お見合い狂想曲〜山下次郎編〜



「プロデューサーちゃん…あのさ。お見合いをするって、本当?」

このところ、315プロダクション内で囁かれる噂。
その噂のせいで落ち着かないアイドルが多数いるため、その噂の真偽を確かめるべく、次郎はプロデューサーを会議室に呼び出して、話を切り出した。

「うっ…!どこからそれを…!?」
「…ってことは、本当にするんだ?」
「………はい…私は全く望んでいないんですけどね!!」

プロデューサーは、強い語気とは裏腹に、がっくりと肩を落とした…
と思うと、一瞬の間の後、ひらめいた!という風に再び勢いよく身を起こした。

「そうだ!次郎さん!!お仕事お願いしていいですか!!」
「な、なに…この流れで?」
「私の彼氏役を一日してください!私に彼氏が実在すると確認できれば、親も黙ると思うので!」
「え、仕事って…プロデューサーちゃんの彼氏役、ってこと?」
「はい!個人的なお願いで大変恐縮ですが、ちゃんと正当な報酬をお支払します!」
「ええ〜…ご両親のこと、騙しちゃっていいの、それ…」
「私の精神衛生上必要なことなので、手段は問いません!『相手が担当アイドルだから絶対に大事にするな、今は大事な時なんだ!!』…と言えば、しばらくは時間を稼げると思うんです!」

前のめりなプロデューサーに気圧されて、次郎は腰が退けつつも頷いた。

「うーん…まあ、プロデューサーちゃんにはお世話になってるし、いいけど…」
「やったーー!!ありがとうございます、次郎さん!じゃあ善は急げです!次のオフ、空いてるところ教えてください!」


そうして、次郎の暇な日を聞き、帰宅して速攻で両親と予定を調整して、プロデューサーは一息ついた。
次郎にも、日が決まったことを連絡し、これで決行日は確定だ。

となると次に考えなければいけないのは、次郎への支払いについでである。

(今の次郎さんを、お芝居の仕事で一日拘束するとなるとー…このくらいで。必要経費も含めると…)

プロデューサーとして、冷静に電卓を叩く。
そして出てきた金額に、思わずため息をついた。
プロデューサーとしては、あくまで適正価格をはじき出したが…個人として支払うには、なかなかの額である。

(いや、これでお見合いしろ攻撃が止むなら、安い安い!それよりも、そのくらい知名度のアイドルに次郎さんがなったことを喜ばなくっちゃ!)

そう前向きにとらえ直すと、プロデューサーは当日に向けて準備を進めたのだった。



――そして、両親への顔合わせ当日。

次郎は完璧な恋人役をこなしてくれた。
プロデューサーの両親も、この方であれば…と納得し、お見合いを勧め続けたことを謝られた。
そして、母親は「こんないい人、絶対逃がしちゃダメよ!!」と釘を刺して帰って行った。
嘘の関係なので、やや心苦しくもあったが、これでしばらく色々言われなくて済む…と、プロデューサーはほっと胸を撫で下ろした。

両親を駅で見送り、乗り込んだ電車が見えなくなったところでようやく、プロデューサーと次郎は緊張を解いた。
2人で同じようなため息をつき、思わず顔を見合わせて苦笑した。

「今日は本当にありがとうございました!お仕事でお願いしたのに、うっかりときめいてしまうくらい、素敵な彼氏でした!!」

プロデューサーはそう言って、次郎に頭を下げた。
それくらい、次郎の恋人役は完璧だったのだ。

「それで、今日の分のお支払い、振込と手渡し、どっちがいいでしょうか?金額は、冷静に計算したので大丈夫だと思います!」

と真面目に切り出すと、次郎は「えっ!」と驚きを見せた。

「まさか…それ、本気にしてたの?」
「え?だって、私のプライベートな問題に、巻き込んじゃったんですし…当然の対価かと」
「いやいや、さすがにこんな事でプロデューサーちゃんからお金もらえないよ…今日は役得だったし、ね」
「え…?」

次郎が少し困ったように笑うと、プロデューサーは戸惑った。

「…プロデューサーちゃん、この後時間ある?」
「は、はい、ありますけど…」
「じゃあ、これから、おじさんとデートしてみない?」
「…え?」
「いつか恋人『役』を卒業できるように…おじさん頑張るからさ」
「えええ!?」

そう言って、少し頬を染める次郎から差し出された手に、プロデューサーは戸惑いながらも、吸い込まれるように手を伸ばしたのだった――




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