02
「……結局リンクユニット貰っちゃったし」あれから一日経ち、グラサンの男…ヒメさん(そう呼べと言われた)から電話で呼び出しがあった。何かと思いALIVEへ足を運べば、いとも簡単にリンクユニットを受け取ってしまったのだ。いやこんな一般人に渡してもいいの?と焦っていると、ヒメさんはリンクユニットを渡す条件を2つ出してきた。
1つ。自分の身に危険が及んだ場合にのみ使うこと。
2つ。何があっても救護活動に使ってはならない。
兎に角、私が「ヒーロー」で無い限りは救護活動が出来ないという事らしい。私もそんな命を危険に晒すほど馬鹿ではないため、その条件があってもなくても救護活動をするつもりは無かったのだが。
とりあえずなくさないようにちゃんとしまっておかなければ。…とは言え、いつも手放さずにいるように言われているからなあ。制服のポケットでも別にいいか。ポーチに入れるよりは手放さないでしょ。そんな独り言をずっとぶつぶつ言っていると、突然私の右肩をがしりと掴まれて思わず呼吸が止まる。……え、何、不審者?リンクユニットを渡された事でALIVEに恨みを持った人間が私を殺しに…とか?怖すぎて後ろを振り返ることが出来ずに居ると、私の肩を掴んだままその人は口を開いた。
「つばめ、お前、なんでここに居るんだよ…!」
「……って、え、……敬?」
どこか聞きなれた声が私の名前を呼んだ。さっきとは別の意味でびっくりした私は恐る恐る振り返ると、そこにはかつての大切な友人…否、家族と呼ぶべきか、そのくらい私の人生の中でも重要人物がじっと私の目を見つめていたのだ。思わぬ人物の登場に息を飲んだ私は言葉を出せずに立ちすくむ。……今更、この人に合わせる顔なんてないのに、こんな状況でどうすればいいんだ。
「さっきALIVEから出てきただろ、…いや、それは後にするとしても!オレが言えたことじゃないけどさ、施設を出てから連絡しても全く出ねぇし、今の住所だって教えてくんなかったし!」
私の肩を揺さぶりながら必死になって訴える敬と目が合って、気まずくなってつい目を逸らしてしまう。今更まともに話し合える訳ないじゃない。敬が施設から抜けた理由は置いといて、私なんか行先も伝えず黙って去ったのだから。
「……ごめん」
「あーー!やっぱりごめんしか言わない気だろ!もっと他に言うことあるだろ!」
「え。えーと………久しぶり?」
「だーーーっ!そうだけど違う!!」
ぐっと顔を近づけて叫ぶ敬。正直かなりうるさい。どうやら私の返答は気に食わなかったらしく、敬は何かを言いたそうに口をもごもごさせている。私自身「ごめん」と「久しぶり」以外、何も思いつかないからどうしようもない。きっとまた口を開けば怒られるだけだろうし黙っておくのが吉だろう。
「あ〜もう!オレ達ずっと一緒にいたじゃんか!」
「?…うん?」
「だから〜!……さみしかった、とか、会いたかった……とか、あるだろ…」
「………へ、」
口を尖らせて少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らす敬に思わず拍子抜けしてしまう。もっと深刻に謝罪を求めているのだとばかり思っていたけど……すっかり忘れていた。そんな重く考えるほど彼が大人じゃないという事実を、すっかり忘れていた。なんだか重く物事を考えていた自分が馬鹿馬鹿しくなってきて、みるみるうちに笑いがこみ上げてくる。
「……ふ、はははっ」
「え、なんだよ、オレ真面目に言ってんだから笑うなよ!」
どうにも笑いが止まらない私を、今度はむすっとした顔で睨む敬はどこからどう見ても子供にしか見えない。大きくなってもこの可愛らしさは健在なんだなと思うと更に笑いが止まらなくなってしまう。だめだ、これ。久しぶりに笑うとこんなにも止まらないものなのか。
「……うん、さみしかったし、敬に会いたかったよ」
「……!!」
笑いすぎで出た涙を軽く拭いながら正直に伝えると、敬はぱあっと顔を明るくして嬉しそうににっこりと笑った。そうして犬のように私に抱き着いてきたものだから流石にそれは驚いたけど。
「オレもさみしかったよ、つばめ」
静かに、ぽつりとそう呟いた敬は抱きしめる力を強める。施設を出て、大人に挟まれながら暮らしてきた敬を思うと、「さみしかった」の言葉の重みが伝わってきて、どうにも気の利く答えが出せずにただ自分の腕を彼の背中に回すことしか出来なかった。
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