心理テスト



「あ、プロデューサーちゃん居たっすー!」
「んー?」

デスクワークで凝り固まった体を緩めるべく、席を離れてコーヒーを飲んでいた私のもとにやってきたのは、伊瀬谷四季。私の担当アイドルの1人だ。
四季はその勢いのまま、私の目の前に左手を広げた。

「オレの指、どれか1本引っ張ってみて!」
「なぁに、心理テスト?」
「いーからいーから!直感でバーンと!」

キラキラと目を輝かせながら、早く早く!と急かされる。
その様子はおもちゃを投げてもらえるのを待っているわんこのよう…とか言ったら怒るかな。

「はいはい…ん、これでどう?」

少し考えて、ぎゅ、と四季の人差し指を握ると、さっきのテンションから一転。不満そうだ。

「えぇぇー人差し指〜?…中指よりはイイっすけど…」
「なによーで、これは結局なんなの?」
「えっと…これ、手を出した相手をどう思ってるか、握った指でわかるっていう心理テストっす。親指が頼れる相談相手で、中指がふつーの友達、薬指が結婚してもイイって思える人で、小指が理想の恋人」

ここまで言うと一息おいて、唇を尖らせながら続けた。

「…でもって、プロデューサーちゃんが握った人差し指は仕事とか、学校とかのいい仲間って意味なんっす」
「なるほどねー。私は、あってると思うけど?」
「そ、それはそうかもしれないっすけど―…これはこれで、フクザツというか…」
「なーに?四季はどの指握ってほしかったの?」
「う、それはキギョー秘密っす!」
「なにそれ」

ふふっと笑って、私は手元の残りのコーヒーを飲み干した。
四季はまだ不満げに何かぶつぶつ言っているが、処理待ちの書類の山が私を呼んでいるので、この辺りで切り上げよう。

「さて、休憩おしまい。四季はこれからレッスンでしょ?頑張ってきてね」
「…うん、そうっすね。オレ、頑張るっす!プロデューサーちゃんに、もっともっとカッコイイって思ってもらえるように!それじゃプロデューサーちゃん、いってきます!」

1人で納得して宣言をして、四季は来たときと同じく、嵐のように去って行った。


そして残された私は、深く息をついた。
――実はこの心理テスト、知ってるんだよね。
わかっていて、私は人差し指を握った。
絶対、四季には言えないけど。

……何も知らなかったら、どの指を握ってたかな。
なんて考えてしまうくらい、私は四季に対して、プロデューサーらしからぬ感情を抱きはじめてしまっている。
それを自覚したのは、つい最近のこと。

だが、相手は担当アイドル。そして現役高校生だ。
アイドルとプロデューサーで、高校生と成人をとっくに過ぎた社会人という関係性。
それを忘れちゃいけない。
だからこの気持ちは、なんとしても隠し通さなければいけないのだ。
たとえ戯れの心理テストであっても、結果をわかっていて本心を晒すなんて、できない。
余裕のある大人の振りをしてやりすごさなければ。

「さ、お仕事お仕事」

それ以上そのことを考えるのはやめて、私はデスクに向かった。
私はみんなをトップアイドルにするんだから。
今は、それだけを考えよう――




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