(※社会人設定)

岩鳶高校を卒業して、東京の大学に入り卒業して、社会人になりもう11月が過ぎようといていた。もう季節は春から冬に変わり始めてはいるが、スーツは変わらず着ており、変わったのはダウンコートを羽織るくらいだった。幼馴染の真琴は水泳のコーチになってしまって、遥は世界に飛び立ってしまった。そんな2人を応援しながら、そんな私は偶然家の近くに見つけたクラフトビール屋さんに仕事終わりに毎日足を運ぶようになっていた。

「名前ちゃん、今日はどうするの?」
「うーん。今日はこぶしで」
「了解。今日は金曜日だし、ぐいぐい飲んじゃう」
「そうします」

ビールグラスを受け取り、一気に飲み干す。ビールの苦みが口の中でしゅわしゅわとはじけて美味しい。お通しで出されたナッツを食べながら、店主に会社の愚痴をこぼしているとカランカランとお店の入り口の扉に取り付けられているベルが鳴る。こんな時間に誰だろ。私が知る限り、今の時間帯に来るのは私だけのはずだ。珍しいと思い、物珍しそうに入り口を見れば、私は食べかけていたナッツを落とした。

「は…る…か?」
「名字か?」
「そうだけど、なんで遥がここに」
「真琴から聞いた。名前は毎日この店にいるだろうからって」
「そういうことね。隣に座って、帰国祝いに何か奢ってあげる」

隣に座りなさいな。という意味を込めて、隣の椅子を叩けば素直に遥は座った。

「何が飲みたい?」
「ビール飲んだことない」
「じゃぁ、マスター甘いやつで!」
「了解。名前ちゃんも次の淹れておくね」
「あざーっす」

ビールが来るのを待ちながら、遥の方に向く。遥は不思議そうに私を見る。私は言いたいことはあったけど、ちょうどよくビールが来て飲み始める。

「名前、飲み進めるの早い」
「お仕事以外なんだから、ビールくらい好きに飲ませてよね」
「分かった…」

そう言って、私が奢ったビールをグビグビ飲み始める遥。いつもと一緒のお店なのに、遥が隣にいるのがなんだか心が締め付けられて、もっと一緒にいたいと思ってしまう。私はビールが入ったジョッキをバーカウンターに置けば、頭を遥の肩に押し付ける。

「どうかしたのか?」
「寂しかった…」
「…」
「寂しかったんだから…!」

私はいつの間にかポロポロと涙を流しながら、遥にしがみついていた。真琴や貴澄はいるけど、遥がいなくて心にぽっかり穴が開いてしまっていて、遥が帰ってきた途端その穴が埋まっていくようで、私は寂しかったんだと再認識した。遥は私を抱きしめると、「俺も寂しかった」と耳元で小さく呟いた。

「もう、本当に本当に会えないか心配してたんだから!」
「ごめん…」
「あの〜、お二人さんいちゃつくなら別の所でしてくださいますか?」
「ごっ、ごめんなさい」

いけない。ここがバーだということをすっかり忘れていた。私は鞄からお財布をだし、マスターに飲み代をきっちり渡せば遥の手を引いてお店を出る。
多分、今日の宿は決まっていないだろうから多分、私の家か真琴の家に泊まるんだろう。私は恥ずかしさを紛らわすために、真琴の携帯番号に電話をかけるのだった。