Jealousy〜case01:伊集院北斗



なまえさんは俺の恋人。
ただ一人、唯一無二の恋人だ。

大学の授業で、その凛とした横顔に魅かれて、言葉を交わすうちに好きになって…告白をしたけれど。
顔を顰めて「なんの罰ゲームですか?」なんて言われてしまった。

俺の真剣な気持ちが伝わるよう、何度も何度も告白をして…
最後には根負けしたように「伊集院さんも物好きな…そこまで言うなら、試してみます?すぐ飽きると思いますけど」と、ようやく受け入れてくれたのだった。

俺の方は飽きることなんてないけれど、恋人になってからも、なまえさんはいまいち俺の気持ちを信じてくれていないようだった。
…俺がアイドルで、しかも軽薄だと思われているみたいだったから、仕方ないことなのかもしれないけれど。


◎◎◎


久しぶりになまえさんと同じ授業に出れることになり、彼女の姿を探すと、その周りに人の輪ができていた。
その中には、女子も男子も混ざっていて…親しげに、なまえさんの肩に触れる男子もいた。
…どろり、と心の中に黒いものが渦巻く。

けれど、それを心の奥に押しやって、いつものように「チャオ☆」と近づけば、周囲は色めきたった。
一番反応して欲しいなまえさんの顔色は変わらない。
でも、それはそれでなまえさんらしいとも思う。

そしてすぐにチャイムが鳴り、教授がやって来て慌ただしくみんな散って行ったので、俺はなまえさんの隣に座り、小声で話しかけた。

「…モテモテだね」
「私のノートが、ね。みんな現金なものだよ」

クールにそう返されて、テスト期間が近いことを思い出す。
なまえさんが誰より真面目に授業を受けているのは、周知の事実だ。
だからみんな、なまえさんに話しかけていたんだろう。
迷惑そうにはしているけれど、最終的には断らないのが、彼女のいいところだと思う。
…俺もなまえさんのノートには、とてもお世話になっているから、文句は言えないし。

「…この授業のあとは、空いてたよね?デートしたいな」
「ん、いいよ」


そうして授業の後、車を走らせて、彼女が食べたいと言っていたスイーツのお店、彼女に似合いそうだと思ったブランドのお店をまわる。
それから、彼女が観たいと言っていた映画を観に行って…目星をつけていたレストランで夕食をとった。
こんな風に彼女と長く過ごせるのは珍しいから、つい気合が入りすぎてしまったかもしれないな。

楽しい時間が過ぎるのはあっという間で…彼女を家に送り届ける途中、隣に座った彼女が言った。

「今日は色々ありがとう…でも、何かあったの?今日は、いつもと違う気が…仕事、大変なの?」
「そんなことはないよ。なまえさんと過ごせる時間が少ない分、濃密なものにしたいなって思ったんだ」
「それは…なるほど、と返せばいいのかな」

可愛らしい反応が返せなくて申し訳ない、と謝られる。
そんなところもなまえさんらしくて、俺は好きなんだけど。

「それと…なまえさんが俺以外の誰かにとられないように、と思ってね」
「…え?はは、杞憂だよ」
「自覚がないみたいだけど…俺でも嫉妬するんだよ」
「モテるのは、伊集院くんの方でしょう。アイドルなんだし」

相変わらずの反応に、俺は車も人もあまり通らないところに車を停めた。
エンジンも止めて、シートベルトを外す。

「アイドルの俺はそうかもしれないけど…プライベートの伊集院北斗っていう人間は、なまえさんの事しか見えてないよ」
「そう言われても…嫉妬されるようなこと、あった覚えがないんだけど…それに前にも言ったけど、私のことを好きになるなんて物好きは、伊集院くんくらいなものだよ」

自覚のないなまえさんは、困惑して眉を寄せた。

「…さっき、誰かに触れられていたよね」
「さっきって……ああ、もしかして、授業前の?あれは単に馴れ馴れしい人、ってだけでしょう?」

彼女の方に出来るだけ身を寄せて、頬に手を滑らせると、なまえさんはびくりと身体を揺らした。

「…俺、なまえさんが思ってるよりずっと嫉妬深いんだ。覚えておいて」
「っ…!?」
「なまえさんのことが本気で好きだよ。だから、誰にもなまえさんに触れてほしくないし…なまえさんに信じてもらえないのも、辛いな」

どんなに甘い言葉を紡いでも、顔色を変えないなまえさんも…こうやって触れると、真っ赤になって可愛い反応をする。
そんな姿を知ってるのは俺だけ。そのはずだ。

「ご、ごめん…私…気を、つける…」
「…俺のものだっていうしるし、つけさせてもらおうかな」
「え?なっ…ひゃぅ…!!」

開いていた首元に吸い付いて、赤いしるしをつける。
…ダメだな、抑えが利かない。
なまえさん相手だと、『いつも通り』がわからなくなってしまうみたいだ。

「…ごめん、やっぱり今日は帰せそうにない」

俺がそうであるように。
なまえさんも、俺なしでは生きられない様になってほしい。
…そんなことを考えてしまうくらい、俺はなまえさんしか見えないから。
だからどうか、俺のことだけを見て…?




Main TOPへ

サイトTOPへ