

うわ、すげえなみょうじ。ぎりぎり避けられてたけど、爆豪が眉間のシワを深くするぐらいには裏をかいた攻撃だった。序盤は、女の子って感じのお手本感満載の動きだったのに。元々のセンスなのか、飲み込みが早いのか、もしくは爆豪の教え方が上手いのか。いや、最後のは無いな。

『よけないでよばくごうくん!』
「アホか!!避けるわ!!」
『せめていっぱつぐらい・・!とりゃ!』
「ッ、動きがマシになってもまだおせェ!!」
『わ、わ!!』
「!」

シャープになった動きで繰り出されたみょうじの拳。個性を発動してるから、ギラリと鈍く光る尖った爪が爆豪の顔面スレスレを空振った。みょうじの直線上から素早く飛び退いた爆豪が、前のめりに転がった小さい体に少しだけ焦ったような顔をした時だった。

『まだだよ!!』
「ッな!?」

地面に手をついて、素早く身を翻したみょうじの蹴りが爆豪に迫る。マジか!?ってテンションは上がったけど、さすがに腕で防がれた。まあ、爆豪だしな。あいつの反射速度えげつないし。

『うう、これもだめか・・』

悔しそうに犬耳を垂れさせて唸るみょうじ。もう一回!そう息巻いたと同時に演習終了のブザーが鳴り響いた。

「終わりだアホ犬」
『くーやーしー!!』
「さっさと戻んぞ」
『やだ!もいっかい!』
「駄々こねてんじゃねェ!」
『うううう』

まだ暴れ足りないと駄々をこねる姿は、まるで散歩をし足りないと吠える子犬。そんなみょうじの首根っこを雑に掴んで戻ってくる爆豪は、飼い主にしか見えねえ。

「おつかれさん!みょうじ惜しかったなー」
『やだよーまだやりたいよー』
「しょうがねぇよ、一組15分の制限付きだからなあ」
『ばくごうくんのことこてんぱんにしたいー!』
「おいコラクソ犬調子のんなや」
『さいごゆだんしたでしょばくごうくん』
「してねェ」
『してたもん』
「してねェつってんだろがしつけぇ!」

喧嘩するほど仲がいい、ってやつ?爆豪の意表を突けたことがよほど嬉しかったらしいみょうじが吠えるたびに、対する爆豪の眉間のシワは深くなる。でも、なんて言うか、本気でイラついてる感じには見えねえんだよな。どっちかって言うと、みょうじの興味が今は自分だけに向いていることを喜んでるように見える。

『・・わたしよわっちい?』
「弱ぇ」
『そっかあ』
「けど、」
『けど?』
「ッ、なんでもねぇわアホ犬!!」
『えええ、りふじんすぎる・・』

いや、そこは素直に褒めてやれよ。手合わせの最中に尋常じゃないスピードで冴えていくみょうじの動きを、実際に対峙してたお前が気づいてねえ筈ないよな爆豪。

「爆豪が特訓付けてやったらみょうじめちゃくちゃ強くなりそうなのにな」
『!!』
「てめぇクソ髪余計なこと言ってんじゃ、」
『それだ!』
「こうなんだろォが!!」
『ばくごうくんおしえて!たたかいかたもっといっぱい!』
「黙れアホ犬」
『おーねーがーいー!』
「うるせェ」
『ばくごうくんがおしえてくれたらつよくなれるきがするんだもん』
「それ俺にメリットねぇやつだろぉが」
『あるよ!』
「あァ?」
『なぐりがいのあるサンドバックがふえる!』
「・・アホか」

呆れたように冷静にツッコミを入れた爆豪、その反応はたぶん正しい。仮にも女の子なのに、自分のことをサンドバック扱いするのはどうかと思うぞみょうじ。たぶん何にも考えてない上での発言だとは思うけど。

『ううう、すてられた』
「そもそも拾ってねぇわ」
「落ち込むなって、俺でよかったら教えてやっからさ」
『きりしまくんやさしい』

本気で落ち込んでる姿が段々可哀想に思えてきて、しょうがなく出した助け舟。あっさり乗ってきたみょうじを視界の端に捉えた爆豪の眉が、微かに動いた。もうひと押し、だな。

「爆豪は教えるの苦手なんだってよ」
『なるほど』
「ッ上等だクソ犬!!教え殺したるわ!!」
『わっ!?』
「えー、爆豪自信無いから断ったんだろ?」
「ンなわけねえだろカス!シネ!」
『おしえてくれるの?ヤッター!』

ぴょんぴょん跳ねて全身で喜びを表すみょうじを見てやっと気付いたらしい爆豪。眼力で人殺せんじゃねえか?ってぐらいの目で睨まれた。

「クソ髪てめぇハメやがったな」
「男に二言はねぇよな爆豪!」
『ねえよな!』
「・・アホ犬」
『あい!』
「覚悟しとけや」
『こわっ、こわいよばくごうくん!お顔がいつものひゃくばいこわい!』

もはやお前ヴィランじゃね?それヒーロー志望の学生の顔じゃねーよ。ついでに言うと女の子に向ける顔でもねぇわ。ビビりながらもがんばる!なんて息巻いてるみょうじの成長は楽しみだけど、その過程がさすがにちょっと心配になった。


20180913