普段の脳天気な表情とは百八十度違う、ぎこちない表情にはすぐ気付いてた。イライラしながらも結局足を運んだ駅前、俺に気づいてすぐに見せた作り笑いは笑えるほど不細工で。

「・・なんかあったンかよ」
『あった、というか、会った』
「は?」
『とりあえずカラオケいこうばくごうくん、んで、きいてほしい』

しゅんと垂れ下がった犬耳も見慣れたはずなのに、表情のせいでなんとも言えない気分になる。なんだこいつ、なんでこんなに落ち込んでやがる。と言うよりは、怯えてる?なにに、そんなもん分かるわけもないのにぐるぐると巡る思考が煩わしかった。



『てことが、あって、それで』
「得体の知れない不安ってやつか」
『・・うん』

受付を済ませて通された個室は広くもなく狭くもなく。ソファに深く座って俯いたまま、ぽつりぽつりと落とされた言葉。相変わらず漢字変換出来てねぇわ流れがおかしいわで、理解は出来たが時間が掛かった。

「犬共がお前のこと呼んでたのを聞いてたとかじゃないんか」
『それも、かんがえた、けど』
「・・・」

馬鹿がつくほどの脳天気なこいつが、ここまで言い知れぬ"何か"に怯えてるのは珍しい。心配なんてガラじゃねぇが、少なくとも不安要素としては十分だった。

『またあえるって、なんでか、おもったの』
「・・」
『でも、いまは、もうにどとあいたくないっておもってる』

油断したら聞き逃しちまうぐらいの、か細い声だった。泣いてんのかと思って顔を覗き込んだら、いつもの金色の目が不安げに揺れて俺を捉える。

「・・とりあえず、歌えや」
『え、え!?』
「今これ以上話しててなんか変わんのかよ」
『・・わかんない』
「変わんねぇよアホ犬、なら気にしてもしょうがねェだろ」
『・・でも、ちょっと、らくになった』
「・・そーかよ」
『ありがとばくごうくん』
「話聞いただけだ、礼言われるようなことはしてねェ」
『うん、でも、ありがと』

いつも通りには程遠い。それでも、幾分かマシなツラにはなったアホ犬。そうだ、お前は馬鹿みたいになんも考えずに笑ってろ。じゃねぇと、調子が狂う。

「ッ、」

そこまで無意識に考えて、無理矢理思考を止めた。調子が狂うってなんだ。なんで俺がこんなアホ犬に振り回されなきゃなんねぇ。

『レイラのしんきょくはいってるかな!』
「うっせェはよ入れろ」
『まってまって、デンモクはんのうしない』
「爪じゃなくて指で押せやアホ犬!」
『はっ!』

カツカツカツカツ 、無意識に出してた狼の爪でデンモクを叩いてるアホ犬に何故だかどうしようもなくほっとした。いつも通りの緩さ、アホさ、理由なんて分かってる。でもそれを認めるのはあまりにも癪だった。クソ腹立つ。なんで俺が、そんな風に思ってる時点でまた振り回されてることに苛立ちは募る。

「先に言っとくぞ、俺は歌わねェからな」
『ええ』
「なんでお前と二人で休みの日にカラオケ楽しまなきゃなんねェんだふざけんな」
『おんちでもわたしわらわないよ?』

く そ い ぬ が ! !
天然で人の神経逆撫でする天才かてめぇは。上等だコラ、煽った責任取って最後まで付き合えやカス!!!


20180915