※話の冒頭でモブが夢主をフる描写があります。ご注意下さい。
「……いや、ごめん。 俺、名字の気持ちには答えられないんだ」
拝啓、神様。
どうやら私の恋は、実る事なく終わってしまったようです。
切欠は些細な出来事だった。入学式の日に道に迷った私を、親切に案内してくれた。あの後再会したのだが、その人が私の1学年上だったことが判明。幸いにも、同じ部活に入部し、そこからおよそ1年、彼に想いを伝えるべく、引退の日に告白した私だった────。
ものの見事に、玉砕しました。本当にありがとうございました。完。
「おいおい……。 んな湿気た面すんなよな……。 また出会い何ぞ幾らでも……」
「……エンマ……来てたの?」
困り顔をしながら私の前に現れたのは、小さな頃からずっと傍にいた、ほぼ幼馴染みと言っても過言ではない、エンマ大王その人だった。
何故彼と私名字名前がこんな関係を続けているのか、それを語るには、時間を私が幼稚園生だった頃のある春の日に戻さなくてはならないのだ。
***
そう、あれは私がまだ幼稚園生の頃のある春の日だった。 両親に連れられていった、ある春の日のお祭りでの事。
「……おとーさん? ……おかーさん? ……どこ? 」
恥ずかしい話、両親とはぐれてしまったのだ。今思い出すと、何であの時、りんご飴欲しさに繋いでいた母の手を離してしまったのだろうか? 幼子の我が儘として1つ、許していただきたく。しかも、この時には周りに人間の姿は1人もなく、手足を生やした古傘が跳びながら道を闊歩しているわ、お化けみたいな生き物が空中を散歩しているわ、謎のセミのような生き物が地面に倒れているわ……、私は、変な世界に迷い込んでしまったようだ。気がつかない内に。
屋台で買ったりんご飴を片手に、両親を1人で探していたところに、誰かがいたのだ。
「……おい、人間がこんなところで何やってんだ?」
「……ふぇ?」
── 知らない男の子(見た目だけは小学低学年に見えなくもないくらいだった)が、そこにいた。彼こそが、今でも幼馴染み(どう表現していいのか未だにわからないけど、便宜上こう表現することにする)のエンマだ。
「……おとーさん?……」
「……いや……生憎俺はお前のおとーさんではないが……。 どうした? はぐれたのか?」
そこからはもう早かった。質問に頷いた私を彼は俵抱きの容量で地面から飛び上がった。そのまま空中間をひとっ飛びしていったのだ。
無事に元の世界に帰ってきた折、私を地面へと下ろすなり、彼はそのまま姿を消してしまった。
すぐさま私の姿を見つけた両親と再会したことで事なきを得たんだけども、彼との出会いはまさに、こんな風だったのだ。
その後、また彼と再会をし、どうして長年一緒に行動するようになったのかは別の機会に語らせていただきたく。というか、そうさせて欲しい。
「……って、おーい。名前、俺の話、聞いてたか?」
「……う? 話? 何か話してたっけ?」
過去の回想に耽っていたお蔭で、彼のしていた話の殆どを聴き損ねてしまった。ヤバいヤバい。
もう一度、何の話をしていたのかをちゃんと聴くことにした。
「……だから、何の話してたっけ?」
「……お前、本当に俺の話聞いてなかったんだな……」
半ば、呆れられた。そりゃそうだ。人の話もろくに聞かずに、過去の思い出に耽っていた幼馴染み(人間)なんだ。そう思われたって当然だろう。そう考えていると、突然エンマは組んでいた右手を崩し始め、人差し指と右手を私の顎へと持っていく。
そして、優しく2つの指が顎に触れた途端、彼が落とした爆弾発言に顔を赤くすることになるのは言うまでもなかった。
「……俺ならお前をそんな風に扱ったりはしねえし、俺はお前を全力で幸せにするけどな」
私の心の中で、何かが落ちる音が聞こえた気がしたが、この時の私は、まだその事を知る由もなかったのだった。