欲しいのは



「翼さんに、折り入ってお願いがあります…!」

ソロの仕事終わりに、車に乗り込みしばらく走ったのち。
付添いに来ていた、プロデューサーであるなまえから深刻そうに言われ、翼は思わず姿勢を正した。

「なんでしょうか…!?オレにできることなら、何だってします!」
「本日の仕事はこれで終わりなんですが…これからお時間ありますか?」
「はい、仕事の後は空いてます」
「実は…付き合っていただきたい場所が、あるんです」

今までに見たことがないくらい真面目な顔をしたなまえの様子に、ゴクリ、と喉を鳴らす翼。
そんな翼が、なまえに連れてこられたのは……



――回転寿司だった。

「すいません、翼さんにしか、こんなこと頼めなくて…!」
「え、ええと…?」

状況が呑み込めない翼に、なまえは申し訳なさそうに縮こまった。

「その、ここのお店の、ゲームと言うか、景品をもらえるシステム…ご存知ですか?」
「え?は、はい。家族で何回か来たことがあるので…食べ終わったお皿を5枚入れて当たりが出ると、景品がもらえるんですよね。弟たちが好きなんです」
「それです!…実は、欲しい景品が、今日まででして…こっそり通ってチャレンジしてたんですけど、欲しいのが全然でなくて…翼さんに、ご協力をお願いできないかな、と…」

大人なのにムキになっていて恥ずかしいんですけど、となまえが消え入りそうな声で言うと、翼は安心したように息を吐いて笑った。

「何か大変なことに巻き込まれてるのかなって思って、ドキドキしちゃいました!ふふ、もちろん協力しますよ!」
「あ、ありがとうございます…!」


そんな話をしている間に案内され、2人は席についた。
机を挟んで向かい合わせに座り、おしぼりで手を拭きながら翼が尋ねた。

「プロデューサーが欲しいのは、どんな景品なんですか?」
「えっと…このキャラクターなんですけど…」

なまえは、キャラクターの説明のため、自分のスマホを開いて見せた。

「“のりものわんこ”って言うキャラクターのシリーズで…子供に人気のある、働く乗り物と犬が融合したようなキャラクターでして」
「へえ〜…こんなキャラクターがいるんですね。初めて知りました」
「どの子も可愛いんですよ!ええと、それで…このシリーズの、小さなフィギュアが景品なんですけど…新幹線と、パトカー、消防車、バスのキャラクターは揃ったんですけど、最後の飛行機の子だけが出なくて…」
「飛行機のキャラクターもいるんですね!なんだか親近感沸いちゃいます」
「あー…はは!そ、そうですよね!!」
「それじゃ、ますます頑張らないと!」

少し挙動不審になったなまえの様子には気付かず、翼は「サイドメニューは今日はやめて、当たるまではお寿司をいっぱい食べなくちゃ!」と呟いて、流れるレーンを真剣に見つめていた。
その様子に、なまえは頬を緩め、お茶の準備をするのだった。

そして、あっという間にお皿は積まれていき、5枚溜まるごとにゲームにチャレンジするものの、なかなか当たりが出ずにいた。
元々あまり食べる方ではないなまえなりに頑張ったものの、すぐに限界はやってきてしまい…

「うう…私はもうギブアップです…翼さん、あとはお願いします…!」
「任せてください!プロデューサーのために、オレ頑張りますから!」

後を託された翼は、メラメラと闘志を燃やした。

その後、何度か当たりは出たものの、目当てのものは出ず…
なまえに諦めの色が見え始めた。

店員や周囲の客がちらちらと見てくるほどの枚数を重ねた頃。
何度目かの当たりが出て「今度こそお願いします…!」と祈りながらなまえがカプセルを開けると、そこには。

「やっ――!!!」

大声を上げかけて、慌てて声のボリュームを下げたなまえ。
翼が「当たりましたか!?」と声をかけると、なまえは嬉しそうに目を輝かせて翼の手を握り、こくこくと首を縦に振った。

「ありがとうございます…!」
「よかったぁ!プロデューサーのお役に立ててよかったです」

ふわりと笑う翼に手を握り返され、なまえは顔を真っ赤にして視線を逸らした。

「だ…大事にします」
「はい!…それじゃあ、最後にあと5皿食べて終わりにしますね」
「え?あ、は、はい」

まだ食べられるんだ…!というなまえの驚きをよそに、翼は宣言通り追加で5皿を平らげた。
すると、また当たりが出たので、なまえがカプセルを開けると、そこには2つ目の飛行機のキャラクターが入っていて…2人で顔を見合わせて苦笑した。

「あはは、こういうことってあるんですね」
「ほんと、そうですね…あの、もしよかったら、これは翼さんがもらってください」
「え、いいんですか?」
「はい。私は1つもらえただけで嬉しいので」
「じゃあ遠慮なくいただいちゃいますね。ふふっ、飛行機のキャラクターで、しかもプロデューサーとお揃いだなんて嬉しいです」

そう微笑む翼に、なまえは再び顔を真っ赤に染めるのだった。

そんなこんなで、無事目的を果たした2人。
会計の時に、どちらが払うかで揉めかけたものの、翼にやんわりと「いつもお世話になってるお礼に、かっこつけさせてください。ね?」なんて言われてしまい、なまえは顔を赤らめ、観念したように財布を仕舞ったのだった。



そして、後日。

なまえと翼がお茶を飲みながら談笑をしていると、ふと思い出した、という風に翼が話を変えた。

「そういえば、この間の飛行機のキャラクターなんですけど」
「あ、はい。その節は大変御世話になりました」
「いえいえ!あのフィギュア、家で自分の机の上に飾ってるんです。そうしたらそれを見た家族に、オレにそっくりなキャラクターだね、なんて言われちゃいました」
「ぶっ!!!!!!」
「わあっ!?だ、大丈夫ですか、プロデューサー!?」

飲んでいたお茶に盛大にむせて、げほげほと咳き込むなまえの背を慌ててさする翼。
その真相を知る日は………近い、かもしれない。




Main TOPへ

サイトTOPへ