※死ネタです。直接的な表現がございますのでご注意ください。

「あっ……だっ……くそっ……!」

 俺は、何もできなかった。己自身を、悔いていた。俺があのとき、こんなことを言って、アイツを、名前を突き放してさえいなかったら、こんなことにはならなかったというのに。
どうして、俺は。


 先に断っておかねばならない。俺のかつての想い人であった名前は、もうこの世にはいない。死んでしまったのだ。
突然の、事故で。

「私……、エンマは妖怪で、私は、人間で……。こうしてお互いに会って、話して、手を繋いで──。まるで人間同士のカップルがするようなことしてるよね……垣根が、違うのにね」
「……そうだな」
「……でもさ、なんで……こうなっちゃったのかな……?」

アイツが事故で亡くなるほんの、数日前、俺は唐突に別れ話を切り出された。それは本当に突然で。今でもその理由は、俺にはわからない。


 そしてそれから数日後。

「さくら中央シティで昨晩、女性が後方から走行していた自動車に轢き逃げされ、病院に運ばれましたが3時間後に死亡が確認されました。警察は犯人の行方を追って……………」

交通事故、基、轢き逃げされて亡くなったのだ。

「ェ……ェンマ……」
「もういい……! 喋るな名前……」
「ぁ……」
「ぁ……、何だよ……?」
「ぁ……りが……とぅ……」

 死に間際の、弱々しい姿を晒している名前に、俺はただ、名前の右手に、自身の手を添えることしかできなかった。否、俺には今、名前の怪我をどうにかすることも、そんな力はなかったのである。
そして俺が添えていた名前の右手から手を離した瞬間。

心電図モニターに緑色の直線と、ピーという音が病室内に響き渡る。それは、彼女が力尽きたことを如実に現していた。

「残念ですが……」

 医者が名前の脈拍を確認していく中、名前の両親は彼女に寄り添い、父親と思わしき男は彼女の名前を泣きながら叫んでいる。俺は静かにその場から離れ、自身の離宮へと帰らざるを得なかった。


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 それからおよそ、30年が経過した。名前が曾て生活していたさくらニュータウンも30年が経過した現在では、見慣れない高層ビルがところ狭しと建ち並び、俺が少年期に通っていた施設や駅は見映えがかなり変わっていたし、周囲に畑等があったところも、今は住宅街になっているところもある。
人間にとってみれば、30年という月日はかなりの年月の経過にしか感じられないかもしれないが、生憎俺達妖怪(しかも妖怪を統べる主だ。一応)からしてみれば、30年は微睡みのような感覚でしかないのだ。
 そして今日は8月15日。人間界では『お盆』というまた変わった風習が存在する。これはぬらりから聞いた、云わば受け売りのようなモノなのだが───。

「大王様……、先程申し上げてました『お盆』というものなのですが……」
「ぬらり、何かわかったのか?」
「先程使者に調べさせたところ、『盆入りの8月13日の夕方に迎え火を焚き、盆明けの8月16日の夕方に送り火を焚く』と、その期間だけ死者がよみがえることができるという風習があるようです」
「何!? それをすれば名前に会えるのか!?」
「なきにしもあらず……ですが、それ以外の期間では逢瀬することは叶いますまい……」
「そうか……。 でも、俺はやるぞ、それ。 ぬらり、そうと決まれば名前の家の付近まで行くぞ」
「御意」

 こうして俺は、ぬらりに調べさせた人間界の風習を用いて、名前と最初で最後の再会を試みたのである。



 そして、8月13日の夕方。名前宅の玄関付近に近づき、薪を並べた俺は妖術を用いて火をつけた。すると、煙はどんどん空へ昇っていく。それから暫くすると、見慣れた姿が空中に浮いていた。迎え火を観察し、俯いていた俺が顔をあげると、そこには名前の姿があった。

「エンマ……! 私……だよ、名前だよ……!」
「こんのバカ……! 俺を散々待たせやがって……」


 例え、明後日の送り火の火が尽きたとしても、俺と名前は、また何処かで巡り会うかもしれない、と名前の両肩に俺の手が静かに触れたとき、俺は頭の片隅でそんなことを考えていたのだった。

 例えそれが、一時の再会だったとしても。今は、逢瀬の時間を大事にしようと、俺は心に誓った。