天道輝と暮らす/昼



私の恋人はアイドルの天道輝。
そして私は、彼の所属するDRAMATIC STARSの担当プロデューサーだ。

私は自他ともに認める、恋愛音痴女でもある。
だから、酔った輝に「プロデューサー、俺の事好きだったりして?」なんて冗談で言われて初めて、自分の恋心に気付いたクチだ。

とは言え、自分の担当するアイドルに恋するなんてプロデューサー失格だと思って、気持ちは絶対に隠し通す…つもりだったが。
鈍感であると同時に、自覚してしまった気持ちを隠すことも下手だった私は、薫さんに「君は中学生か!!」とキレられたうえ、「君たちはさっさと付き合え!そしてさっさと別れてしまえ!」と言われてしまい、翼さんにまで「プロデューサーはわかりやすいですね」なんて苦笑しながら言われ、輝には全力で謝られる始末。
そして、輝に「俺から言わせてくれ」と告白され、紆余曲折を経て、付き合うことになった。

そんなこんなで、薫さんには悪いけど、お付き合いは続いており、私たちは思いきって同棲することにした。
セキュリティが厳しいことを基準にマンションを選んだだけあって、今のところ平和に過ごせている……


……んだけど。
引っ越しと大きなライブが重なってしまい、しばらくの間、家の中は段ボールだらけのまま。
必要な時に段ボールを開けて引っ張り出して使う、というその場しのぎで生活していた。

ようやくライブも終わり、久しぶりの連休、そして久しぶりの2人共通のお休みということで、昨日今日で段ボールを片付けることになりーー


「これをまとめれば…終わりだー!!」
「やったー!長い戦いだったーー!!」

潰した段ボールを縛り終えた輝と私は、2人で任務完了を喜びあった。
片付け終わった部屋を、満足感いっぱいで見回す。
これぞ、想像していた理想の我が家です…!

ふと時計を見上げれば、正午を少し過ぎていた。
昨日相当頑張ったし、今日も朝からフル稼働していたから、予定よりだいぶ早く片付いた…!
…う、時間を認識したら、お腹が空いてきちゃった。

「ランチに行こう!色々頑張った自分たちへの、ご褒美ランチ!」
「おっ、いいな!ちょっと奮発するか!」

欲望のまま私が提案すれば、輝も笑って受け入れてくれた。

「どっか行きたいとこあるか?」
「んー…美味しいもの食べたい!」
「そりゃそうだろうけど、もっと具体的な希望をだな…とりあえず、なまえは先にシャワー浴びてこいよ。汗かいたろ?」
「うん、シャワー浴びながら考えとく!」
「おう、俺も調べとく」

お言葉に甘えて、荷物整理でかいた汗を流して戻ると、輝は「いくつか候補あげといたから、選んでおいてくれ」と言い、交代でシャワーを浴びに行った。

パソコン上に開かれた、いくつかのお店のページを眺める。
さすが輝チョイス、私の好みを突いていて、どれも捨てがたい。
うちから近いのはここだけど、今の気分だとこっちのお店の方が…
うーーん、悩むなぁ…!


「決まったかー?」

しばらくすると、濡れた頭をがしがしと拭きながら輝が出てきた。

「どこも魅力的で決められない…」
「ハハ、そんなことだろうと思ったぜ。とりあえず、今日のところはここでどうだ?他の店も、また別の日に行こう」
「うん!」

そんなやりとりをしてたらお風呂上りの火照りも引いてきたし、着替えてお化粧しなくっちゃ。
服は…この間思い切って買った、ワンピースを着よう。
仕事の時に着るには、ちょっと甘すぎるから…今日は絶好の機会だ。

あっと…そうだった!
ちょうど、この間コーナー収録があった番組の時間だ!
それをチェックしながら、お化粧しよう。
そう思って、自分の部屋から化粧道具を持ってきてテレビの前に陣取り、番組を見ながらぺたぺたと化粧をしていると、着替え終わった輝がじーっと私を見てきた。

「な、なに?そんなに見られると、やりにくいんだけど…」

私は劇的にbeforeとafterが変わるほどのメイク技術は持ってない。
それに、女性ほどではないにしろ、アイドルである輝はメイクをされることが多いんだから、特に珍しいことはないと思うんだけど…

「へへ、悪い悪い。俺、なまえが化粧してるの好きなんだよ」
「え?」

なんで?
男性ってどちらかというと、化粧ってしてない方が好きなんじゃないの?
輝の好みを、聞いたことはなかったけど…
私がその発言に首を捻ると、ふっと笑って輝は続けた。

「仕事の時は戦闘モード!って感じがするけど、今日みたいな時は、可愛い感じのメイクに変えてるだろ?それを見ると『ああ、俺のために可愛くしてくれてるんだなー』って思って、スッゲー嬉しいし、愛おしいなって…俺だけのなまえなんだなって思えるから、好きなんだ」
「なななな…」

なんてことを言ってのけるんだ、この人は…!
そりゃあ輝の言う通り、仕事の時とプライベートの時で、メイクは変えてる。
もちろん、女友達と遊ぶ時と、輝と出かける時だって違う。
けど、それをそんな風に見られていたなんて…!!

「〜〜〜〜もうっっ!邪魔しないで!」

…輝の視線から顔を背けて、可愛くない返事しかできないけど。
ううう、顔が真っ赤になって、チークをどこまで入れていいかわかんないよ!!

「ええー?俺、なにもしてねーんだけど」
「いいから、あっち行っててー!!」
「ハハ、可愛いやつ!俺も用意してくるわ」

ニヤニヤと悪戯っぽく笑うと、輝は自分の部屋に向かっていった。
もう!
輝といると、心臓がいくつあっても足りない…!
…見ようと思ってた番組も、気付いたら終わってた。あーあ…

付き合う前からだけど、私は輝に翻弄されっぱなしだ…!
恋愛経験、いや、人生経験の差だろうか…うう、悔しい。


それから…予定より無駄に時間はかかっちゃったけど、なんとか用意をし終わって、部屋を出た。
輝は変装と風邪の予防のため、帽子とマスクをしてる。
…ひげが見えないと、やっぱりちょっと幼く見えるよね。
本人に言うと機嫌を損ねるので、言わないでおくけど。

「あ、ランチ終わったら、色々この辺のスーパーチェックして、あと買い溜めもしたいから、別行動ね」

マンションのエレベーターの中でそう言うと、輝は不満げに眉を寄せた。

「は?なんでだよ」
「なんでって…生活用品揃えたいから。アイドルが女連れで生活用品買ってたら、完全にアウトでしょ?」

引っ越したばかりで、この辺りのお店を開拓できていないうえ、自転車操業状態だったため、揃っていないものや、ストックしておきたいものが結構ある。
輝にも必要なものとは言え、アイドルである輝に、私と一緒にそんな生活感の溢れる、あからさまに同棲してます、っていう買い物をさせるわけにはいかない。
…同棲しているとは言え、この関係を積極的にオープンにしていくつもりはないのだから。

「なまえのプロデュース方針に文句をつけるつもりはねえけど、そればっかりは受け入れられないな。なまえと付き合うって決めた時点で、色んな覚悟はできてる。俺はファンに嘘はつきたくない」
「で、でも…トップアイドルを目指す中で、そんなリスク負わせられないよ」
「なまえと付き合うことを、リスクだなんて思ったことない。翼と桜庭にも俺の覚悟は話してあるから、大丈夫だ」

そう言いきった輝の後に続いて、戸惑いながらエレベーターを降りる。
そしてそこで、ぎゅっと手を握られて…私に、返す言葉はなかった。

どうしよう……すごく嬉しい。
けど反面、すごく怖い。
私は、輝の言葉を素直に喜んでいい立場じゃないのだから。
この人の足枷になるのは、絶対ダメなのに。
誰かに見られる前に、この手をほどかなきゃいけないのに。

繋いだ手から、私の揺らぎが伝わったのか…
輝は再び、私の手をぎゅっと強く握った。

「誰にも文句を言わせないくらい、スッゲーアイドルになれば問題ないって!」
「…なんか、いきなりざっくりしたね」
「はは、これくらいでいいんだよ!なまえは真面目すぎるからなあ」

一番星という、大きな夢に向かって、何事も諦めない、欲張りな輝。
でも、この人とだったら、乗り越えていける。
そんな風に思わせてくれる輝の魅力を、独り占めしたいし、もっと多くの人に知ってもらいたいとも思う。
…私も大概、欲張りだ。
私たちは、案外似た者同士、ってことなのかな。

不安がなくなったわけではないけれど。
でも、輝の覚悟には、ちゃんと応えなきゃ。
…プロデューサーとしても、恋人としても。

「…それじゃあ、輝にも、覚悟を決めてもらって…がっつり買い込みますか!お味噌と、お米と、トイレットペーパーと、ティッシュと…」

わざとらしくテンションを上げて言えば、輝も大袈裟にリアクションを返してくれた。

「うへぇ、マジかよ!てかそれ、全部1人で買う気だったのか?」
「まさか!何回かに分けるつもりだったよ」
「それじゃ、今日は重たいもの優先だな…重たいものは、俺が居る時にしろよな」
「…うん、ありがと」

こういう時にどんな反応をしたらいいのか、わからないけど。
精一杯の笑顔を返して、今度は私からぎゅっと手を握り返す。
すると輝も嬉しそうに笑ってくれた。

「夕飯は家で食べようぜ。俺が作るからさ!」
「やった!輝のご飯!」
「何食べたい?」
「えー…まだお昼食べてないから、それ次第?」
「それはそうなんだけどさ…腹膨れてる時に食べたいものって浮かばなくないか?」
「まぁねー…うーん…そういう輝は?」
「俺か?そうだなー…アスランに教えてもらったレシピで、試してみたいやつはあるけど…」
「じゃあそれで!アスランさんのレシピなら間違いないし!」
「おー決まりだな!」

私の隣にある、空に浮かぶ太陽に負けないくらい眩しい笑顔。
その笑顔をもっと輝かせられるように。
輝がくれるものたくさんのものを、少しでも返せるように。
私ももっと頑張らなくっちゃ…!




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