魔法のことば



撮影の待ち時間に、雑談をしていたFRAMEの3人。
話が一区切りしたところで、龍が「そういえば」と口にした。

「最初は気のせいかなと思ったんですけど…俺、最近ついてるんですよ!特に、月曜日と水曜日と土曜日についてる気がしてて!」
「あ?なんだそれ。やけに細かいな」
「だてに不運と付き合ってきてないですからね!」
「確かに最近、龍が不運に見舞われることが減った気はするな。特定の曜日かどうかまでは、意識していなかったが…」

龍の不運っぷりをよく知る2人は、興味深そうに龍の話に相槌を打つ。
信玄に同意され、龍は確信を得たように話を続けた。

「事務所に入って、おふたりやプロデューサーさんに出会ってから、不運体質は改善されてきたんですけど…」

あれでなのか、と英雄はツッコミかけたが、目線で信玄に制されて言葉を飲み込んだ。
どうやら、信玄も同じことを考えたようだ。
しかしそれに気付かない龍は、話を続けた。

「ここ3か月くらい、特についてて、よくよく思い返してみたら、特定の曜日に多いなってことに気が付いたんです」
「曜日によって、運のバイオリズムのようなものがある…のか?」
「いや…『3か月前から』『月水土』…もしかして、なまえじゃないのか?」
「「なるほど!!!」」

英雄が前職で培った(?)推理力をもって仮説を導き出すと、龍と信玄は声を揃えて同意した。
なまえは、3か月前に315プロでバイトを始めた女の子だ。
大学生で、週3回のバイトとして事務所で働いている。
勤めている時間は短いながらも、テキパキと仕事をこなす姿に、プロデューサーが「大学辞めて今すぐうちで働いてくれないかな」なんて、本気なのか冗談なのか分かりかねるセリフを言うくらいだ。

「そっかぁ…確かに、なまえちゃんが来てから調子がいい気がします!」
「彼女は、自分たちが出かけるときに必ず『いってらっしゃい』と言ってくれるからな…もしかしたら、その言葉に龍はパワーをもらっているのかもしれないな」
「俺、事務所に戻ったら、なまえちゃんにお礼を言わないと!」
「はは、それはいいと思うが、ちゃんと事情説明しないと、なまえも意味が分からないと思うぞ」

そう英雄が言ったところで、スタッフから声がかかり、FRAMEの3人は仕事モードへと切り替わった――


◇◇◇


「ただいまー!」

仕事終え、戻ってきた龍が大きな声で事務所に入ると、タイミングよくなまえが通りかかり、にこりと笑って出迎えた。

「おかえりなさい、龍さん」
「あ!なまえちゃん!ちょうどよかった!!」
「あれ、私になにか御用でしたか?」

なまえを探していたような口ぶりの龍に、少し首をかしげてなまえは応じた。

「なまえちゃんにお礼が言いたくて!なまえちゃんのおかげで、今日の仕事もうまくいったんだ!!」
「え?私何かしましたっけ…??龍さんの実力ですよ〜」
「ううん、なまえちゃんのおかげなんだ。なまえちゃんはさ、いつも事務所から仕事に出かけるときに『いってらっしゃい』って言ってくれるだろ?」
「は、はい」

勢い余って前のめりになっている龍に、少し圧倒されるなまえ。
それにも気づかず、龍は興奮した様子で続けた。

「なまえちゃんに『いってらっしゃい』って言ってもらった日は、悪いコトが起きなくて、すっごく調子がいいんだ!」
「えぇ?!そうなんですか…?」

その考えに至った経緯を、先ほどのFRAMEでの会話を踏まえ、伝える龍。
そしてそれを伝え終わると、満面の笑みでなまえの手をとった。

「だから、お礼が言いたくて!いつもありがとう!」

にわかには信じがたい話だったが、龍があまりに嬉しそうにお礼を言うので、はにかみながらなまえは応えた。

「そんなこと言われたの初めてです。私にそんな力があるとは思えないですけど…でも、龍さんに喜んでもらえるなら、嬉しいです」
「ホントなんだよ!だからこれからも『いってらっしゃい』って言ってもらえると、すっごく嬉しいな!」
「はい、それはもちろん!」

「逆にそれくらいしかできないですけど…」となまえが加えると、ぶんぶんと音がしそうなほど龍は首を振った。

「些細なことかもしれないけど、それがすっごくありがたいし、嬉しいんだ!俺、挨拶にはパワーがあるんだなって再認識したよ」

にこにこと笑う龍を見て、なまえは少し考えて、思いついたように口を開いた。

「…それって、直接じゃなくても効果発揮されるんでしょうか?」
「え?」
「あの…もし、私が来ない日に、大事なお仕事が入ったら…直接じゃなく、電話で『いってらっしゃい』って言っても、その効果はあるのかな、って思って…」
「え…お願いしてもいいの!?」
「わ、私もイマイチその『いってらっしゃい効果』というんでしょうか?それはまだ…信じられてないんですけど。少しでも龍さんの力になれたら嬉しいので」

自分にそんな力があるとは思えず、自信がなさげになまえは言うが、その言葉に、龍は嬉しそうに目をきらきらさせた。

「あぁでも…どうせなら、毎日言えた方がいいんでしょうか。それだと効果が薄くなったりするのかな…」
「そこまでなまえちゃんに迷惑かけられないよ!」
「迷惑なんかじゃないですよ!…でも、時間が合わなかったりするから、毎日は難しいかもしれませんね…」

うーん、とまた考え込むなまえを見て、龍はまた嬉しそうに笑った。

「そこまで考えてくれてありがとう!そんなに気にしないで大丈夫だから!…でも、どうしても、って時用に…電話番号、交換してもらってもいいかな?」
「あはは、はいっ!」



そのやりとりをそっと見守っていた英雄と信玄は、そっと笑い合った。

「…微笑ましいな」
「はは、龍に幸運の女神が現れたみたいだな」
「そうだな。よかったな、龍。その女神様、大事にしろよ」




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