「あ、プロ…」
「プロデューサーさん!」
事務所に来て、プロデューサーに声をかけようとしたら、他のアイドルに先を越されてしまった。
今日も、プロデューサーはみんなに囲まれてる。
プロデューサーは事務所にいると、難しい顔でパソコンの前に座っている時や電話の時以外、誰かしらがそばにいる気がする。
…俺だけのプロデューサーじゃないことは、わかってる。
いつも俺たちのために、遅くまで忙しく働いてくれていることも、知ってる。
だけど…もっと俺のこと見てほしいし、もっと話したいって、どうしても思ってしまう。
自分の子供っぽさがいやになるよ…
プロデューサーたちから離れて、1人でラウンジのテーブルに突っ伏す。
う〜〜もやもやする……はぁぁ。
……特大のため息が出ちゃった。
情けないなあ、俺。
ちょっと時間をおいて、落ち着いたらまたプロデューサーのところに行ってみよう。
あ、でも、外出しちゃわないかな…予定だけでも確認してくればよかったな。
そうやって、うじうじと考えこんでいたら。
「はーやーとっ!」
「わっ!?」
いきなり声をかけられて、椅子から転げ落ちそうになった。
しかも、プロデューサーのことを考えてた時にプロデューサーから呼ばれたから、心臓がバクバクいってる。
「ご、ごめんごめん。そんなに驚くとは思わなくて…」
「う、ううん、大丈夫…なに?プロデューサー」
体勢を立て直すと、プロデューサーはなぜか腕を広げていた。
「おいでー?」
「えっ、な、なんで」
「いいからいいから」
そう言うプロデューサーの意図がわからないまま、立ち上がっておずおずと近づくと…
ぎゅっと抱きしめられた。
柔らかい体温に包まれて、ドキドキして慌ててしまう。
「ちょっ…プ、プロデューサー!?」
「最近ちゃんと話せてなかったし…見てあげられてなくて、ごめんね。隼人がいつもリーダーとして頑張ってくれてるから、つい安心しちゃって…」
…なんで、わかったんだろう。
もしかして、さっき気付いてたのかな。
それとも俺、そんなにわかりやすかったかな…
「何か気になることとか、不安なこととかあったら、相談してね。仕事のことだけじゃなくて、それ以外のことでもいいし。私もまだまだ未熟だし、頼りないかもしれないけど…サポートできることは、なんだってするからね」
頭をぽんぽんと撫でながら、プロデューサーが優しい声で話してくれる。
それだけで、さっきまでもやもやして、うじうじしていた心が、ふっと軽くなるようだった。
その優しさに、つい甘えたくなって…おそるおそる抱きしめ返したら、思った以上に柔らかくて、ドキドキしてぱっと離れてしまった。
「えっと…その…ありがと、プロデューサー。プロデューサーは頼りなくなんかないよ!いつも頼りにしてるから」
「そうかな?そう言ってもらえると、嬉しいけど」
「もし、今時間があるなら…次の曲のことで相談があるんだけど…」
「もちろん、いいよ!」
プロデューサーは笑顔でそう言って、また俺の頭を撫でた。
…嬉しい反面、子供扱いされてることに、ちょっとひっかかるけど。
子供なのは事実だし、それをプロデューサーに対して怒るのは筋違いだよな。
いつかこのひとに「かっこいい」って思ってもらえる、大人の男になりたい。
それで、俺がプロデューサーを支えられるようになれたら、もっといいな。
――そっと胸に灯ったあたたかいものがなんなのか、今の俺にはわからないけれど。
これは大事にしていていいもの。それはわかるから。
このあたたかいものを…今は、俺の胸のなかだけで大事にしていこう――