「わしの孫を探してほしい」

そう依頼されたのは1ヶ月ほど前のことだ。車椅子で生活する齢九十三の御老体であるにも関わらず、孫がどうなったのか天にも上れない程気がかりらしい。

「イビト山に行ってもう10年以上経つ。」

そう呟いて深く息をつく御老体の目はどこか朧げだった。イビト山に足を踏み入れた者は誰一人帰ってこないという言い伝えは有名だ。親と喧嘩して家出した際にイビト山へ向かったらしいが、なぜわざわざそんな曰く付きの山まで赴いたのか定かではない。自暴自棄にでもなったのだろうか。

「そこでもし孫が迷ってたら、導いてやってほしい」

その御老体の依頼を引き受けた私は、イビト山について徹底的に調べた。図書館に篭り現地の付近に住処を持つ住人に話を聞いたりと1ヶ月間洗いざらい調査した。ネット検索でイビト山について記された本を入念にチェックし、蔵書が保管されているあらゆる図書館へ出向いた。現地の人に聞くときなんかはもう怪しまれないようにライターと称して名刺まで用意して配って聞いて周った。しかし、現実は私が想像していた以上に厳しい。

「まさか収穫なしで危険区域に突入することになるとは」

徹底的に洗いざらい入念に用意してきたというのに、だ。私の探し方が下手なのかもしれないが、イビト山に行方不明者が出るのは遭難の一言で全て片付けられていた。
高くそびえるイビト山に立ち向かい、ため息を一つこぼす。こう見えてもこの時のために登山靴を新調し、大きなリュックには生活必需品を用意してきた。それもこれも図書館で一番の収穫になった「初心者のための登山」という本のおかげだ。まるで私のために用意されたかのようだ、ありがとう。

「そろそろ行くか」

初心者が通るには手厳しい、それだけ整備されてないけもの道を前に足を踏み入れた。

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