小寒




「明けましておめでとう!今年もよろしくね!」
大広間に、本丸の主の元気のよい声が響き渡る。
新しい年が明けて、本日は睦月の一日である。
新年初めの集まりということで、刀剣男士たちは正装していて、絢爛な空間となっていた。
彼らの前に置かれた長机には、お屠蘇入った盃と取り皿、それから、おせちがみっちり詰められた大きな重箱が、等間隔で並べられていた。
主の音頭でお屠蘇を飲んだ後は、お待ちかねの食事である。手を合わせて挨拶をすれば、食卓は戦場と化した。
各々、好物を確保する為に、箸を高速で動かす。一通り取り皿に取ってから食べないと、人気の物は直ぐになくなってしまうからだ。確保が終われば、ゆっくりと戦利品を食べるか、雑煮をよそいに行くかで分かれる。
雑煮は、毎年数種類作っており、好みのものを選んで自分でよそう形をとっている。勿論、おかわりも自分でよそう。
「主くん、新年おめでとう!今年もよろしくね!うちの刀剣たちの食べっぷりは、相変わらず凄いね。作り甲斐があって嬉しいよ」
満面の笑みを浮かべてそういいながら、主の隣に、燭台切光忠は徳利とお猪口を持って座った。
「おめでとう!こちらこそよろしく!うちは大食漢が揃っているからねえ。大変だけど、確かに作り甲斐はあるわよね」
主は、挨拶を返しながら少し脇にずれた。
割り込む形になったので、先に座っていた山姥切国広が、非難するように睨んできたが、直ぐに視線を反らして食事を再開した。手に持った椀には雑煮が入っていて、噛っている餅に餡子が見える。
「あ、切国くん、やっぱりその雑煮にしたんだ。味はどう?」
山姥切は、新しいもの、甘いものが好きな刀剣だ。初めて作ったこの雑煮を選んでいるだろうと思っていたが、燭台切の予想通りだったようだ。
主が審神者の集まりで聞いてきた、餡子餅の入った白味噌仕立ての雑煮。かつて砂糖が貴重だった時代。せめて正月ぐらいは、ということで餡子作り、餅でくるんで雑煮に入れたらしい。
ここには、甘味好きが結構いる。なので、いつものやつの他に、試しに作ってみたのだが、皆の口にあったのかどうか気になっていた。
「………うまい。餅に餡子が入っているのが、またいい。おかわりしてくる」
かたりと箸を置くと、山姥切は空の椀を持って広間のすみにある、寸胴がある机へ向かっていった。
その途中で浅葱色の頭と合流していた。一言二言話すと、先を競うようにお目当ての寸胴へ早足で歩いていく。その後を、金色の飾りを着けた紺色頭が、ゆっくりとした足取りで追っていった。
「………一期さんと三日月さんも同じもの食べていたんだね。………あ、他にもそれなりにいた。お試しだったから、あんまり量がないんだけど、足りるかな?」
燭台切は、心配そうにそちらを見ながら呟いた。いさかいが起きないかはらはらして見ていると、主がぽんと右肩を叩いてきた。振り向けば、首を横に振っていった。
「大丈夫。近くにお目付け役を配置しているから」
改めておかわり机へ視線を向ければ、ふわふわした紫色の頭が見えたので、安堵の息をはいた。
「歌仙くんがいるなら、ひと安心だね。主くん、一杯どうぞ」
持っていたお猪口を渡して酒を注ぐ。主は一気に飲み干すと、燭台切に返してきた。徳利へ手を伸ばしてきたので、渡すと、並々とついでくれた。
くいと一思いに傾けて喉に流し込む。鼻に香りがぬけ、程よい温度の酒が通り抜けていく。
「いい飲みっぷりね。もう一杯いく?」
「お願いするよ」
お猪口を差し出すと、ふち一杯についでくれる。こぼさないようにそっと口元へもっていく。
温まった体に、冷たい風が吹き抜けていった。
今度は半分程飲んで机へ置いた。
いつの間にか閉じられていた障子が開かれ、中庭が見える。きれいに整えられたそこには、どっしりとした幹の千年桜が植えられている。
周りは雪化粧なのに、桜だけは薄紅の花を咲かせて花弁を散らしている。
「雪見酒に花見酒、か。なんとも贅沢だね」
「そうね。本丸(ここ)だけの特別なものかな」
主とそろって庭を眺める。
まだまだ寒い日は続く。
土間で冷える厨に冷たい水。
料理するのは、少し辛いけど、美味しいと残さず食べてくれる皆がいるから、頑張れる。西洋料理もお菓子も、色々作ってみたい。
本職は、歴史を守るために遡行軍の討伐することだ。だけど、折角人形(ひとがた)になったのだから、料理もたくさんやってみたいのだ。
「今年は、新しい料理に挑戦したいな」
ぽつりと、こぼれた燭台切の言葉に、振り向いて主は笑みを浮かべた。
「是非、覚えて皆にご馳走してね!」

おまけ
一期さんと三日月さんと切国くん
「雑煮に餡子餅とは、中々斬新な組み合わせですね。これもありです」
「そうだな。餡子の甘さがなんともいい塩梅だ」
「餅を焼くと香ばしさが加わって更にうまいぞ?」
「まことか!ならば、是非やらねばならぬな」
「そうですね!あ、切国殿っ、餅取りすぎですぞ!」
「全部は取っていないぞ」
三振りが寸胴前を陣取っているため、雑煮渋滞ができてしまった。
いつまでも退かない三振りに、苦情が出始めてお目付け役の雷が落ちるのは間もなくのことである。


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