どのくらいの時間が経ったであろうか、視覚と聴覚が完全に戻った頃、戦っていた筈の場所に仗助達は居らず、あろうことか近くにいた康一も居なくっていた。ただ血の跡が家の中へと続いているのを見る限り、皆家の中へ入ったようだ。視覚と聴覚を失っていたとは言え、あんなに近くにいた康一が消えるのを感じとれなかった自分の甘さに思わず下唇を噛み締めた。治っているとは思うが、目を覚ますまで確証が得られないというのに。
すぐに立ち上がり血の跡を追うと、2階の方へと続いている。躊躇することなく2階へと駆け上がる途中に、仗助の声が聞こえてきたと思えば康一の叫び声が耳を劈いた。
「康一!」
折角一命を取り留めた康一の叫び声に思わず名前を呼んだが、返事はない。それ故に嫌な想像をして焦り、その所為か足を絡ませて転びそうになるのを何とか防ぎつつ、2階へと上がり声のする方へと走り出した時だった。康一の叫び声とは比にならない程の大きな爆発音に、戻りたての鼓膜がまた破けるかと思わず耳を塞いだ。そしてすぐに音のした部屋へと身を乗り出す。
「仗助!康一!」
そこには傷だらけだが元気そうな仗助と流血した際に着いた血が顔にこびりついている康一がいた。なんだ、叫んでいた割には元気そうだ。
「い、今、乃亜さんの声がしたよな」
「確かに入り口の方から声はしたんですけど…姿は見えませんね」
少し脅えたように言い合って私の姿を探す2人に、今自分が見えなくなっているのだったと思い出し、能力を解除する。
「の、乃亜さんいつの間に!どこに居たんすか!」
「ずっと入り口前にいたの、2人は無事?…床にいる彼は?」
仗助に倒されたであろう床に倒れている金髪の彼に目を向ける。酷い怪我をして血を流している。だが彼のしたことがしたことであった為、可哀想とは思わない。よく見ればそこら一帯戦いの所為かボロボロで、壁に関しては大きな穴が空いている。先程の爆発音はこれのせいか。
「億泰の兄貴っスよ…かなりグレートに危ねえ奴だったぜ。康一、乃亜さん、早えとこよ、この家を出ようぜ」
億泰の姿が見えないこともあるし、敵はこの2人だけとも限らない。仗助の提案に軽く頷き、来たばかりの道を戻ろうとした時だった。
「えっ、僕を射った弓と矢はどうするの?」
「弓と矢?億泰の兄貴がどっかに隠したようだけどよ…捜すのかよ」
「う…うん」
康一の言葉で弓と矢の存在を思い出す。そう言えば承太郎の調査対象は弓と矢ではなかっただろうか、持ち帰って渡せば約束破ったことのお叱りもまあまあ緩くなるかもしれない。
「危ない弓と矢は回収した方がいいと思う、捜そう」
そんな甘い考えが思い浮かび、気付けばそう口走っていた。
「でもよ、確かこいつら父親がいるっつってたんだよ…俺、結構ダメージ大きいからよ、今はほっとこうぜ」
そう言いながら部屋から出ていく仗助。確かに歩くのも一苦労な感じの酷そうな怪我だ。彼等の父親がどれだけ強いかは解らないが、戦うとなれば危ない目に合うだろう。もう承太郎との約束は破りまくってしまっている。何度
幽波紋能力を使おうと同じ事だ、怪我を治してもいいだろう。
「仗助、待って」
そう言って後ろから手を伸ばし、腕に触れて仗助の怪我が治るように"願う"。次の瞬間頭を殴られたような酷い痛みに襲われ、そのままぐらりと視界が反転し、自分が床に倒れたのが解った。
「乃亜さん!」
仗助は倒れた私をすぐ抱き抱え、心配そうにこちらを見ているが、視力も奪われたのか近い筈の顔が霞んで見えている。
「そんな日光に当たってたわけじゃあねぇよな!?すぐ承太郎さんとこ連れてくんで!」
酷い頭痛と視力の低下だけだから大丈夫と開いた口は、出ない声に驚いて餌を求める金魚のように閉じたり開いたりするだけであった。時間はどれだけかかるか解らないが、必ず治るから気にしないでと伝えたいのに伝えられないもどかしさが仗助の焦りようを見て増すばかりであった。
「康一!乃亜の携帯持ってるだろ、承太郎さんの番号登録されていないか確認してくれ!」
「解った……登録されてる!」
携帯を慣れた手つきで操作した康一は早く電話しろと仗助に催促され、通話ボタンを押した。
やっと1人で出歩く権利を貰えたのにこんな騒ぎを起こしてしまっていては、しかも倒れたなんて連絡が入ればまた部屋の中に閉じ込められてしまう。それだけは避けたいと勝手に手が伸び、携帯を康一の手から奪い取っていた。
「うわあ!」
「乃亜さん何してんスか!」
仗助の声も聞かず、繋がる前に通話終了ボタンを押すだけ…と携帯を見るがボタンがどれか解らない。簡単な操作方法は画面に表示されているのに、焦りのままよく文字も見ずにいたら繋がってしまっていた。
『もしもし…乃亜か?どうした?』
承太郎の声が携帯から聞こえてきて、思わずビクリと肩が跳ねる。
「承太郎さー」
「あーもしもし!これ繋がってるの?承太郎、聞こえてるー?」
仗助が何か話そうとしてそれを無理矢理遮って話す。危なかった、"願う"のが遅れていたら仗助に全て話されるところだった。
『ああ、聞こえているぜ』
「よかった、今使い方を仗助達に教わってて試験的にかけただけ。用はないの、ごめんね」
『そうなのか、特に変わったことはないか?』
「ないよ、じゃあね」
『解った、早く帰れよ』
自分では切り方が解らないので承太郎に切ってもらうまで待ち、プツッという音が聞こえて画面に通話終了の文字が表記されてからホッと息を吐いた。
「承太郎さんに言わなくてよかったの?」
「大袈裟だよ、もう平気だから」
康一の問いかけにそう笑って返せば、仗助の顔も幾分か焦りが消えた。もう頭痛も視力も声も治っている。その代わり1度腰から下にかけて切断されたが、すぐくっついた。内面的な故障は治りが遅いが外傷はすぐ治るのだ。
「あれ…そういえば俺、怪我治ってる」
「ほんとだ、焦りすぎて痛み忘れちゃったの?」
からかうようにそう言えば、焦ってないっスよ!と仗助が元気よく返す。
「でも僕もさっき目を覚ました時、怪我ひとつなくて、仗助くんが治したんじゃないって聞いてこの家にはそういう能力があるのかと推測してるよ」
そんな勘違いをしてくれているのなら、もしかしたら
幽波紋を使ったって承太郎にもバレないかもしれない。少し抜けている2人でよかったと胸を撫で下ろす。
「乃亜さん腰ら辺結構血が染みてるけど、怪我してるんスか?」
「よく見たらお腹の方もついてますよ」
ずっと抱えられていてやっと下ろしてもらった時、異常な血の染み方に仗助と康一が疑問を抱いた。
「さっき彼の血の跡の上に倒れてしまったからかな…やけに冷たいと思ってた、また承太郎に買ってもらうから大丈夫!」
血は幾分か服に着いてしまっているが、この場は適当に誤魔化して、帰る前に破って捨てれば承太郎にもバレない。
「ならいいんすけどよぉ…怪我あんなら治すんで」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ弓と矢を回収して早くここから出ちゃいましょう」
2人はそれ以上聞いてくることもなく、そのまま隠されたという弓と矢を捜しに3階へと足を進めている。私も、と2人の後を続いた。
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愛の傷は治らない
Endless Dream