アリーチェ・カデロ、17歳。高校5年生である彼女は調理の専門学校へ通っており、秋にはマトゥリタ卒業試験を通過して卒業する見込みだ。
 父子家庭で金銭的な余裕が乏しかったため、大学へは進学せずに就職する道を選んだ。就活を行う傍らで学校から大量に課された宿題をこなし、更にマトゥリタに向けた勉強と実技の練習をしていた。自然と1日のタイムスケジュールはハードになり、5年生に進級してから彼女の余力は徐々に奪われていた。

 そう、だからなのだ。

『今日も遅くなるから、ひとりで食べてくれ。僕の分はいらないから』
「大丈夫よ、いつもの事だから気にしないで」
『…ごめんな』

 ここ数ヶ月、全く帰ってこない父親からの電話に嫌気がさしていた。アリーチェは皮肉も込めてつっけんどんに返すも、父親は謝るだけ。いつもの事だ。

「もういい?切るわよ」
『ああ、待ってくれ』
「なによ」
『アリーチェ、愛してるよ』
「なら早く帰ることね」
『ハハ、それもそうだ』
「じゃ」

 父親の言葉を待たずに電話を切る。

(いい加減にしてよ)

 毎日仕事で泊まりづめ、父親が家に顔を出す事はほとんどなかった。家計を支えるためだと冷静になれば分かるし、そういつも言い聞かせている。だから毎日夕飯を二人分作っては、いつ帰ってきても揃って食事ができるように準備をして、結局タッパーに詰めて翌日のランチになるのだ。
 実際声を聞くと苛立ちが募ってしまい、つい当たってしまう。アリーチェが父親にうんざりするのも、無理もなかった。

 まさかこの会話が最後の言葉になるとは、思いもしなかったのだ。


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