分岐した道にも立ち寄りながら、雪の一本道を真っ直ぐ進めば、いくつかのパズルが道を塞いでいた。モンスターは道にパズルを仕掛けるのが好きなのかもしれない。そのパズルはそこまで難しいわけでもなく、少し考えれば解けるようなものばかりだった。

そうして目の前のパズルを解きながら先へ進み、また次のパズルが見えてきたと思えば、今度は木の側に大きな人影も視界に入った。……いや、人影ではなく骨影のようだ。サンズの倍近くありそうな背の高さから、別のスケルトンであることが伺える。思い当たる節がありすぎるその骨の影に緊張しながら、遠目から彼の様子を伺った。木の幹に何か仕掛けを施しているようで、彼はその一点に集中している。

「よう兄弟」
「よう、ではぬぁぁぁい!!サンズ!さてはまた見張りをサボってるな!?」
「いや、仕事をしに来たんだ。あそこでさっきニンゲンを見たからな」
「何ッ!」


えっ。
私の顔が引きつったのが自分でもわかった。サンズの指を指す先には○○の影に隠れている私がいる。顔を覗き込んで様子を伺ってたから、背の高いスケルトンと私の視線は確かに交わってしまった。
まだ、心の準備ができていない!
そしてお互いの間に数秒の沈黙が流れ、その沈黙を破るかのように、背の高いスケルトンは口を開いた。

「兄ちゃん、あれって…!」
「ああ、○○だな」
「なーんだ、そっか」

え、気づいてない?そんなバカな、私とパピルスは確実に目が合ったのに、○○の存在で片付けてしまうなんて。とても素直でユニークだ。しかし助かった。

「おい見ろよ。○○の後ろに何かいるぜ」
「本当だ!あれってまさか…!」

ニンゲン!?そう言って大騒ぎし始めた二人に、結局バレてしまったと苦笑を漏らした。
私に任せると言いながら、結局サンズが言ってしまったようだ。彼の中で何か心変わりするようなことがあったのかもしれない。そして今が、私にとってケジメをつけて前に出る時なのかもしれない。

「あ、あのー…」
「喋った!!」

そりゃ喋るさ。

「兄弟、ニンゲンは喋るんだぜ。犬じゃないからな」
「そうなのか!やいニンゲン!貴様をここから先に通すことはできない!」
「モンスターなら通れるのかい?」
「当たり前だ!捕獲対象はニンゲンだからな!」
「じゃあ、私は大丈夫だね」

私の一言に二人はこちらを見た。

「私はモンスターだよ」
「なにッ!」
「私は、ニンゲンの皮を被ったモンスターなんだ」

さて、この大雑把な説明で素直に頷いてくれるのだろうか。普通は頷いてくれないし、たわ言だと一蹴するところだ。気のおける友人ですら、証拠を見せながら仔細を説明することでようやく納得にありつけたのだ。ロイヤルガードへの憧れとたゆまぬ努力を続ける彼が、ハイ分かりましたと信じることは考えにくい。うなじを撫でながら彼の反応を待った。

「なーんだ。じゃあ貴様を捕獲しても意味ないか」

己の憶測とは裏腹に、彼は出会って数分しか経たない私の言葉をすんなり信用してしまった。

もし嘘だったら、それだけでニンゲンを捕獲する絶好のチャンスを逃していることになる。私がニンゲンか否かは、この地底を出る鍵になる程の重要で慎重になるべき件だ。それでも彼は一切疑いを見せず、ハイ分かりましたで本当に済ませてしまった。むしろロイヤルガードの道が遠ざかったことに少しガッカリしているようだ。

彼の純粋で前向きで疑心を知らぬその姿勢は、やっぱり手紙の時の彼と重なる。まだ会って数分しか経たないが、文面と何ら変わらないパピルスのそんな所に、少し安堵する私がいた。私の懸念は杞憂に終わったようだ。

「スノーディンでは見ない顔だな。観光にでも来たのか?」
「そうだね。観光みたいなものか。君はそのスノーディンって所に住んでるの?」
「そう!俺様はスノーディンでも知らない者はいない、有名なパピルス様だ!」
「ふふ、パピルスか。素敵な名前だ。よろしくね」

そう言って手を差し出すと、パピルスはキョトンとして私を見た。

「これが、ここでの挨拶なんだろう?」
「……そうなの?」
「ああ。君のお兄さんが言うんだ。間違いないさ」

そう言って握手を交わした。

その後、パピルスはまだできてないパズルがあると言い残し、私とサンズを取り残してその場をスタコラと去って行った。なんだか本当に嵐が通り過ぎた後のような平穏さが訪れたことに、苦笑しながらサンズを見た。

「うまくいったみたいだな」
「本当、信じてもらえなかったらどうしようかとヒヤヒヤしたよ」
「…俺が勝手にアンタがいるのをバラしたことには言及しないんだな」
「ああ。きっと、サンズがそうした方が良いと思って行動したんだろ?ならそれを尊重するさ。それにパピルスと挨拶もできた。結果オーライだ」

そう言って笑えば、サンズは少し息を吐いてそうかと呟いた。

「例えアンタがニンゲンだったとしても、兄弟はお前さんに悪いことはしない。だがまあ、あの場を切り抜けるには無難なウソだったかもな…」
「……サンズは何か勘違いしてるみたいだね」

パピルスが去った後をジッと見ていたサンズの目がこちらに向いた。

「私はウソなんてついてないよ。骨相手にそこまで狡なことはしないさ」
「heh、なかなかやるな」
「ふふ、仲良くなるにはジョークが良いって、友達から聞いたからね」

そう言って笑えば、サンズは愉快そうにカタカタと骨を鳴らした。

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