Jealousy〜case03:山村賢



なまえさんは高校の同級生だ。
その頃から、ぼくはなまえさんに片想いをしていた。

大学は別々で、接点がなくなって…
なんとか細々と連絡はとり続けていたものの、会う機会はほとんどなかった。

ある時、なまえさんがバイトを探しているという話を聞いて、少しでも接点が持てれば!と思って、自分のアルバイト先である315プロダクションの事務バイトを勧めた。
そうすれば、一緒にいられる時間がつくれる!と、短絡的にその時は思ったのだ。

無事採用されたなまえさんは、3ヶ月ほど前から一緒に事務員として働いている。
学校が違っても、こうやって会えるなんて嬉しくて、仕事も頑張れた。

……けれど。それはあまりに浅はかすぎる考えだったのだ。
なにせ。
ここは、イケメン男性アイドルが多く所属する、アイドル事務所なのだから――!!


「なまえさん、おはよう」
「おはようございます!今から打ち合わせでしたよね。プロデューサーさんは、先に会議室に行ってますよ!」
「ありがとう」

今日も、なまえさんはアイドルのみなさんに囲まれていた。
明るくて、優しくて、可愛くて、気の利くなまえさんは、あっという間にみなさんと仲良くなった。

アイドルのみなさんは、とっても素敵な人たちばかりだ。
容姿だけじゃなくて、性格もいいし…何より、個性的な人がたくさんいる。年齢層も幅広い。

そんな魅力的な男性ばかりのバイト先を、好きな人に勧めるなんて…!
数か月前のぼくのバカ…!!

「…賢くん。どうかしたの?」
「えっ!?あ、いえ、なんでも…」

落ち込んでるぼくに気が付いたのか、なまえさんが心配そうに声をかけてくれた。
うう、優しい。

「作業、大変?手伝うよ」

…そうだった。
ヤキモチ焼いてる場合じゃなかった。
この山ほどある書類を、封筒に詰めて、関係各所に送らなければいけない。
明日の午前中には出さないといけないから、作業自体は今日中にやらなきゃいけないのだ。

「…お願いします」
「はーい、任せて!宛名シールはもう出来てるんだっけ?」
「はい、ここに」
「それじゃ先に、封筒にシール貼っていくね!」

にっこりと笑うなまえさんに癒される。
大げさかもしれないけど、女神だ、とすら思ってしまう。
そんななまえさんが手伝ってくれるんだから、ぼくも頑張らないと…!


そして集中して作業していると、あっという間に時間は過ぎて…

「作業完了…です!」
「わーよかったー!間に合ったね!お疲れ様ー!」

そうやって労ってもらった頃には、外はすっかり暗くなっていた。
事務所には、誰も残っていなかった。
プロデューサーさんも、今日は打ち合わせから直帰だって言ってたもんな…

「手伝ってくれてありがとうございます…本当に助かりました」
「いえいえ!2人っきりの事務員なんだから、助け合わなきゃね!」

…ああ、癒される…
やっぱり、目の前になまえさんが居てくれるって、本当に幸せだ。

「今日はもうこれで終わりだよね」
「はい…って!たくさん手伝ってもらっちゃいましたけど、なまえさんの作業は大丈夫でしたか!?」
「うん、大丈夫だよ!合間にちょこちょこ進めてたし…急ぎの作業もなかったから」
「うう、本当に、ありがとうございます…」
「どーいたしまして!それの発送は、明日でよかったんだよね?」
「はい、明日の朝発送します」
「それじゃ、帰ろうか!」


事務所の鍵をかけて、暗くなった道を2人で駅まで歩く。
ぼくとなまえさんが使っている路線は違うから、なまえさんは駅に着くと「私こっちだから」と路線の看板を指差した。

「待ってください!送らせてもらいます!」
「え、賢くん反対方向じゃない。遅くなっちゃうよ」
「こんな遅くに、女の子を1人で帰せないですよ!こんな時間になっちゃったのは、ぼくのせいですし」
「…ごめん、手間をかけさせちゃうけど、そう言ってもらえると貰えると、嬉しいな。それじゃ、お願いします」

ぼくの言葉に、はにかんだように笑うなまえさん。
…うう、勘違いしてしまいそうだ。

そんな感情を押し留めて、当たり障りない会話をする。
電車に揺られて、電車を降りて、少し歩いて…
それでも途切れない会話が、楽しかった。

「こんないいバイト先を紹介してもらって、賢くんには本当に感謝です!」
「そんな…こちらこそ、なまえさんが来てくれて、本当に助かってます」

ぺこぺこと頭を下げ合うのが面白くなったのか、なまえさんはくすっと笑った。
そこでこの話題を続けてしまったのが間違いだった。

「なまえさん、みなさんと仲良くなりましたよね」
「うん、おかげさまで!みんないい人たちだしね!」
「…ほんと、みなさん、いい人だし、かっこいいし…」
「賢くん…?」

またあの、もやもやとした気持ちが胸を占める。

「…うちの事務所に、なまえさんの好みのタイプの方はいますか?」
「え?」
「大人な男性がタイプなら、DRAMATIC STARSや、S.E.Mのみなさんでしょうか。プロデューサーさんも頼り甲斐がありますよね。年下がタイプなら…High×Joker、Wのみなさんとか…将来有望って感じがしますよね!あ、肉体派の方が好きなら、FRAMEやTHE 虎牙道の…」

なんて、べらべらと口が勝手に動いてしまって…自分が滑稽で、笑いすら起きてくる。

「あ、ご、ごめんなさい!気軽に聞いていい話じゃなかったですよね!」
「…賢くん」
「は…い」
「……間違ってたら、申し訳ない、というかすごく恥ずかしいんだけど…もしかして、ヤキモチ…焼いてくれてる?」
「えっ!?」
「…その反応は、あたり、って考えていいのかな?」
「………そう、です…」

よりにもよって、張本人であるなまえさんに図星を指されてしまった。
どうにもぼくは、わかりやすいらしい…
…恥ずかしくて穴に入りたい。
そう思って肩を落としていたら…

「…大丈夫だよ。私のタイプは、賢くんだから」

ぼそりと呟かれた一言に驚いてなまえさんを見れば、耳まで赤くしたなまえさんが居た。
今の、聞き間違いじゃ…ない、ですよね…?
それって…それって!?

「あ、え、ええと、私、ここのマンションだから!!送ってくれてありがとう!!!それじゃあね、おやすみ!!!!」
「ええっ!?お、おやすみなさい…?」

気付けばなまえさんの家のマンションの前だったらしく…
脱兎の如く駆け出して行ったなまえさんに置いて行かれて、暗い道にぽつんと1人佇む。
……どういう、こと、なんだろう…?

………ぼくに都合よく解釈すれば、それは。
でも、こんな幸運が、起きていいんだろうか。

何年も続けてきた、片想い。
…もしかしたらこれが、気持ちを伝えるチャンスなのかもしれない。

……明日、仕事を早く終わらせて、なまえさんに気持ちを伝えよう…!!

そう決意したぼくが我に返ると、隣にはお巡りさんがいて。
……人生初の、職務質問を受けてしまったのだった……


で、でも!くじけないぞーーー!!!!
なまえさんに、ぼくの想いを、伝えるんだーーーー!!




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