スノーフルから同居人が旅立ったのは昨日のことだ。パピルスとサンズに礼を告げ、モンスターだと自供するニンゲンの格好をした女は前へと歩きだした。

いつもパスタを作り、パズルを一緒に考え合う仲だったパピルスは、少し寂しそうに手を振っていた。彼女と会って1ヶ月もたたないが、彼女のさりげない仕草や話し方に、いつのまにか、どこかで既視感を抱いていたようだ。パピルスはそれが何なのかまだ分からずにいる。
きっとまた会えるという希望とまた会いたいという願いを胸に、パピルスは彼女の背中が見えなくなるまで見つめていた。

パピルスに好感を抱きジョークを愛する者同士、サンズもまた彼女のことを快く思っていた。メメは穏やかで、思いやりに溢れた、からかい甲斐のある性格の持ち主だ。この1ヶ月で随分とパピルスの手紙相手のことを知ることができた。

思い返せば今日の夕方ごろ、サンズは仕事終わりに夕飯の誘いをメメから受けた。グリルビーズの時の礼だと言って取り出したのはインスタントスープの袋とコップ。またちゃんとしたお礼は別の日にすると言って彼女は湯を沸かし始めた。サンズはこの時、この地下世界を少ない懐で歩き回る彼女にとって、リュックの中の食料はライフラインそのものなんだと思い知った。

「アンダインやっぱカッコイイよなー。悪いヤツらをブッとばしてくれるし、ぜーったい負けないし。」
「そっか、それはすごいな。…そのアンダインって方とも仲良くなれたらいいな」
「だよな!オレ大人になったらアンダインみたくなるんだ…」

アンダインと仲良くなる事は、おそらく難しいだろう。アンダインの気性の荒さと人間への熱き闘争心をもつ彼女が、みすみす見逃す事は考えられない。モンスターだと言い張る事で様々なロイヤルガードの包囲網をくぐり抜けてきたとしても、だ。本当に彼女がモンスターかは分からないが、見た目はまるでニンゲンである。本人の言い分など耳も貸さずに攻撃を繰り出すことなど、サンズは容易に想像できた。

「トリエルとの約束」

些細な扉越しの約束が、サンズの胸中にあるしこりを揺るがす。何もする気が起きず、基本的に何もしたくないと考え惰性を貪るサンズにとってそれは大きな楔となっていた。例え彼女が地上に何をもたらそうと、どうせいつか時間軸は巻き戻り全て無下にされるのがオチだ。結局全ては無駄となるのだ。

彼女がもし本当にニンゲンでないなら、もちろん約束には当てはまらない。

だが彼女にはパピルスが随分と世話になった。悪いヤツでもなさそうだ。それに、彼女がもし死んだらーーそう考えるとあまり良い予感がしない。パピルスにとってそれは大きな傷になることが嫌という程分かるのだ。まるでパピルスをパピルスたらしめている何かが欠落してしまう、そんな気がしてならないのだ。

ーーまるで一度そんな事でも起こったみたいだ。実際起こってない上アイツもピンピンしてるというのに…なんでだろうな?

「兄ちゃん読み聞かせまだ?」
「ああ、悪い。ちょっとボーンやりしてた。骨だけに」
「」
「ok」

サンズは深く息を吐く。まあ、彼女の行く末を仕事がてら見守っておく位はしておこう。そうサンズは胸に留め、本の表紙を捲った。

『パピルスへ

君が作るパスタだ、とっても美味しいんだろうな。パピルスのデリバリーパスタか!とても素敵なアイデアだ!…でもありがとう、気持ちだけでも十分嬉しいよ。私のためにあまり無理をしないでね。

パピルスは友達が多くて本当にすごいや。平凡でちっぽけな私もその中にいれてもらえて、とても光栄だよ。

そういえば、親友になるにはデートが必要なのかい?仲を深めるために料理ならたくさん作ったんだけど、デートはまだできてないや。デートに誘うの、なんだか緊張するなあ。また勇気を出してみるよ。

メメより』

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