酒極まって友となる
クニミ
数ヶ月前、元彼から結婚式の招待状が届いた。ちなみに別れの原因は「冷めた」。クソ野郎。あと舐めてるにも程がある一通に腹が立つ。こうなったら超可愛くなって逃した魚はデカかったことを見せつけてやる。
そうして迎えた結婚式。明らかに新婦側の参列者が少ない。少しでも席を埋めるために元カノを読んだのだろう。とはいえ結婚式はつつがなく進行して幕を閉じた。披露宴で席を回る新郎が、一瞬びっくりした顔で私を見たので悔いはない。むしろこれでさっぱり縁を断てる。でも、今夜は飲みたい。そこで近場のオシャレな居酒屋へ単身で突撃した。
カウンターでドリンクメニューを見てると、背後から声がかかる。「あの、隣いいですか」まだ夕方で席はたくさん空いてるのに、と思いつつ振り返ると、結婚式に出席していた男性が立っていた。まさかナンパ!?と思ったが何となくヤケクソな気分だったので「どうぞ」と会釈した。
「新郎の元カノさんですよね」「え、そうですけどなんで…」「俺、新婦の元カレなんです」闇に染まる彼の瞳を見て、こりゃいかんとドリンクメニューを渡す。「飲みましょう!」「…ありがとうございます」こうして奇妙な傷の舐め合いが始まった。
一通り店員に注文を終えて、一息。「会社の懇親会でBBQに新婦…元カノと参加した時に、新郎といる🌸さんを見かけたので」「あ、そうだったんですね。気づけずすいません」「いや、人数も多かったし俺ら会話もなかったんで。覚えてない方が当然です」
「私のこと覚えてた…あなたはすごいですね」「あ、国見英っていいます。名乗るの遅くなってすいません」「いえいえ、お気になさらず。……ははっ」「?」「いや、“あなたはすごいですね”って英文直訳みたいな文章だなって」「ふっ、確かに」
「気づいたのは元カノがやたら新郎のことを目で追ってたから、それで…」「え、全然気づかなかった…その時にはもう関係できてたってこと…?」「いやBBQが出会うきっかけですね」「ええ〜マジ?ありえない…」「ほんとありえないっすね」どんどん血の気が引いていく二人の元へ、お酒がそっと運ばれてきた。
「あ、敬語抜けちゃってすいません」「あぁいえ。というか堅苦しいし敬語なしで行きません?」「じゃあお言葉に甘えて。お酒もきたしとりあえず乾杯しますか」「賛成」チン、とグラスを傾け乾杯。人も少ないからか料理が次々に運ばれてくる。料理と話、どちらをネタに酒をあおればいいのやら。
「国見さんはどうして参列したの?」「そこなんですよ」「⁇」軟骨の唐揚げを頬張りながらクニミさんの話に耳を傾ける。「🌸さんはなんでこんな式に出たのか気になって、声かけたんだよね」「ああ。そういう事」「ちなみに俺は悲惨な結婚式で見納めにしようと思ったんだけど」
「フツーに終わっちゃったね」露骨に嫌そうな表情で飲み進めるクニミさんを見て、なかなかいい性格してるなぁと心の中で一人ごちる。「私は『冷めた』って捨てられたから、可愛くなって見返してやるって火がついちゃって」「へぇ…いい性格してんね」「お互いにね」「それもそうだ」
ああだこうだと話ははずみ、お酒もほどよく回り、胃も満たされてきた頃。元カレへの怒りも昇華して、すこし晴れやかな気分だ。これもクニミさんのおかげだなぁ。一人で飲んでもこうはならなかっただろう。
「あの、連絡先交換しませんか?」そう尋ねてみると、少し驚いたようにクニミさんが見つめてくる。
「あ、すいません傷心中に。クニミさんと話してて楽しかったからつい…忘れてくだ」「いや、俺もどのタイミングで切り出そうか探ってたとこだったんで」「…あ、じゃあぜひ」
ケータイを取り出して、慣れた手つきで画面に指を滑らせる。私のラインに彼の名前が追加された。
「元カレの近況分かったら教えてくんない?できるだけ悲惨なやつ。メシがうまくなるから」
そっちが本命か〜い!と思わず心の中で叫ぶも、笑いの波は収まりそうにない。小綺麗なドレスに身を包み髪の毛もセットしてもらったというのに、腹抱えて爆笑してしまった。元カレに残していた一抹の想いは、目尻に浮かぶ涙とともに排斥された。
笑いのツボに入ってしまい、しばらく腹がよじれている私を見て、どこか安堵したような表情のクニミさん。最悪の結婚式だったけど、最高の友達ができたかもしれない。そう思うと今日は悪くない一日だった。
心機一転、店を変えよう。そう彼を2軒目へ連れ出すのだった。
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