学校が休みの日はつまらない。パパもママもお仕事だし、家にいても暇なだけ。

『ということで!あそぼうばくごうくん!』
「誰が遊ぶか掛けてくんなシネ」
『カラオケいきたい』
「一人で行けや」
『えきまえ、いちじかんご!』
「行かねぇつってんだろォがクソ犬!」
『まってる!』

今日一番の怒声がスマホの向こうで轟いていたけど、そんなのお構い無しに終話ボタンをタップした。よし、ちょっと早く家を出て散歩もしよう。めちゃくちゃ怒ってたけど、きっとキレながらでも爆豪くんは来てくれる。たぶん!おそらく!

「なまえ、出掛けるのか?」
『りくおはよう!お散歩いってくる』
「おれもいく!」
『かいもおはよー!いいよ!じゃあてんも起こしてみんなでいこー』

ハイイロオオカミの陸と海。シベリアンハスキーの天。3匹とも普段から勝手に散歩してるくせに、わたしのことだいすきなんだね。かわいいから嬉しいけどね。



「なまえが一人で散歩なんて不安しかない」
「うん、おれ達がしっかり見張っとかないと」
「ボクまだねむい・・」

服を着替えてリビングに戻ったら、なんかすごく失礼なことを言ってる陸海と眠そうな天。両親が忙しいお陰でわたしの親代わりみたいな感じだから、まあ、慣れてますけども。

『はいいくよー』

3匹と家を飛び出して、とりあえず近くの公園までのんびり歩く。天気はいいけど気温はそこまで高くなくてちょうどいい。近所の人とすれ違うたびに声を掛けられて、笑顔で挨拶を返しながら足を進める。

「狼が話しても驚かれない社会ってすごいな」
『ね、こせいしゃかい様々だね』
「なまえは今日誰かと会うの?」
『ばくごうくん!』
「ばくごうくん・・?」
「天、あいつだ。爆発小僧」
「え!?あの乱暴者?大丈夫なの?」
『ばくごうくんやさしいよ』
「・・それはお前にだけだ阿呆」
『りくなんか言った?』
「なんにも」

五分ほど歩けば見えてきた公園。遊具が並ぶ広場を抜けてさらに歩けば、緑が多い茂る円形の広場にたどり着く。

『ありゃ、せんきゃく・・』

この公園に来る時はいつも座っている茶色いベンチに、人影。少しずつ近づいて行けば、ジーパンにパーカー、フードを被った青年だった。

「・・狼?」
『え、うん、そうです』
「すごいね、3匹も」
『この子はシベリアンハスキーだよ』
「あ、ほんとだ」

第一印象は、ひ弱そう。なんていうか、普段からオールマイトとか爆豪くんとか切島くんみたいな筋肉男子を見てるせいで、そう思ってしまった。細くて、色が白くて、儚い人。

『おとなりいいですか』
「もちろん」
『ありがとう!ほれあそんどいでー』

リードなんて付けてないけど、頭のいいこの子たちはわたしが許可を出さないと側を離れようとしない。ぽんっと3匹の頭を順に撫でたら、嬉しそうに走り出していった。

「・・君が飼い主?」
『てん、ええっと、シベリアンハスキーの子はそう!』
「他の2匹は違うの?」
『しろいのがリクで、くろいのがカイ。あの2匹はもともとママのじゅうしゃなの』
「・・へえ」
『ママはもうりっぱなヒーローだから、わたしのおめつけやく?で、おいてってくれた』
「お母さんヒーローなんだね」
『パパもだよ』
「君も、ヒーロー志望?」
『うん!』

楽しそうに走り回ってる3匹を見ながら、のんびり会話を続ける。そう言えば名前も聞いてないや、でもまあいっか。

「なんでヒーロー目指してるの?」
『なんで・・?なりたいから』
「その、なりたいって思った理由を聞いたんだよ」
『ああ、ええっと、うーん』
「?」
『・・ひみつ』

別に話すのが嫌って訳じゃない。でも、なんとなく、また会える気がしたから。その時にまた話すよ、って笑ったら少しだけ驚いたような顔をしたあとに同じように笑ってくれた。

「うん、じゃあ、たのしみにしてる」
『うん』
「・・またね、なまえちゃん」
『ばいばい!』

手を振って去っていった背中を見送って、そこでやっと気づいた。

『え、なんでなまえ・・』

名乗ってはいないはず。陸たちがわたしのことを呼んでいた、?だめだあんまり覚えてないや。いつもならきっと、そんなに気に止めることでもない。でもどうしてか、頭の片隅でこの邂逅を"忘れるな"って声がする。それは自分の声なのに、まるで全く別人の声みたい。

「なまえ?どうかしたか」
『っ、りく・・』
「うっわお前顔真っ青だぞ」
『かい、だいじょーぶ』
「なまえ?喉乾いた?お水いる?」
『ありがとうてん、そうだね、コンビニでも行こっか』

いつの間にか足元に戻ってきていた3匹が、不思議そうな顔をしてわたしを見ていた。なんだろう、この、ザワつく感じ。らしくないほどに不安になった状態で、上手く働かない頭の中に思い浮かんだのは爆豪くんだった。

『・・あいにいかなきゃ』
「なまえ・・?」

無意識にこぼれた言葉。訝しげに喉を鳴らした陸の声は、どこか遠くの方で聞こえているかのように上手く聞き取れなかった。


20180915